第14話
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大阪役場裏のグラウンドで、またまた借りフラワーを出して、土手に植える。
「も・・・、うーんだめかあ、じゃあ、凍れ!!!」
「凍れ!!!凍れ!!!凍れ!!!」
すぐに、借りフラワーは、借りたての魔法を連呼する。
そうしてそのまま、ハルたちは役場ビルへ入って行った。
「おやまあ、ハル君、久しぶりやなあ。
丁度今しがた、仙台市の研究員さんから連絡が入ったでえ、ハル君たちがこっちへ向かったっていう。」
ビルの中へ入ると、若い女性が出迎えてくれた。
以前から顔なじみのロビンだ。
あまり背の高くはない、丸顔のかわいらしい感じのする制服姿の彼女の背丈を、いつの間にか追い越していることを、ハルは改めて知った。
そのままエレベーターに乗り込み、通路を歩いて行って、小さな会議室に案内された。
どうやら、ロビン1人で対応する様子だ。
ロビンがいつものように紙コップに注いだ、コーヒーとジュースを持ってきてくれる。
「お久しぶりですロビンさん。
こちらの様子をお聞きしたいと思いまして、お邪魔しました。
それと、恐竜人たちに関して分っていることがもしあれば・・・。」
ハルは、ロビンに元気にあいさつすると、訪問した目的を話した。
「どうもこうも・・・、自由なんかないでぇ。
九州の開拓移民に関しては、3年交代で入れ替わる予定やったんやけど、恐竜人たちが都市間の移動を禁止したために、今行っている人たちは帰ってくることが出来んようなったって、えらい騒ぎやわ。
九州の開拓は、コーヒーや南国フルーツなど、こっちでは栽培が難しいもんを育てる目的やったんやけど、移動が禁じられてしもうて、それらは手に入らんようなってしもうた。
監視役の鬼たちに文句を言ったら、地産地消が原則やから、我慢してくれていわはった。
それでも、嗜好品の珈琲なんかないと我慢できへんって言うたら、仕方ないなあ言うてコーヒー豆を大量に出してくれはったわ。
鬼の能力言うやつの様やね。
おとなしくしていれば、今後も嗜好品に限っては出してやるから、協力しいって言われたわ。
むこうでも、こっちでしかよう作らへん食べもんなんかを出してくれるようになったみたいで、それで、少しは騒ぎが収まって来たわ。
でも、こっちの3都市間でさえも移動禁止やから、車で郊外へ出ようとするだけでも、すぐに球体や円盤に感知されて、取り囲まれてしまう始末や。
何時でも見張られているみたいで、何や気持ち悪いでぇ。
それでも色々試していると、奴らが感知しているのは、エンジン音や排気の熱源などの様で、人力に関してはさほど気に止めていないことが分ったんや。
だから、急遽自転車輸送隊を作って、都市間は自転車で行き来しているという訳や。
お年寄りや荷物なんかも、自転車で荷車を曳いて移動出来てはおる。
無線で連絡は取り合えるけど、無線の場合は恐竜人たちにも聞こえている可能性があるから、うかつなことは喋れへんやろ?
一応暗号を決めていて、ハル君たちの事も暗号で連絡が来たんやけど、完璧とは言えないやろから、最小限の情報伝達以外は、しないように自粛しているからね。
まあ、自転車での移動に関しても近距離に限られるけどな。
こっから、九州とか仙台とか迄は自転車ではいかれへんからなあ。」
ロビンは、近況を捲し立てるような早口で話してくれた。
「ふうん、苦労している様子ですね。
でも、鬼たちはずいぶんと協力的のようですね。」
「ああ、そうやな。
こっちの監視役はダロ・・・ンボとか言う名前の奴がリーダーの様で、結構いろいろと面倒を見てくれる。
九州には、その息子のト・・・ロンボ?とかいうけったいな名前の鬼の子がいて、その子も親切にしてくれているみたいやね。
まあ、あいつらにとっちゃ、監視している人間たちが集団で逆らい始めたらえらいこっちゃ言うんで、それよりもある程度は言う事を聞いてやって、おとなしくなってくれてたらいいと考えてるんちゃうやろか思うてんねんけどな。
