第16話
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着いた先は、のどかな田園風景をたたえる、緑あふれる場所だった。
まだ春先には早い時期ではあるのだが、周りの山々は雪深いにもかかわらず、平地は緑で溢れている。
「へえ、いいところね。」
ナンバーファイブは、気持ちよさそうに深呼吸しながら周りを見回す。
「はい、ここの人たちは、農作物の収穫をあげる力があるんですよ。
ナンバーファイブさんも知っている、マザーさんの血を受け継いだ、子孫たちの様ですからね。」
「へえ、マザーの血を・・・。」
ハルが、借りフラワーを出して、地面に植えるのを見て、彼女は周囲を見回しながら頷く。
そうして、借りフラワーに炎の初級魔法を覚えさせると、ハルたちはその場を離れた。
ハルたちが着いたのは、黄泉の穴のちょうど真下あたりで、町からは十数キロ離れた場所だ。
いつも瞬間移動の場所に使っている、王宮前だと迷惑がかかるといけないので、とりあえず町から離れた場所を目指したようだ。
球体が、魔法を感知して飛んでくる前に、走って場所を移動する。
瞬く間に、王宮前に達する。
ものすごいスピードだが、あくまでも人力によるものなので、球体には感知されにくい様だ。
ハルたちは、そのまま王宮の中へ入って行こうとする。
王宮前を警護しているのは、見慣れた兵隊たちで、ハルの姿を見かけると、驚いたように一人が中へ駆け込んで行った。
そうして、残った警護の兵士は多少戸惑いながらも笑顔で、ハルたちをそのまま王宮内へ入れてくれた。
ハルたちが広い王宮の通路を歩いていると、その奥から見たことのある兵士がやって来た。
「や・・・、やあ、無事だったんだね、ハル君。良かった・・・。」
黄金色の甲冑に身を包んだ兵士は、ハルの顔を見るなり、嬉しそうに微笑みかけてきた。
「直接ではないけれど、ハル君やマイキー姫達の姿が映像に映し出された後、すぐに画面全体が眩いばかりの光に包まれて・・・、そ・・・、その後は破壊されて焼け焦げた残骸しか映し出されなかったから、当然、全滅したものと思っていたよ。
でも、ハル君が生きているのなら、マイキー姫も無事である可能性は、あるという事だね。
き・・・、希望が持てるよ。」
ムーリーは、カチャカチャと金属音を響かせながら、ハルと一緒に歩き出した。
闇の王子との戦いでヒーローとして認められ、兵士として王宮に戻ってきたのだろう。
仰々しい出で立ちは、相変わらずだ。
「へえ、ハル君は色々な所に仲間が沢山いて、みんなハル君が無事な事を喜んでくれて、本当に人気者だと思っていたけど、ここではさらに強烈な人気だね。」
その光景を眺めていたナンバーファイブが、感心したように呟く。
「違いますよ。
この人は現在行方不明になっている、マルニーさんていう人のお兄さんで、同じく行方不明のマイティ親衛隊長の弟であって、マイキーさんやスターツ王子、ミンティア王女のいとこでもあるんです。
僕が生きていることで、その人たちも生きていることに希望が持てるのが、うれしいんでしょう。
釧路の村でナンバーファイブさんが泊めてもらった、最長老の三田のおじいさんのようなものですよ。」
ハルは、横を歩いているムーリーの顔を、ちらりと見上げながら説明した。
「ああ、そうなの・・・。希望を持ち続けるのは、決して無駄な事ではないわ。
真実を知るまでは、決してあきらめないことよ。」
「そ・・・、そうだね・・・、ところでハル君、この方は?」
ムーリーは感激の涙を拭きながら、ナンバーファイブのことを尋ねてきた。
ハルが、彼女に出会ったいきさつなどを、かいつまんで歩きながら説明する。
「へえ、そうなのかい・・・。
これからもよろしく。」
そう言って、ムーリーは手を差し出した。
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。」
そう言いながら、ナンバーファイブは立ち止ると、スカートの裾を広げて、腰をかがめながらお辞儀をした。
王宮詰の兵士の正装とも言える甲冑姿のムーリーに対して、メイドとしての作法のつもりだろうか。
「こ・・・、国王様に会って行くのかい?その為に来たのだろ?」
ムーリーは、ハルと共に王宮の通路をひたすら奥へと歩き続ける。
広間を抜けて、奥の謁見の間へそのまま通される。
そこでは、既に国王が待ち構えていた。
「ハル君、久しぶりだね、元気そうで何よりだ。
君が無事でいてくれたことは、我々にとって希望を捨てないで済む、力強い証の様だよ。
わが国の農民はじめ、様々な特殊能力を持った国民たちは、恐竜人たちにとっても、利用価値が高いようだ。
我々には、比較的自由に各地を移動することができる特権を与えられている。
つまり、各地を回って収量をあげる様、努力をしろという事なのだ。
だから、日本から派遣されたままになっている、馬吉さんはじめ魔物のリーダー格たちと一緒になって、開梱を継続している。
これが、我々の子孫たちが繁栄していくための準備ではなくて、恐竜人たちの為というのが、少し悔しいがね。」
国王は、やさしい笑顔で近況を説明してくれた。
「へえ、そうですか。日本では、隣町に行く事さえも禁じられていて、大変不自由なようです。」
「その様だね、S国にも確認しているが、自由に移動を許されているのは、我が国の国民だけのようだ。
だから、我々が各国の連携の懸け橋になろうと、密かにネットワークづくりを始めようとしている所だ。」
国王はそう言いながら、笑みを浮かべた。
「そうですか、それは助かります。
それはそうと、この国では恐竜人たちと直接会って、指示など出されていますか?
