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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
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第12話

                    12

「へえ、ここでも恐竜人たちの事を色々と調べているんだ。

 すごいねえ。」

 ハルは感心しながら、何度も頷いた。


「へい、村の長老様たちと定期的に打ち合わせをして、情報交換しております。

 そうして、仙台市の研究所スタッフとか、西日本の都市の警察と自衛隊とも連携しております。」


 トン吉は笑顔で答える。

 どうやら、水面下で活動しているのは、西日本の都市も含めて、大規模に行われているようだ。


「でも、あんまり無理をしないでね。

 変な事して恐竜人たちを怒らせたりすると、大変だから。


 恐竜人たちと戦うのは、僕と、このナンバーファイブのお姉さんに、任せておいてくれれば、大丈夫だから。」

 ハルは、残った他の人たちが恐竜人と敵対行動をして、奴らの怒りを買う事を恐れているようだ。


「いえ、折角の申し出ですが、それは出来ません。

 恐竜人とは、あっしらも同じように戦っているんです。

 けっして、ハル坊ちゃんたちだけに押し付けるようなまねは、出来かねます。


 それに・・・、二人だけで戦うとおっしゃられましたが、2人だけで何ができます?

 どうして、あっしらに一緒に戦ってくれと言って頂けないのですか?

 最近は、釧路の村を守る役目が多くて、とんと出番が回ってこなくなっていましたが、最初の頃は一緒に各地へ出向いて冒険をしたではないですか。


 是非とも、あっしらもお仲間にお加えください。」

 トン吉は、そう言って頭を下げる。


「うーん、でも・・・、僕たちは黄泉の国で何年分もの特訓を重ねて、すごい能力を手に入れたけど、それでもあの恐竜人たちに、どれくらい対抗できるかもわかっていないんだ。

 だから、今のままのトン吉さんでは、申し訳ないけど一緒には戦えないかと・・・。」


 ハルは、トン吉の申し出はありがたかったが、ミッテランの特訓さえも行っていないトン吉たちには、これからの戦いは辛いだろうと考えていた。


「黄泉の国というのは、そこで過ごした長い時間も、現世への扉を使えば、入った時とほとんど変わらない時間に出てこられるという修行の場所でしたね。

 あっしらも、回覧された報告書を読んでいますから知っております。


 そうであれば、今すぐにでもあっしらを、その黄泉の国へ連れて行ってください。

 そうして、特訓をさせてください。


 その上で、それでも使い物にならなければ、お断り頂いても結構ですが、そのような機会も与えずに、連れて行けないというお言葉には、従う訳には参りません。」

 トン吉は、威嚇するようにその大きな体を誇張して胸を張り、ハルを睨みつける。


「こ・・・こわいなあ・・・・、でも・・・、特訓って、大変だよ?

