第108話
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「一体どういう事?」
レオンがシート状態から元の姿に戻り、視界が開けると、本当に廊下には人影がない。
「とりあえず、本部室に入りましょ。
突然どこかの部屋から、誰かが出て来るなんてこともありうるのだから。」
レーナが、本部室と書かれた部屋の扉を指さす。
もう一つの円盤で、転送装置があった部屋だ。
ゆっくりと慎重にドアを開け、中の様子をうかがうが、やはり中には誰もいない様子だ。
「変ねえ・・・、ここには常時千人以上の元老院メンバーが詰めているはずなんだけど・・・、こっちでも評議会の最中なのかしらね。」
レーナも不思議そうに誰もいない部屋の中を見回す。
「まあいいわ、やることをやっちゃいましょう・・・。」
レーナは気を取り直して、たくさんのモニターが並んでいる操作盤の下に、自分の左腕の装置から伸ばしたケーブルを接続する。
そうして、操作盤を忙しそうにタイプする。
「あちゃー・・・、そうか・・・、大きな円盤、つまり向こうが本隊のようね・・・、合体したものだから、制御が全て向こう側に切り替わってしまっているわ。
こちらからコントロールするには、一旦接続を切らなければならないわね。
うーん、さすがに本隊円盤の制御には、あたしのコントローラではアクセスが制限されているから、本隊側の制御を何とかして再起動して、無理やりこちら側も再起動させるしか手はないわね。
恐らく、あたしたちの居た円盤も同様、本隊側の円盤に制御が移ってしまったから、あたしがシンクロさせた操作盤は無効ね。
とりあえず、再起動に備えて、こちらのプログラムを格納しておいて・・・、後は何とかして巨大円盤の方の制御に細工をしてみましょう。」
レーナが、そう言いながら振り返る。
「どういう事?」
ミリンダには状況が飲み込めていないようだ。
「つまり、円盤同士が合体したから、別々に操作する必要性が無くなったという事ね。
今までは、長期間別次元に滞在していたから、あたしたち平民の監視の為に元老院たちが各円盤に常駐していたんでしょうけど、もう地上攻略戦を始めたし、個別に管理する必要性は無くなったって事かな。
恐らく元老院メンバーは、向こうの大きな円盤に戻って行ったはずよ。
それだけ、本気で地上を攻め落とそうとしているという事ね。
でも、これはチャンスよ、うまく円盤を分離できれば、チビ恐竜人たちとは離れることができるわ。
そうすれば、地上からでも遠慮なく攻撃できるでしょ。」
レーナは、興奮気味に話す。
「うーん、今でも別に遠慮しながら攻撃しているってわけではないと思うけど・・・。
まあ、ハルは恐らく、あたしがこっちに居る限り、本気で攻撃を仕掛けることはないと思うけど・・、他の人たちは、多分必死で・・・。
まあいいわ、それで、具体的にはどうするの?
もう一度天空エレベーターを使って、超巨大円盤に乗り移る?」
ミリンダが身を乗り出してくる。
「ううん・・・、さすがに、接続口のハッチを何度も使うのは難しいわね。
どうしてもこちら側から開くときに、向こうの監視カメラに見つかってしまうわ。
いくら姿を消して居ても、あのハッチが自然と開くところを見られては、おしまいよ。
今だったら、すぐに兵隊が飛んでくるわ。
監視カメラの制御も、こちらからでは邪魔できないし・・・。」
レーナも困った様子だ。
「そうだ・・・、転送装置を使えば・・・、そうよ、円盤内の転送先は、各円盤の半分ずつの世界の元老院本部と評議会ビルに一つずつ設置されているから、それだけで7ヶ所よ。
残りの3ヶ所は、恐らく巨大円盤と重犯罪者収容用円盤に通じているはずよ。
どれがそうかしらね・・・。」
レーナが転送先のメニューを一つ一つ丹念に読んで行く。
「恐らく、この2つが重犯罪者用の円盤に通じているのだと思うわ、うまくすれば、父さんたちとも合流できるわね。
でも、まず先に、あたしたちがいた円盤もそうだけど、反対側の世界にもミリンダちゃんの映像を流しておく必要性があるわね。」