日本では、監視役の鬼か球体や円盤などの機械しか見たことはないそうですけど。」
ハルが、この国の管理状況を訪ねる。
「この国にも監視役の鬼が3名ほど常駐している。
その他には魔法を感知する球体と監視と攻撃を行う円盤が多数飛び回っているが、そう言えば、恐竜人には一度も出会ったことはない。
恐らく、S国の首脳たちも出会ったことはないだろう。
表舞台には一切顔を出さず、陰で指示を出しているだけの恐竜人たちということになるかの。」
国王がハルの問いかけに、頷きながら答える。
「そうですか、何か怪しいですね。
どうして、恐竜人たちが表へ出てこないのか、ずっと海中に居たから、太陽がまぶしいとかですかね、その辺を調べてみる必要性がありそうですね。
じゃあ、僕たちは南極の黄泉の穴から黄泉の国へ入って、鬼たちの居住区奥の報告板というものを調べて見ます。
もしかすると、恐竜人たちとの連絡方法が分るかもしれませんから。」
ハルはそう言って、国王に別れを告げる。
「うーん、そうか・・・。
ぼ・・・、僕も一緒に行って、恐竜人たちとの戦いに参加しなければならないところなんだろうけど、でも今この国を守れる兵士たちが、僕の外には居ないんだ。
だから、僕はハル君と一緒に行く事は出来ない。
残念だが許してくれ。」
ムーリーはそう言って、軽く頭を下げた。
「え・・・、ええ・・・、まあ大丈夫ですよ。
今の所、これといった作戦もありませんし、ムーリーさんにはこの国をしっかりと守っていただいた方が、いいと思います。」
ハルとしても、最初からムーリーが戦いに参加することに期待はしていなかったので、この言葉に驚くことはなかった。
むしろ、堂々とここに残ると宣言してくれた方が、ハルとしても対応が楽だった。
なにせ、マイキーがらみでなければ、まず動く人ではないので、今の状況では戦いの兵力として勘定に入れにくいのだ。
「じゃあ、皆さんもお元気で。」
そう言い残して、ハルたちは謁見の間を後にした。
「あの、ムーリーさんって人、まるでハル君に匹敵する力があるようなことを言っていたけど、やっぱりマザーの血を受け継いでいるから、この国には強い魔術者がいたという事なの?
そんな事、と・・・トランさんからは聞いていなかったけど。」
王宮の外へ出たところで、ナンバーファイブがムーリーの態度を不思議に感じていたようで、問いかけてきた。
なにせ、仰々しい甲冑に身を包んだ、ただのやさおとこにしか見えないのに、自分があの国を守っているとでも言わんばかりの態度であったからだ。
「うん、ムーリーさんって人は、何を間違ったのか、生きたままナンバーシックスの魂に乗り移られた人なんです。
竜神様に協力してもらって、ナンバーシックスの魂だけを水晶玉に封印したんだけど、その後で、ナンバーシックスが持っていた魔法の力をすべて引き継いでいることが、分ったんです。
だから、今ではこの国で最高の魔術者のはずです。」
「へえ・・・、ナンバーシックスもドジを踏んだものね。
何も、あんな人の体に乗り移らなくても・・・。」
ナンバーファイブは、残念そうに首を振った。
ハルたちは王宮を後にすると、そのまま黄泉の穴の所まで、一瞬で駆け戻った。
そこでは地面が黒焦げになっていて、既に借りフラワーが攻撃されて、丸焦げになったことが明らかだった。
周りを見回しても、球体や円盤の姿は見えない。
魔法の感知が無くなったので、引き上げたのだろう。
ハルはもう一度借りフラワーを出すと、炎系の魔法を唱えて借りフラワーに覚えさせた。
「じゃあ、行きましょう。」
そう言って、ハルとナンバーファイブは中空へ掻き消えた。
着いた先は、一面氷の世界、南極だった。
「トン吉さんたち、特訓は順調に進んでいるかな。」
そう言いながら、黄泉の穴を目指す。
いくら南極までは球体が飛んできていないとはいえ、用心の為に、黄泉の穴や7聖人たちの基地があった場所からは、離れた場所を瞬間移動ポイントとしたのだ。
走って黄泉の穴へ到着すると、洞窟の中の地面の“出てきたらすぐに入り直す”という文字の横には、何本もの線が引かれていた。
「うーん、この線の分だけ入り直したって事かな?