 それに、さっきからあっしらって言っているけど、トン吉さん以外にも参加したい魔物がいるってこと?」


 ハルは少し困ったように、後ずさりしながら問い返す。

 どうやら、ここへ来たのが間違いだったとでも考えているのだろうか。


「他の魔物って・・・、あっしの外にも、さっきからハル坊ちゃんの目の前に居るではないですか。」

 トン吉は、自分の左側の空間を指さす。


「じゃーん、レオンでーす。お久しぶりです。」

 何もない空間から、突然姿を現せたのは、トカゲ系魔物レオンだった。

 彼は、カメレオンの特性を持っていて、周囲と同色となって姿を消すことができるのだ。


「へえ、全然わからなかった・・・、腕をあげたねえ。」

 ハルも感心したように、その姿を眺めている。


「あっしらも、ペースは遅いかもしれませんが、少しずつは成長して行っているという事です。

 どうか、お供に加えてください。」


「加えてください。」

 今度は、トン吉だけではなくレオンも一緒に頭を下げる。


「う・・・うん・・・。」

 それでも、ハルは悩んでいる様子だ。


「いいんじゃない、一緒に戦えば。まずは、黄泉の国での特訓の成果次第だけど。

 十分戦えるのであれば、戦力が増えることは大歓迎よ。」


 ナンバーファイブが、決めかねているハルの背中を押す。

 彼女としても、ハルの気持ちは分かっているつもりだった。

 仲間たちが全滅したのかも知れない光景を目の当たりにして、これ以上身近な人たちを犠牲にはしたくないという考えは、ハルの態度から感じとれていた。


「分りました、それじゃあ黄泉の国へ一緒に行こう。

 でも、南極の黄泉の穴からしか入れないから、南極まで瞬間移動するしかないよ。

 昨日、ここへ着いた時には、神田さんたちが魔法を使って暴れていたので、瞬間移動の軌跡を追われることはなかったんだけど、今度は大丈夫かな。


 南極まで遠いから、瞬間移動とはいえ、それなりの魔力を使うことになるけど・・・。」

 ハルは決心したようだが、それでも不安要素は残っているようだ。


「心配には及びません、ここには、格好のものがあるじゃありませんか。」

 そう言いながら、トン吉は傍らの花壇に生えている。茎の長い大きな花を引き抜いた。


「じゃあ、行きましょう、時間がもったいない。」

 トン吉は、仲間の魔物に自分の荷物を持ってこさせたようだ。


「行きましょうって・・・、そう言えば、ここは守らなくてもいいの?

 村は老人が多いから、そりゃ九州からの移民の人たちは若い人もいるけど・・・。」

 ハルは、余りの急展開に頭が付いて行っていない様子だ。


「ここの警護に関しては、このモーちゃんに任せるつもりです。

 馬吉やキリン児に負けないくらい優秀な奴です。」

 トン吉は、自分の荷物を持ってきてくれた、牛系魔物を自慢げに紹介した。


「隊長・・・、その・・・モーちゃんっていう呼び名はちょっと・・・、もっとこう、聞き栄えのするというか・・・、強そうな響きのなまえ・・・。」

 自分の呼び名が恥ずかしいのか、白と黒のぶちの牛系魔物は、その巨体を恥ずかしそうに縮こまらせる。


「馬鹿野郎、その名前は、ミリンダお嬢様が付けて下さった、ありがたい名前じゃないか。

 しかも、おいしそうとまで言ってくださったんだぞ・・・。

 それを、おまえは・・・、もっと聞き栄えのする名前だとー・・・?」

 そんな態度のモーちゃんに対して、トン吉は頭ごなしに怒鳴りつける。


「はっはい・・・、わ・・・分りました・・・。」

 モーちゃんは、あきらめたように泣き顔で頷いた。


「じゃあ、他の仲間たちと協力して、この地をしっかりと守るようにな。」

「へ、へい・・・、命に代えても、お守りいたします。」


 モーちゃんは、涙をぬぐいながら、真剣な表情で返事を返した。

 そうしてトン吉は、そのまま魔物の巣を出て、傍らの道端に先ほど引き抜いた植物を植えた。


『ゴォー!』そうして、すぐに炎を吐いた。

『ゴォー!』すると、その植物も炎を吐き始めた。


「借りフラワーです。

 こいつが魔法を真似ている間に、いきましょう。」

 そう言って、トン吉はハルの隣に立つ。

 ハルがトン吉を、ナンバーファイブがレオンを連れて、中空へと掻き消えた。



「さすがに、南極には球体も飛んできていないから、ここに瞬間移動しても見つからないとは思うけど、でも、トン吉さん、借りフラワーに魔法を借りられたままでいいの?