そう言って、レーナは転送装置を指さす。
今度は、蝙蝠のゴローがいないため、4人で一度に転送装置に入ることができた。
まばゆい光に包まれて、転送装置の扉が開くが、誰も出てこない。
「ここも、誰も居ませんね。」
レオンが元の姿に戻り、ミリンダ達の視界が開ける。
「じゃあ、ここも制御を奪えるようにプログラムを仕込んで・・・と。」
「本当に誰もいないのね・・・、あなたたちの仲間は、元老院たちが居なくなったことに気づかないのかしら。」
ミリンダが、不思議そうに首をかしげる。
「元老院メンバーなんて、上空スクリーンに我々への指示が映像で示されるだけで、実際に出会ったことなんて一度もない存在だからね。
我々平民のような軍服や作業着ではなく、元老院はじめ皇族たちは煌びやかで華やかな服装を許されているから、一目でわかるけど、なにせ、雲の上の存在だったからね。
僕たちだって、元老院本部や評議会ビルになんて一度も入ったこともなかったくらいだから、全員が居なくなっていたところで、多分誰も気づかないんじゃないだろうかね。」
センティアが、窓から外の様子を眺めながら答える。
ミリンダの映像が映し出されて、人々が上空を見上げては、何か話しあっている様子がうかがえる。
元老院メンバーがいなくなったことで、誰も放送の邪魔をすることはないだろう。
彼らは、円盤内の平民たちを従えることを、あきらめてしまったのだろうか・・・。
「じゃあ、次はいよいよ、重犯罪者収容円盤に潜入よ。
さすがに、こちらは警備していないはずはないから、気を付ける必要があるわ。」
レオンが、シート状になり、ミリンダ達を包み込む。
転送装置の扉が開き、まばゆい光に包まれる。
「侵入者たちは、まだ見つからんのか。」
2日目も夕方になったというのに、いまだに侵入者の1人も見つけられず、ライゼルはいら立っていた。
「は・・・はい・・・、地上攻略のロボット兵も、本日は破壊されるまでの時間が短縮されておりまして、このままでは円盤内の捜索に影響すると考えまして、少々早目でしたが回収して捜索に当たらせております。
侵入者のメンバーですが、あの巨大化した人間と一緒にいたことは考えられないでしょうか?
大きくなれば強いと思って、体のどこかに貼りついていたというような・・・、そうして、あの人間と共にレーザー光線の餌食になってしまったと・・・。」
チビ恐竜人兵士も、街中くまなく探しまわっても、見つからないことに焦りを見せていた。
いっそ、あの爆発で消滅したことになってくれればいいと、考え始めているようだ。
「ばっかもーん・・・、そんな都合のいい事がある訳ないだろう。
もういい、どうせ平民など何人集まったところで、大したことは出来ないだろう。
元老院メンバーの避難は既に完了しているな?」
「はっ・・・、本日の午前中に全員本隊円盤内に避難完了を確認いたしました。」
「ようし、円盤の外に出られると、中の情報が筒抜けになる恐れがあるから、逃げ出せないように、地上の基地に設置した転送装置は自爆させておけ。
そうすれば、奴らは円盤内から逃げ出すことも出来なくなる。」
「えっ・・・ええっ・・・地上基地との連絡のための転送装置を破壊するのですか?
それでは鬼の家族たちの基地が、無くなってしまいますが・・・。」
チビ恐竜人兵士は、ライゼルのとんでもない指示に、我が耳を疑う。
「だから・・・、あんな裏切り者の事など、気に留めておくこともないわ。
どうせ、わしらに一番協力したとかで、鬼の世界での地位でも向上したいのだろうとか考えていたが、突然裏切って巨石像で巨大ロボットを破壊してしまいおった。
あんな恩知らずな奴ら、許すことは出来ん。
どうなっても構わないんだ、早くしろ。」
あくまでも強気なライゼルは、非情にも爆破を命じる。
「は、はい・・・、分りました。」
チビ恐竜人兵士は、渋々転送装置の自爆スイッチを押した。
「な・・・なんだ・・・?
誰か来るなんて、連絡を受けていないぞ。」
「タフガンじゃないのか?
あいつから応援要請が来ていただろ?
