第15話
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食事を終えて、ロビンに別れを告げると、ハルたちはビルの裏手にあるグラウンドへ降りて行った。
そうして、富士の黄泉の穴近くへ瞬間移動した。
勿論、借りフラワーによる陽動作戦は、忘れずに行っておく。
「えーっと、風穴の出口の左側って言っていましたよね。」
ハルがそう言いながら、風穴の脇へ足を運ぶ。
「そうよ、このへん?」
ナンバーファイブは駆け足で、急こう配を昇ると、穴の脇の方で足元を凝視する。
「あっ、あった・・・、これだよね?」
それは、大きな剣が結び付けられた、四角い箱だった。
「はいそうです。早速開けて見ましょう。」
そう言って、ハルは箱を包んでいる布を解こうとする。
「駄目よ、水晶玉に魂を封印されちゃったから、実体がない訳でしょ?
こんなところで開けたら、魂だけどこかへ飛んで行ってしまうかも知れないわ。
黄泉の国へ行ってから、開けましょ。」
そう言って、ナンバーファイブは首を振る。
「は・・・はい、分りました。」
ナンバーファイブの時のように、水晶玉に手を触れれば、トランが姿を現すのではないかと思っていたハルだったが、そういえば、水晶玉に封印された鬼たちは、誰か乗り移らなければいけなかったことを思い出した。
「じゃあ、これからすぐに南極へ向かいますか?」
「うん、いいけど・・・、もうこれで行くべきところは全て行った?
だったらいいけど、まだ行くところがあるんだったら、そっちへ先に行ってからの方がいいわね。
なにせ、鬼たちの居住区の奥にも何かよくは判らなかったけど、報告板というものがあるって言っていたでしょ。
黄泉の国の中が、恐竜人たちの大陸と通じているのかも知れないから、先に現世での用事を済ませてから入った方がよさそうね。」
ハルの問いかけに、ナンバーファイブは意外と冷静に答えた。
先ほどとは違い、今は落ち着きを取り戻している様子だった。
トランのものと思われる、封印の水晶玉を確保したからだろうか。
思えば、ハルの仲間たちの事に関しては、色々と励ましたりしてくれていたのに、彼女だって仲間たちが全ていなくなって、一人ぼっちの身の上だったのだ。
ハルに関しては、地元に残った仲間たちとの再会は果たせたのだったが、ナンバーファイブに関しては未だに一人きりである。
トランの事も心配だろうが、それでもこれからの進行を考えて、効率を考えながら行動しようとする、冷静さを取り戻した様子である。
ハルは、そんな彼女の態度を尊敬するとともに、見習おうと心に決めた。
「そうですね、日本での用事はあらかたすみましたが、まだ、チベットの寺院とヨーロッパの国に知り合いがいるので、そこへは行ってみたいと思っています。」
ハルも、なるべく効率よく進めたいと考え、トロンボがいる九州へ行く事はあきらめた。
ダロンボが行かない方がいいと呟いていたのは、あれはハルに向かって行っていたのではないかと、解釈したからだ。
「じゃあ、そこへ行ってみましょっと、その前に・・・。」
ナンバーファイブは、鬼の能力でしまっておいたスーツケースを取り出すと、中に詰まっていた何着ものメイド服を取り出した。
そうして、開いた空間に封印の木箱を入れた。
「へへえ・・・、現世じゃ鬼の力で収納することは出来ないけど、一度収納した大きさのものは現世で何度でも出し入れできるのよ。
だから、このスーツケースは、ほれこの通り。」
そう言いながら、ナンバーファイブは木箱を入れたスーツケースを消し去った。
「ハル君、悪いけどハル君のカバンを貸してくれない?」
「は・・・はい、これですか?」
ハルが自分が肩から掛けているリュックをナンバーファイブに差し出すと、ナンバーファイブは中身を取り出して、そこに自分のメイド服を詰めだした。
「ああっ・・・?何をするんですか?
