第11話
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「そ・・・、そうだったんですか、私は何も知らずに・・・。」
アマンダ先生が、少し恥ずかしそうにうつむきながら呟いた。
「いや、先生が悪いんじゃない。
そう言う風に、神田達がうまいこと演技しているという事だ。
身内を騙せるくらいだから、相手にはこちらの作戦がばれることはないだろう。
だが、潜入捜査にはそれなりの技術が必要なのだろうな、マイキーさんのようにね。」
権蔵はそう言いながら、小さく首を振る。
「そうですか、奴らの弱点を探ろうとして・・・。
でも、あまり無理はしないように、してください。
僕たちも、恐竜人たちの事を探って、えーと、隙がなければ隙を作るっていう作戦で・・・、でしたよね?」
ハルがナンバーファイブに向かって確かめる。
「うん、そうよ。敵を知り、己を知れば百戦危うからずって言う教えもあるからね。」
ナンバーファイブがにっこりほほ笑む。
「恐竜人たちを倒すための活動は、僕たちが行いますから、皆さんは危険なことはせずに安全に暮らしていてください。」
ハルは、危険な潜入捜査は、止めさせたいと思っていた。
「いや、これは、こちらから彼らに頼んだことではない。
彼らが、自分たちで考え、奴らの弱点を探ってくるから、奴らを倒すための作戦に使ってくれと申し出て来たのだ。
なにせ、彼ら憧れの、マイキーさんやマルニーさんのかたき討ちをしたいようだからね。
それに、これは我々の戦いでもあるのだ。
ハル君一人に押し付けるわけには決して行かない。
だから、我々は我々にできる範囲で、恐竜人に対抗するための活動を模索していく事は、継続していくつもりだ。
まあ、死んだと思っていたハル君が生きているのだから、神田達にもマイキーさんたちへの希望を捨てるなとは、話しておくことにするがね。」
権蔵は、ハルの申し出をありがたいとは思ったが、それでも自分たちの役目を放棄する気はないようだ。
「まあ、今日の所は家へ帰りなさい。
久しぶりの再会だ、ハルじいさんも喜ぶだろう。」
そう言って、権蔵はハルの背中を押した。
「は・・・ハルじゃないか・・・、心配したんじゃぞ・・・。」
久しぶりの我が家へ帰って、玄関の扉を開けると、出て来たおじいさんは思わず持っていたお玉を落としながら、目に涙を浮かべた。
「おじいさん、ただいま。」
そう言って、ハルはおじいさんの胸に飛び込んで行った。
「ほ・・・本当に、夢の様じゃ・・・。
まさか、生きて帰ってきてくれるとはな。
じゃあ、三田じいの所の蘭さんや鈴ちゃんも一緒なのか?」
おじいさんは、ハルの体を抱きしめながら、それでも思い出したように問いかけた。
「それが・・・。」
ハルは、今までの経緯をかいつまんで説明する。
「そうか、離れ離れに・・・、三田じいも辛いじゃろうなあ・・・。」
おじいさんの頬を大粒の涙が伝う。
「それで、僕もミリンダ達の仇を討とうと、島へ戻ったんですけど、そこでナンバーファイブさんに再会して、そうして色々と教えてもらいました。」
ハルは、ナンバーファイブの紹介をする。
「おお、そうですか、よくぞ引き留めてくださいました。
恐らくそのまま攻め込めば、ただの犬死だったでしょう。
ありがとうございます。」
ハルじいは、涙を拭って笑顔でナンバーファイブに頭を下げる。
「いえ、そんな大それたことでもないのよ。
ハル君を放っておけなかったのと、あたしだって仲間に対する希望は失っていないから、ハル君にもそう思って欲しかっただけ。
それに、恐竜人っていうの?話を聞いただけだけど、全く人任せで自分たちは何にもしなかったくせに、ことが解決すると我が物顔で攻め込んでくるなんて、卑怯千万よ、許せないわ。
だから、ハル君と共同戦線を張ることにしたの。」
ナンバーファイブは、笑顔で答える。
「本当に、ありがとうございました。
よいか、ハルよ、決して無理はせんようにするのじゃぞ。
奴らを如何こうすると言っても、簡単に一日や二日で何とかできるものではない。
長い年月かけて、じっくりと体勢を作って、そうして攻め込まねばならないかも知れんぞ。
なにせ、奴らは何千万年もの長きにわたって、じっと耐え待っていて、勝機を感じて一気に攻めに転じたというようなのだからな。」
おじいさんは、あくまでも慎重に動くよう言い含める。
「はい、分りました。」
ハルも真剣な眼差しで答える。
「おおそうじゃ、腹も減ったじゃろ?