もしかして、本部にまで応援を要請したのかも知れない・・・。」
突然、部屋の隅の転送装置が稼働し始め、当直のチビ恐竜人兵士たちは、驚いて身構える。
『ガーッ』しかし、扉が開いても中からは誰も出てくることはなかった。
「うん?故障か何かか?」
不思議そうに身を伏せながら、10人のうち2人の恐竜人兵士が、慎重に転送装置の正面へ行き、中の様子をうかがう。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・・・極大寒波!!!」
不意に背後から、甲高い声が・・・。
ミリンダの唱える魔法で、10人の恐竜人兵士たちは一瞬で凍りついてしまった。
「上手く行ったわね、潜入成功よ。」
レオンが元に戻って姿を現したミリンダが、自慢げに笑顔を見せる。
「やはり、重犯罪者の収容施設だけあって、警備の手は緩めないつもりの様ね。
父さんたちは、大丈夫かしら・・・。」
レーナがドアに近づいて、金網が入った小さな覗き窓越しに、通路の様子を伺う。
「一寸見てきますね。」
レオンが、姿を消したまま通路へ出て行った。
「この階には、ほとんど人影は見えませんが、ずっと先の部屋から明かりがもれて来ていて、話し声が聞こえてきます。
警報が鳴っている訳でもなく、静かな様子です。」
すぐに戻ってきたレオンが、状況報告をする。
その間に、凍りついたチビ恐竜人兵士たちを、センティアがまとめてしばりつけておいた。
「父さんたちは、もう潜入している頃だと思ったんだけど・・・、この階には居ないのかしらね。」
レーナが不思議そうに首をかしげる。
「ふん、こんなお粗末な装備で、警戒厳重な重犯罪者収容施設に忍び込もうとするとはな、チャンチャラおかしいぜ・・・。」
チビ恐竜人兵士は、ショットガンタイプのレーザー光線銃を構えながら、自分より体が大きめの恐竜人6名を威嚇する。
一人の恐竜人は、脇腹から出血している様子だ。
「す・・・すみません・・・、私が負傷してしまったために・・・。」
腹を撃たれたのか、出血が止まらない恐竜人は、苦しそうに息をするのがやっとといった感じだ。
「そんなことはない、今は君の命の方が大切だ・・・。
おい、降伏して姿を現したんだ、彼の傷の手当てをしてやってくれ。」
スタットは両手を挙げたまま、心配そうに倒れた仲間を気づかう。
「ふうん・・・、どうしたものかなあ・・・。
こっちだって、仲間を全員倒されてしまったしなあ・・・。」
チビ恐竜人の足元には、数体のチビ恐竜人たちが倒れているようだ。
「彼らは死んでなどいない、気を失っているだけだ。
1時間もすれば、気が付くだろう。
それよりも、早く傷の手当てをしなければ、彼の命が・・・。」
スタットは、今にも意識が飛びそうな仲間を気づかうが、銃口を向けられているので、下手な動きは出来ないでいた。
「ふうむ・・・、大したものだよなあ・・・、こんな棍棒2本だけで、瞬く間に仲間たちを・・・、こんなの見せられた日にゃ・・・、恐ろしくて、こいつの手当てなんてやってられないぜ・・・。
こいつを治療に回した途端に、俺に襲い掛かってくるつもりだろ?
そんな手には乗らないぜ・・・、今、応援を呼んだから、すぐに第2警備室から警備兵がすっ飛んでくる。
そうしたら、まずお前たちを拘束して、上役に報告して、お前たちを監禁室に連れて行って・・・、それからだなあ、治療するかどうかお伺いを立てるのは・・・。」
「ば・・・馬鹿な・・・、それでは彼が・・・。」
チビ恐竜人兵士は、今にも消えそうな命の事など、何も心配していない様子だ。
その時、通路の方から足音が。
「おやおや、応援部隊が、意外と早く着いちゃったね。」
チビ恐竜人兵士が振り向くが、開いたドアからは誰も入って来はしない。
「は・・・、早く俺達を拘束でも何でもいいからして、彼を医務室に連れて行ってやってくれ。」
スタットと他の4人のレジスタンスたちが、両手を合わせてチビ恐竜人兵士に差し出す。
「まあまあ・・・、そうも焦るな・・・。」
チビ恐竜人兵士は、余裕の笑みを浮かべながらスタットに振り返る。
彼らの、焦る気持ちなどお構いなしだ。
「雷撃!!!」
『ドーン!』ミリンダの魔法が唱えられ、チビ恐竜人兵士は脳天から煙を上げながら、その場に倒れ伏した。