僕の着替えとか非常食・・・。」
ハルが慌ててナンバーファイブを止めようとする。
「いいじゃないの、男なんだから、着替えはパンツ一枚とシャツ一枚あれば十分よ。
それに、食料はいつでも出せるから持ち歩かなくてもいいでしょ。
もったいないから、缶詰の口を開けておけば、森の動物達が食べてくれるわよ。」
ナンバーファイブはそう言いながら缶詰の蓋を開けて、岩場に並べたハルの服の上に置いた。
「ああっ・・・、僕の着替えも・・・。」
「男なんだから、ぐずぐず言わない。
さすがに教科書とか勉強道具は勘弁してあげたんだから、感謝しなさい。
さあ、チベットの寺院とかに行くわよ。」
そう言って涙ぐむハルを無理やり立たせて、瞬間移動の体勢に入ろうと、ハルの腕にしがみつく。
ハルは渋々瞬間移動した。
「あれ?何もないじゃない・・・。」
着いた先でナンバーファイブが、ぐるりと周囲を見渡すが、周りには建物どころか、道路など人工的なものが一切見当たらない。
「はい、ここの寺院は人里離れた、断崖の中腹にあります。
もしかしたら、恐竜人たちに見つかっていない可能性があるから、球体や円盤を引き寄せるような魔法は、なるべく遠くの方がいいと思って、ここへ来た時に歩いた通り道へ瞬間移動してみました。
寺院は、ここから3日ほど歩いたところだったんですが、今なら1時間もかからないでしょう。」
ハルは、少しほほを膨らませながら、ナンバーファイブの顔を見ようともしないで淡々と答える。
「あれ?怒ってるの?
そりゃ、ハル君の荷物を減らしたのは悪いと思っているけど、か弱い女の子の大事な衣装なんだから、許してね。」
ナンバーファイブは、すねているハルに対して、両手を合わせて笑顔で詫びる。
「ふうん・・・、ナンバーファイブさんって、か弱いっていうイメージではないですけどね・・・。」
そう言いながら、まだハルはむくれているようだ。
「だから・・・御免って言っているでしょ、いい加減、機嫌直して。」
そう言いながら、ナンバーファイブはハルを体ごと抱き寄せる。
中学3年になり、本来ならあと2ヶ月ほどで高校生のハルは、それなりに成長してきているが、それでも同年代の平均では背はそれほど大きい方ではないのだろう。
丁度、ハルの顔はナンバーファイブの大きな胸の高さになり、引き寄せられると、その巨乳に顔が埋まってしまうことになる。
「う・・・うわっぷ・・。」
「どう・・・?許す気になった?」
苦しそうに両手をばたつかせるハルに、ナンバーファイブはやさしく声を掛ける。
「わ・・・分りました・・・、許しま・・・す、許しますよ。ぷふー。」
ようやく、その柔らかな圧迫感から逃れたハルは、耳たぶまで真っ赤にしながら、荒い息を整える。
「えへへ・・・、ハル君は、今のあたしにとって、たった一人の仲間なんだから、嫌われると困るのよ。
だから、機嫌直してね。」
そう言いながら、彼女はパチンとウインクをした。
「じゃあ、行きますよ。ついて来てください。」
仕方なくハルはそう言いながら、小さな借りフラワーを出すと地面に植え、弱い氷系の魔法を唱えた。
そうして、猛スピードで走りだした。
勾配のきつい山道をものともせずにかけて行くと、やがて見上げる程の断崖絶壁に作られた寺院の下に到着した。
「あそこです。」
ハルは寺院を指さすと、飛行能力で飛び上がった。ナンバーファイブも後に続く。
「よう、今日は珍しい来客があるはずだから、出迎えてくれって師匠様が言うんで、待っていたぜ。
ハルって言ったっけか、あの時は世話になったな。
それと・・・、おまえはナンバーファイブ・・・、信じられん、おまえだけは無事だったという訳か。」
岩場に突き出す様にして設けられた、木組みの足場に到着すると、既に待ち構えていた男が声をかけてきた。
誰あろう、ナンバーフォーが乗り移った人だ。
「うん?誰よ、あんたは・・・、東洋人に知り合いはいないはずだけど?」
ナンバーフォーの姿を知らない彼女は、怪しげな目つきで彼を見つめる。
「おれだよ、ナンバーフォーだ。
闇の王子に吸収され、マザーのおかげで魂は解放されたが、肉体は滅んじまったので、仕方なく死んだ奴の体に乗り移ったんだ。
今では、この体の持ち主の家族と共に、ここで暮らしているという訳さ。」
ナンバーフォーは懐かしそうな目で、ファイブの姿を見つめる。