そうすると、もう30回入り直していることになるね。」
ハルは、感心するように地面を見つめる。
「そうね、どうなったのか楽しみよね。
なにせ、魔物って人間の魂と、他の動物たちとの魂の集合体だって言っていたわよね。
天国や地獄が満杯で、地上にあふれかえった魂たちがくっついて実体化したものだって。
その魂の集合体が、黄泉の国で修業して成長したらどうなるのか、人間とはちょっと違った様子になると思うのよね。」
ナンバーファイブは、浮き浮きしながら洞窟奥の壁をごそごそとまさぐっている。
「開いた・・・行くわよ。」
そう言いながら、ナンバーファイブは壁の中に消えて行った。
ハルも急いで後に続く。
「さあて、どの辺に居るのかしらね。」
暗闇の中を駆けて行き、一瞬で断崖絶壁にかかる吊り橋の前に辿りつく。
「うーん、まだ先でしょうね。」
そう言いながら、ハルは大きくジャンプした。
そうして、ひとっ飛びで断崖を越える。
続く、極寒のダンジョンにも、トン吉たちの姿はなかった。
更に、先へと進んで行く。
「あ、あれじゃない?」
ナンバーファイブが、灼熱のダンジョンの遥か遠くの方にうごめく影を見つけて指を指す。
それは、遥か遠くに居るようだが、はっきりと目に入る大きさだった。
ハルたちは、灼熱の温度をものともせずに、一瞬でその影に追いつく。
「と・・・、トン吉さん・・・、一体どうしちゃったの?」
それは、ハルが遥か見上げる程、十数メートルはありそうな巨大なトン吉の姿であった。
「これはこれは、ハル坊ちゃん・・・、しばらく見ないうちに、随分と小さくなられたような気が・・・。」
トン吉は、足元の小さな存在を見下ろしながら、懐かしそうに笑顔で答える。
「僕が縮んだんじゃないよ、トン吉さんが大きくなったの。
それに、レオンはどうしたの?」
ハルはほとんど真上を見上げながら大声で話しかける。
「レオンなら、ここに居ますよ。」
トン吉の傍らの空間が、瞬時に色を変えてトカゲ系魔物が出現した。
レオンが周囲と同化していたようだ。
レオンも十メートルほどの大きさであり、遥か見上げる大きさになっていた。
「二人とも、大きくなりすぎだよ。」
ハルは呆れた様に叫ぶ。
「そ・・・そうですか・」
『プシュー』空気が抜けるような音がして、トン吉もレオンも見る見るうちに縮んで小さくなっていく。
そうして、すぐにいつもの大きさの彼らに戻った。
「いやあ、我々だけで特訓を続けていたもので、周囲との大きさのバランスが分らなくなっていました。
どうやら、力をつけるたびに、あっしらは大きくなっていく様ですね。
意識して大きくなったわけではありませんが、体の大きさを縮めるのは簡単です。
これで、体を大きくしたり小さくしたりするコツが分りました。」
トン吉は、頭を掻きながら話した。
「レオンも、体の大きさを自由に変えることができるようになったようです。
これで、多くの人たちを、レオンの影に隠して、姿を見えなくさせることができますよ。」
そう言って、レオンは少し自慢げだった。
「そう言えば、魔法は?炎系や水系の魔法の外に、光系や治癒系魔法など、色々な魔法を取得できた?」
「いえ、あっしは元からの炎系と水系の魔法しか使えるようにはなっておりません。
但し、威力は格段に向上しています。」
『ゴオッ!』トン吉が炎を吐きだすと、その炎は真っ白な灼熱の高温を帯びていて、更に強大だった。
「まだまだ、温度を上げることは出来そうです。
恐らく、何万度と言った単位での超高温の炎を出せますし、水の魔法に至っては、一瞬で辺りを水で埋めてしまうくらいの水量を出せます。
どうやら、あっしら魔物に関しては、特訓をしても使える魔法は増えないようですね。
個々の威力が向上するくらいの様です。」
トン吉は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「い・・・いや、とんでもないよ。
すごい威力じゃない。
十分に恐竜人たちとも戦えると思うよ。」
ハルは、感心したように頷いた。
「じゃあ、特訓はここまでにして、次の段階に進みましょう。
地獄ステージの向こうまで、ダッシュで行くわよ。」
ナンバーファイブはそう言うと、一瞬でその姿を消した。
「じゃあ、僕らも。」
ハルもその後に続く。
トン吉とレオンは、再び巨大化して、高速で駆けて行った。