私らが暴れ出したら、恐竜人からどやしつけられるんやろからなあ。
監視役の鬼たちは、各都市に多くても3人ほどしかいないのやからなあ。
それで、十何万人もの人間たちを押さえつけているのやからなあ、大変やで。」
ハルの問いかけに、ロビンは笑いながら答える。
「へえ・・・、ダロンボさんやトロンボは知っていますよ・・・、というか、トロンボは僕の友達です。
会いに行ってみようかな。」
ロビンの言葉に、ハルは懐かしそうに思いをたぎらせている。
「うーん、でもあいつらとあんまり親しげにはしない方がいいかも知れんなあ。
なにせ、監視役の鬼が少ない分、球体や円盤など沢山飛び回っているし、鬼たちをガードしているのか、あるいは見張っているのかどちらかは分らへんが、鬼一人に対して数機の球体と円盤が常に付きまとっている。
だから、鬼たちの方が、わてらよりよっぽど自由がないでぇ。
見ていて、かわいそうになって来るわ。」
ロビンが深刻そうに説明する。
「ふうん、そうですか。ちょっと九州へも寄ってみようかと思っていたけど、迷惑かけたらいけないから、行かない方がいいかな・・・。
ちょっとだけ、様子を確認してみたいんですけど、ダロンボさんは今どこに居るか分りますか?」
ハルがロビンに尋ねる。
「ああ、いつも役所ビルに常駐しているから、このビルの中のどこかにおるでえ。
まあ、もう少ししたら晩御飯の時間やから、食堂へ行けば多分会えるはずや。
なんせ、ダロンボはんは、ここの食堂のメニューを随分と気に入っている様子で、必ず3度3度の食事はかかしたことが無いようやからな。」
ロビンが、笑顔で答える。
「そうですか、じゃあ、少し待って食事の時間に食堂へ行けば、さりげなくダロンボさんの姿を見ることができそうですね。よかった。」
ハルは、少しほっとした様子だ。
「それはそうと、ここ大阪にはメイドは多いの?
メイドスクールとかは、あるのかしらね?」
ハルの用事が済んだことを察したのか、突然、ナンバーファイブがロビンに対して口を開いた。
「め・・・メイド・・・?
ああ、お姉ちゃんみたいなメイドさんね・・・?
知っているでえ、でも、ま、戦前であれば、ここ大阪の街にも少しはいたのかも知れへんけど、やっぱりメイドの本場は東京の秋葉原っちゅうところだったようやね。
お帰りなさいませ、ご主人様って感じで、男たちを魅了していたようで、日本人ばかりか、外国人にまでも絶大な人気を誇っていたと聞いているわ。
中には、女性ファンも結構いたらしいから、大変なものだったようやね。
歴史の授業で習ったんやけど・・・、戦争で東京の町は完全な焼野原どころか、穴ぼこだらけになってしもうて、復興もままならん状態やからなあ。
気の毒やけど、メイド文化は廃れてしまった訳やなあ。」
ナンバーファイブの格好を見て理解したのか、ロビンは丁寧にメイドの事を説明してくれた。
「そ、そうだったの・・・、日本へ来れば、メイドの事をもっと勉強できるって思っていたのに・・・、残念ね。」
ナンバーファイブは力なくうなだれた。
「まあ、でも、お姉ちゃんは見た感じ、結構いけてるでえ。
授業で習ったメイドさんたちにも、決して負けず劣らずと言った感じや。
もう、今のままで十分やと思うでえ。」
ロビンはナンバーファイブの頭のてっぺんからつま先まで、しげしげと眺めまわしながら笑顔で答えた。
「へえ、そう・・・ありがとう。」
そう言って、ナンバーファイブはようやく笑顔を見せる。
「じゃあ、一緒に食堂へ行こうか。お腹もすいたやろ?」
ロビンと共に会議室を後にして、エレベーターホールへ向かう。
そうして着いた先は、ビル内のいつものビュッフェ形式の食堂だ。
(あっ、ダロンボさん!)
ハルが、見慣れた後ろ姿に気づき、急いで列を割り込んでその後ろに付く。
「おお、トロンボの事か?