 炎の魔法が使えなくなってしまうでしょ?」

 極寒の南極に無事着いたのはいいが、ハルはトン吉の魔法の事が心配な様子だ。


「あっしが使う炎の魔法は、効果範囲と火炎の温度の組み合わせで、10種類ほどあります。

 先ほどのは、近距離で温度も低い初級の炎なので、使えなくなってもどうってこともありません。

 それに、多分・・・ゴォー!・・・ほら、もう使えるようになった。


 恐らく、借りフラワーが球体の警告を無視して魔法を止めないために、処分されたのでしょう。

 借りフラワーが消えてしまえば、魔法は唱えた者に戻ってきますからね。

 あっしら魔物に関しては、意外と寛大ですが、それでも警告や命令などに従わないとダメなようですね。」


 自由にしていると言いながら、やはり制約は多いのだ。

 恐竜人たちにとって、人間たちや魔物たちなどは、共存する相手ではなく、従えて管理する対象でしかないのだろう。


 ハルたちは、雪深い氷原を歩き、金属とプラスチックでできた元7聖人の基地を通り過ぎ、氷原に突き出た小高い丘の前にやって来た。


「あれが、南極の黄泉の穴。

 本当は、年に1回大みそかにしか通じないんだけど、ナンバーファイブさんが裏口を知っていたから、今ではいつでも黄泉の国へ入ることができるみたい。


 他の黄泉の穴はすべて閉じられて、入ることは出来なくなったけど、出ることは今まで通り出来るようだから、他の国へ行く時なども便利に使えるよね。」


 ハルは、垂直に切り取られたような、絶壁の中ほどにある洞窟を指して説明した。

 考えて見れば、トン吉もレオンも黄泉の国に入るのは、始めての筈である。

 ハルがトン吉を、ナンバーファイブがレオンを抱えて、飛行能力で洞窟の高さまで飛び上がり、中へ入って行く。


「ここよ、ここに取っ手があるから、この取っ手を右に捻るの。

 そうすると、黄泉の国へ通じるのよ。


 前は、他の地域の黄泉の穴との接続が閉じた後の半日分の空白期しか使えなかったから、年によって変わる接続の時間を、いちいち覚えていなければならなかったから大変だったけど、今はここ以外の全ての黄泉の穴の接続は閉じられているから、自由にいつでもアクセス可能よ。」

 ナンバーファイブは、トン吉たちに分るよう、取っ手の場所などを細かく説明した。


「じゃあ、一緒に中へ入ろう。」

 そう言って、ナンバーファイブに続きハルも狭い隙間を通って、奥へ姿を消した。

 すぐにトン吉とレオンも後に続く。


「ふえー、あっしは腹が出ているから、途中でつっかえて動けなくならないかと、冷や冷やでした。」


 そう言ったトン吉の飛び出た腹には、岩の壁と擦れたように水平に無数の擦り傷が入っていた。

 中には、血がにじんでいる傷も多かったので、ハルがすぐに治癒魔法をかけてやる。


「レオンは、全く平気でした。」

 体の小さいレオンは、狭い隙間を通ることに関しては有利なようだ。

 先へ進み、やがて断崖絶壁にかかったつり橋が見えてくる。


「ここが、第一ダンジョンで、全部で7ダンジョンある。

 そうして、それぞれに対応する地獄ステージがあるという訳。

 瞬間移動も出来るけど、それじゃあ修業にも何にもならないから、まずは連れて行ってあげるね。」

 そう言って、ハルはトン吉の大きな体を抱えると、吊り橋を猛スピードで駆け出した。


「はぁはぁ・・・、い・・・今のはなんですか?