すぐに晩御飯の支度をするからの。
なあに、急な来客でも、電子レンジでチンじゃ。」
そう言いながら、ハルじいは台所へと急ぎ足で戻って行った。
その日は、久しぶりにおじいさんの料理をお腹いっぱいになるまで平らげた。
おじいさんの料理の味付けは、ナンバーファイブにも好評だった。
「さ、もう遅いから寝なさい。
と言っても、ハルの部屋にはベッドは一つしかなかったのう。」
ハルじいは、ナンバーファイブの姿を見ながら、途方に暮れてしまった。
「あたしはハル君と一つのベッドでも平気よ。」
そう言いながら、彼女はハルの体に抱き付く。
「駄目ですよ・・・、僕の寝相は良くないし・・・。
朝になると、大抵布団がベッドから落ちているんですから・・・。」
ハルはそう言いながら、恥ずかしそうにうつむく。
「そうだ、村長さんの家なら・・・。」
ハルは突然思いついたように、ナンバーファイブの手を引っ張って、外へ歩き出した。
「おおそうか、三田じいの家なら部屋も多いし丁度いいだろう。」
おじいさんも、うんうんと何度もうなずく。
「今晩は、ハルです。」
玄関先で、ハルが大きな声で声を掛ける。
『ガチャ』玄関のドアが開いて、中から白いあごひげを蓄えた老人が出て来た。
「おや、ハル君じゃないか。
では、後ろに居るのはす・・・」
三田じいさんの言葉が止まる、期待していたのとは別人だったからだ。
「ミリンダ達の事は、ごめんなさい。離れ離れになってしまって・・・。」
ハルはここでも、経緯を簡単に説明する。
「おおそうか、全く望みがない訳でもないんだな。
鈴たちの事だ、何とか生き延びているじゃろう。
そ・・・それで、何の用かな?」
三田じいさんは、満面の笑顔で尋ねてくる。
「はい、それで、ナンバーファイブさんを泊めていただけないかと・・・。」
ハルが少し恐縮しながら尋ねる。
「うん?ナンバーファイブって、この女の人の事か?
ああ、ミリンダの部屋も開いていることだし、構わんよ。
入りなさい。」
そう言って、中へ入れてくれた。
「じゃあ、よろしくお願いします。」
そう言い残して、ハルは自分の家へ戻って行った。
「ここじゃ、孫の鈴の部屋なんじゃが、遠慮なく使いなさい。
着替えも、合えば好きなものを・・・って、サイズが違いすぎるか・・・。
まあ、ベッドはシーツもカバーもちゃんと洗濯してあるから、清潔じゃぞ。
なにせ、洗濯機という箱に入れるだけで、勝手に洗ってくれるという優れものだ。
あんまり簡単なもので、今はいない娘や孫のシーツや布団カバー迄、洗ってしまう。
しかし、使ってもいないものを洗うというのは、さびしいものじゃ。
だから、盛大に汚してくれても構わんぞ。
トイレは、この突き当りじゃ。
それじゃ、お休み。」
「いやあね、そんな汚したりしませんよ。」
そう言って、案内された部屋は、真っ赤なリボンがいたるところに飾られた、かわいらしい部屋だった。
「おはようございます。」
翌朝、ハルが迎えに来て通されたのは、湯気が立ち上る朝食の食卓だった。
「おはよう、ハル君。
君も食べるかな?ブレックファストっていう、イギリスの朝食の定番メニュー。
あたしは、前も言った通り生まれ故郷も分からない身の上だけど、メイドの国の日本か、執事の国のイギリスか、どちらかが本当の故郷だったらいいなあって思っているんだ。
人に奉仕して、その人を気持ちよくさせるっていうのは、いい事だよね。
これは、鬼の能力じゃなくって、材料を借りてあたしが朝から頑張って作ったんだよ。
イースト菌とか足りない材料はあたしが出したけどね。
でも、ほとんどが、ここにあった材料で作ったんだよ。
すごいでしょ。」
食卓の皿には、湯気が立ち上ったパンにとろとろの卵が乗って、とてもおいしそうだ。