トロンボは九州っていう土地で、元気にやっているぞぃ。」
「えっ、ええっ?急に、トロンボ君の話なんかして、どうしたっていうんですか?」
突然ダロンボがトロンボの話に切り替えた様で、一緒に居た鬼仲間が目を丸くする。
「たまには会いに行ってやりたいんだが、あいつはまだまだ子供だから、すぐに喜んで駆け寄ってくるから、簡単には会いに行けねぇ。行ったことがすぐにばれてしまうからなぁ。
だから、そっとしておいてやるのが、一番だぁ。」
そんな鬼仲間の言葉を気にも留めない様子で、ダロンボは肉や魚を皿に盛り付けながら話し続けた。
「は・・・、はいそうですね。
我々も、今じゃ自由にどこへでも行ける身ではないですものね・・・。
自分も、嫁と離れ離れになってしまって・・・・ぐすっ・・・。」
隣の鬼仲間が、涙ぐむ。
どうやら、建物内部でも監視役の豆粒のように小さな、円盤のような装置が数台、ダロンボや隣の鬼の頭の上を飛び交っている様子だ。
これでは、自由に何でも話すことも、躊躇われることだろう。
それを見て、ハルはダロンボに声を掛けることを取り止めた。
「それもこれも、毎日毎日欠かさずに報告板に闇の存在について、報告を続けたためだったってぇいうんだから、残念だよ。
もし、そう言った報告を真面目に続けてさえいなければ、今でも人間たちの世界が続いていて、わしらも黄泉の国で暮らせていたはずなんだからなぁ。」
「へい、我々の居住区の奥にあった、報告版の事ですよね。
最初のうちは何の事かも判らずに、闇の存在の事は分らないってずっと記入し続けていたんですよね。
ところが、最近になって闇の王子という者が現れて、それに関わった奴らが、我々のいた黄泉の国を荒らしていたことが分って、途中から闇の存在は居るに変わって、更に黄泉の国のトラブルを解消してくれた人間たちが、今度は闇の王子とやらも退治してくれたんですよね。
だから、うれしくって報告板に闇の王子は封印されたって報告をし始めたら、1年と少しで我々の創造主っていうのが現れたんですからね。
確かに、報告さえしていなかったなら・・・、愛する嫁とも一緒に居られたのに・・・くくく・・。」
ダロンボの言葉に、同僚の鬼は涙を流しながら悔しがる。
「まあ、そう言った不自由さえ我慢すれば、今のところは普通に暮らして行けるんだから、文句を言っては行けねぇのかも知れねぇがね。
なんせ、封印されて玉に閉じ込められちまった奴だっているんだからなぁ。
あの玉はどうしたんだったかなぁ・・・、たしか、ここへ来る途中の深い森の中に捨てて来たんだったか?」
ダロンボは、何食わぬ顔をしながら会話を続ける。
「はい、あの預かっていた荷物ですよね・・・、あれは確か、この国の黄泉の穴から我々が出てきて、その穴を閉じた後に、その辺に放り投げて来たんでしたよね。
まあ、誰も訪れるような場所ではないですから、そのうちに落ち葉や飛んできた埃なんかに埋まってしまうんじゃないですかね。」
隣の鬼仲間が相槌を打つ。
「そうだったなぁ、たしか風穴の出口の左っ側に、おっぽって来たんだったなぁ。」
ダロンボはそう言い残して、食材を乗せたトレイを抱えたまま、仲間の鬼と共にテーブルへ向かって行った。
ハルも、さりげなく食材をとりわけ、ロビンたちと共に席へ着く。
「ハル君の事、気づいていたみたいやね。
預かっていた荷物なんて、何の事かも判らへんけど。」
ロビンが、周りに聞こえないような小声で話しかけてくる。
「はい、多分、トランさんを封印した水晶玉の事だと思います。
富士の風穴の脇に捨てていたなんて・・・。」
「と・・・トランさんの・・・」
気が動転したのか、突然、ナンバーファイブが大声を出そうとしたので、ハルが急いで立ち上がって、その口を両手で塞ぐ。
「も・・・もが・・・。」
「ま・・、まずいですよ、ここには皆いるし、更に監視用の小さな虫みたいな円盤が飛んでいるみたいですからね。」
ハルが勉めて小声で、ナンバーファイブをたしなめる。
ナンバーファイブもようやく落ち着いたのか、うんうんと何度も頷いた。
そうしてようやくハルが、口を塞いでいた両手をどける。
「ごめんなさい・・・、と・・・トランさんを封印した水晶玉・・・、回収しに行こうよ。」
ナンバーファイブは、興奮した自分を何とか押さえつけて、ようやく言葉を繋ぐよう話す。
「はい、すぐに行ってみましょう。
まあ、でもまずは食事ですかね。」
ハルは、気がせいているナンバーファイブを落ち着かせて、食事を食べ始めた。
「そんな、のんびりと食べている場合じゃ・・・。」
興奮のあまり、そう言いかけたナンバーファイブの口を手で押さえて、ハルは小声で囁く。
「だから、食堂内にはたくさんの人もいるし、ダロンボさんたち鬼の監視員もいます。
更に、辺り一帯を飛び回っている、小型の円盤も沢山います。
怪しい行動はとらないで、きちんと食事をして、普通に出て行きましょう。
そうしなければ、かえって時間を食ってしまいますよ。」
「あ・・・、ああそうね。
すっかり頭に血が上ったようで、ごめんなさい。
急な用事こそ、落ち着いて慎重に・・・急がば回れってやつね。」
そう言いながら、立ち上がりかけていたナンバーファイブは、腰かけ直して食べ始めた。
「そうそう、何はなくとも食休みって言うてな、空腹で居る時はうまい事考えられないことも、腹が満ちればいい考えが浮かぶ場合もあると、言いますからね。」
ロビンも、そう言いながら大盛りに乗せたお好み焼きを食べ始めた。