 あんなすごい速さで、この不安定なつり橋を・・・。」

 抱えて連れられてきただけなのに、トン吉は汗だくで息も荒い。


「ひ・・・、ひえー・・・、吊り橋よりも、猛スピードで走る方が、何倍も恐ろしい・・・。」

 すぐに、ナンバーファイブがレオンを抱えてやって来た。



「そうして、ここが最後のダンジョンで、この後が地獄ステージ。

 でも、二人とも今回通って1回でクリアーしたことになっているから、この後の修業で途中で挫折したとしても、地獄ステージでの修行は免除されるはず。


 ダロンボさんたちが居ないから、ダンジョンクリアーの証明書はもらえないかも知れないけど、今後の特訓は有利にできると思うよ。」


 ハルはそう言いながら、地獄ステージを両脇に見て、真ん中の通路を歩いて行く。

 閉鎖中の黄泉の国は、人気がなく閑散としている。

 そうして、管理小屋のある広い空間へ出て来た。


「向こうに見える銀色のドアが現世への扉。

 1回一緒に出て見よう。」


 そう言って、ハルは真っ直ぐに現世への扉に向かって歩いて行く。

 そうして、全員が扉を通って戻ってきた。


「どう?って言っても何にも覚えていないよね。」


「へっ、何にも覚えていないって・・・、先ほどナンバーファイブのお嬢さんに、黄泉の国への通路を開ける取っ手の説明を受けましたが、さすがに覚えておりますよ。」

 トン吉は、ハルの質問の意図が飲み込めていなかった。


「いやだなあ、今一緒に黄泉の国へ入って、各ダンジョンを通って戻って来たでしょ?」

「へいっ・・・?そ・・・そんな事、いつしました?」

 トン吉もレオンも目を丸くして驚いた様子だ。


「今回は、僕たちがダンジョンを走って抜けたから、そんなに時間は経っていないけど、それでも説明しながらだったから、1時間近くは経ったかな?

 それでも中でのことは、ほとんど覚えてはいないでしょ?」

 ハルが、いたずらっぽく微笑む。


「そ・・・そう言えば・・・、切り立った崖に細いつり橋とか、稲光などの絵が浮かんでは来ますが・・・、あれが黄泉の国での風景なんですか?」

 トン吉が、目を細めながら、乏しい記憶をまさぐるようにして答える。


「うん、そうだよ。

 入った時間とほとんど変わらない時に戻されてしまうから、その何万倍もの時間の記憶は、脳がダメージを受けてしまうので、受け付けないんだって。


 だから、覚えていないのが普通だから、気にしないで。

 特訓を続けて行けば、覚えていられるように、必ずなるはずだから、頑張ってね。

 それと、中で一生懸命説明しても、忘れてしまうから今説明しておくね。


 黄泉の国は大体こうなっていて・・・。」

 ハルが、竜神に教えてもらった、階層構造の黄泉の国の様子を地面に指で絵をかきながら説明する。


「そうして、地獄ステージの後に広い空間があるから、その向こう側にある銀色の現世への扉を通って戻ってくれば、入った時間とほとんど変わらない時に戻ってこられる。

 中に入っていられる時間に制限はないけど、ただでも記憶できないのだから、一度にあまり長い時間は滞在しない方がいいと思うよ。


 最初のうちは、せいぜい1ヶ月間とかくらいかな、7つのダンジョンを自力でクリアーするにも、大体それくらい時間がかかるしね。


 前は、1日10回までしか黄泉の国へ入れないって決まりがあったらしいけど、裏口から入るので、回数の制限はないと思っているから、短い時間で何回も入り直した方が、少しは覚えていられることが多いと思うよ。」

 ハルが、黄泉の国での特訓方法について、あらかたの説明を終えた。


「それと、黄泉の国から現世への扉を通って戻ってくると、満足感で充実していて、そのまま家へ帰ってしまいたくなるので、気を付けてね。

 我慢して、もう一度黄泉の国へ戻って行く様、常に覚えておいてね。」

 ナンバーファイブが言葉を付け足した。


「へえ、そんなことがあるんだ。

 僕は、みんなが倒されてしまって独りぼっちになったから、何としても力をつけなくっちゃならないっていう気持ちでいっぱいだったから、何も覚えてはいなかったけど、満足しないで何回も入り直すことができたのかな。」

 ハルが、感心したように頷く。


「修験者たちがいつまでも黄泉の国へ入り続けようとするから、そう言った仕組みがあるんだろうって、と・・・トランさんが言っていた。」

 ナンバーファイブが笑顔で答える。


「じゃあ、悪いけど、僕たちはまだまだ他の土地の人たちの状況を確認しに行くから、特訓は2人だけで続けていてね。

 もし、早めに終わった時は、黄泉の国の中でも過ごせるけど、ここへ来る時に氷原の中に建物があったでしょ?

 あそこは、7聖人の基地で結構快適だから、そこで待っていて。


 みんなの所を回ったら、戻ってくるから。」

 ハルは、そう言ってとりあえずの食料の缶詰を、鬼の能力で大量に出すと、トン吉たちに別れを告げた。


「へい、任せてください。」

 そう言いながら、トン吉は地面に指で文字を書いていた。


 “取っ手”と書いて矢印を伸ばしたり、大きく“出て来たらすぐに入り直す”など、忘れてしまわないよう色々書き込んでいるようだ。



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