他にも焼いたハムやソーセージなどが皿に盛られている。
「へえ・・・、おじいさんが作ってくれたから、朝ご飯は済ませて来たんですけど、ちょっとだけ・・・。」
そう言って、ハルは進められた一切れを口に運ぶ。
「うーん、おいしいです。
ナンバーファイブさんは、料理も上手なんですね。」
ハルは本当においしそうに、ソースの付いた指までをしゃぶった。
「うん、今日の朝食は、本当に素晴らしかった。
鈴の奴が、旧遺跡から見つけてきた雑誌とかから、目新しい料理を見つけては良く作っておった。
クロワッサンとかいう、パンというふわふわした食べ物とかをな。
今日のは、それよりもさらにハイカラで煌びやかで、そうしてとてもおいしい。
うーん、まんぞくじゃった。」
三田じいも、本当に喜んでいるようだ。
「いいのよ、皆に喜んでもらえて、あたしもうれしいわ。
こんなので良ければ、いつでも作ってあげるから、言ってね。」
そう言って、ナンバーファイブは、食器を下げて洗い始めた。
「いいんじゃよ、後片付けはわしがしておくから、もう行きなさい。
忙しい身の上なのだろう?」
三田じいが、そんなナンバーファイブを気づかう。
「だめよ、料理というのは、後片付けまで含んでいるのだから、作ったら作りっぱなしというのは、駄目なの。」
そう言いながら、彼女は手際よく食器を洗って片づけた。
「さ、いきましょ。どこか、行くあてはあるの?」
「はい、釧路の村では、後1カ所だけです。」
そう言って、三田じいにお別れをいってから、ハルたちは村の中心を外れ南へ歩いて行く。
しばらく歩くと、大きな石造りの建物が見えてきた。
「魔物の巣といって、この村で一緒に暮らしている、トン吉さんたち魔物が住んでいる所です。
最初のうちは、各家庭にお邪魔していたんですけど、怪力の魔物たちは、人間と一緒の家では、物を壊してはいけないと、気を使って窮屈な思いをしていたので、それならと彼ら用の家を作ってもらったんです。
だから、石造りで壁など頑丈にできています。」
そう言いながら、ハルはそのまま3階建ての建物の中へ入って行く。
そうしてそのまま通路を突っ切り、中庭へ出た。
「トン吉さーん、レオーン、久しぶり。恐竜人たちに、いじめられていない?」
そうして、ハルは中庭の周りをぐるりと囲んだ部屋部屋に向かって叫んだ。
すると、大きな黒い影が、脱兎のごとく駆け込んできた。
「は・・・ハル坊ちゃん・・・、よくぞご無事で・・・。」
それは、大きな体をしたブタ面の人型魔物だった。
「トン吉さん、お久しぶりです。元気だった?
みんなも無事?」
ハルは、久々の再会を涙ながらに喜ぶトン吉に笑顔を向ける。
「へい、あっしら魔物に関しては、自由にやらせていただいております。
まあ、あっしらは先の戦争で大量に死んだ者たちの魂の集合体ですからね。
恐竜人たちにとって栄養とならないものは、相手にする気もないのかも知れません。
但し、ヨーロッパで開拓に当たっていた馬吉たちは、依然としてそのまま開拓を続けております。
開墾した土地で上がる収穫分は、全て恐竜人たちの食料に回されるという事のようです。
まあ、そのおかげで、この村の作物も皆さんが十分に食べていける分だけは、残してもらえるのだから、協力して行こうとの方針です。
それで、あっしらは自由な分、畑仕事などの手が空いた隙に、奴らの情報を少しでも得ようと活動しております。
今のところ分かったのは、奴らが探知する魔法というのは、主に攻撃魔法の様で、レオンが持つ壁と同色化する能力のように、身体の一部を変形させるような魔法に関しては、探知されにくい事が分って来ました。」
トン吉は本当にうれしそうに、涙を拭きながら色々と説明してくれた。