「そ・・・そうなの、そう言えば、ハル君にフォーの事を聞いていたような気が・・・。
フォーが闇の王子に吸収された時には、すでにあたしは玉になっていたから、その辺の事情は知らないのよ。
あたし達仲間の事は、全て通じ合っていて自分の経験のように感じあえたから、他の人に様子を伝えられても、うまく飲み込めないようね。
でも、元気そうでよかったわ・・・。」
ナンバーファイブはようやく笑顔で、フォーの顔を見つめた。
「ま・・まあ、これが元気と言っていいものならな。」
そういいながらナンバーフォーも、笑顔を見せた。
「まあ来てくれ、ハル君には師匠様も会いたがっている。」
ハルたちは、ナンバーフォーに案内されて、寺院の中へ入って行った。
広い板張りの瞑想の場の奥の方で、一段高い位置に鎮座している、胸まで伸びた真っ白なあごひげが印象的な老人の所へ、ナンバーフォーはハルたちを案内して行った。
「よく来てくれたと、お師匠様は言っている。
そうして、南の場所に、次へ通じる通路があるだろうと告げている。」
ナンバーファイブは、高僧の傍らに行き、通訳を務めてくれている。
「へえ・・・、南極の黄泉の穴が次へ通じる通路という事ですよね。
そうすると、ダロンボさんたちが言っていた、居住区の奥にあるという報告板というのが怪しいですよね。」
ハルが頷きながら答える。
「簡単には通じないが、何とか秘密を探れと言っている。」
「そうですか、色々と試してみます。
それはそうと、この寺院は恐竜人たちには、まだ見つかってはいないのですか?
球体や円盤など、この辺では見かけませんでしたけど・・・。」
今度はハルの方が尋ねる。
「ああ、そうだな、まだ見つかってはいない。場所が場所だからな。
しかし、お師匠様は、見つかるのは時間の問題だと言っている。
そうなった時に慌てなくてもいいように、秘文書などは誰にも見つからない場所に、隠している最中だそうだ。」
「へえ、秘文書ですか・・・。」
ハルが、感心するように頷く。
なにせ、召喚用の護符を作り出すような寺院だ。
その他にも、様々な強力魔法の術が伝えられているのかも知れないのだ。
「この地は問題ないから、すぐに次なる地へと向かうように言っている。
俺にも一緒に付いて行けと言っているんだが・・・、俺はこの地に残って家族を守ると言って断った。」
そう言いながら、ナンバーフォーは頭を掻いた。
「まあ、いいですよ、ナンバーフォーさんはここでみんなを守ってくれていれば・・・。
それよりも、もう日本から食料など届かないはずですけど、食料は大丈夫ですか?」
ハルは気になっていたことを尋ねる。
なにせ、日本では都市間の移動ですら禁止されているのだ。
外国であるこの地まで、食料を届けることは出来ないだろう。
「ああ、食料に関しては、俺の家族などが来て作物の収穫や家畜などの肉が少しは増えた。
それでも足りない分は、俺が何とか鬼の力で出している。
鬼の力が無尽蔵なのかどうかは知らないが、今のところは何とか足りているようだ。
まあ、ここに居る皆は多少の事は我慢してくれるから、本当に最小限の分しか出さないしな。」
そう言って、ナンバーフォーは笑った。
ここの食料事情から言っても、ナンバーフォーはここを離れるわけにはいかないだろう。
「分りました。
お師匠様が言う南の地というのは南極の事でしょうけど、まずはヨーロッパの国へ寄ってから向かいます。」
そう告げてから、ハルたちは寺院を後にしようとする。
「ああ、次へ向かう前に、まずはここで体を休めて行きなさいとも言っている。」
ナンバーフォーに言われて、そう言えば、朝から色々な所を回って、食事はしているけど休んでいないことに気が付いた。
ハルもナンバーファイブも、案内された部屋で仮眠をとることにした。
そうして、翌日の朝になって、前日瞬間移動してきた場所へ、駆けて戻ってきた。
「へえ、ここの借りフラワーは、そのままですね。」
借りフラワーは、一晩中氷の魔法を唱えていたのだろう。
既に周り中を凍りつかせて、自分もその冷気で凍りついたようだ。
ハルは借りフラワーを摘み取ると、ナイフで小さく刻んだ。
「この地までは球体も来ないみたいですから、借りフラワーはいらないでしょ。
次へ行きますよ。」
そう言うと、ハルはナンバーファイブの体を抱えて、瞬間移動した。




