第107話
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翌日は早朝から人型ロボット兵が、恐竜人大陸上空に浮かぶ超巨大円盤から大量に降り注いできた。
「来たぞ、今日も過酷な戦いになるだろうが、負けずに頑張ってくれ。」
『おー!』
元気に掛け声をかけて、兵士たちがロボット兵の落下地点へ駆けて行く。
昨日負傷した兵士たちも、ゴラン達治癒魔術者たちにより、全快していた。
更に、昨日の戦いで、相手の動き方に慣れたせいか、ある程度戦い方が分ってきたようだ。
後から後から繰り出される兵力に押され気味だった部隊だが、今日はどちらかというと押し気味で戦闘を続けている。
こちら側は、生身の人間たちが戦っているのであり、チビ恐竜人たちのロボット兵と違い、モニター画面を通して見ながら操作するのではなく、相手の動きをじかに感じながら反応する為、日に日に強く成長していくのである。
昨日より、より多くのロボット兵士たちを相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げて行く。
「おお、今日は、マイキーの国の黄泉の穴が通じたようだね。
マイティ親衛隊長、お久しぶりです。
昨日日本側の黄泉の穴が通じた様で、既に自衛隊や警察の精鋭たちが、訓練を開始しています。
既に20回以上出入りをしたものも居て、パワードボディスーツを身に着け始めています。
時間軸を合わす為、彼らには一旦外に出てもらうつもりなので、代わりに特訓を開始してください。」
所長が、大量の兵士たちを引き連れてきた、マイティたちを出迎える。
「そうですか・・・、では我が国で休憩を取ってください。
今日の夜中にもう一度入ってくれば、その時には、我々の部隊もある程度仕上がっていることでしょう。」
マイティも、部下の兵士たちを見回しながら答える。
「それと・・、まだ少し若いのですが、魔術者候補生たちも連れてきました。」
マイティは、まだ20歳そこそこの若者たちも連れてきていた。
「ゴランやネスリーたち程ではありませんが、それでも次世代を期待されている魔術者の卵たちです。
ミッテランさんに鍛えていただければ、大きく成長できるでしょう。」
マイティは、ミッテランに魔術者候補生たちを紹介する。
『よろしくお願いいたします!』
中には女性の姿もあるようだ、皆精悍な顔つきをしている。
「分ったわ・・・、私の特訓は少々厳しいわよ。
音を上げないよう、頑張ってついて来てね。」
ミッテランが、チベットから瞬間移動で連れて来た修行僧20名を合わせて、計40名の特訓を指導することになった。
勿論、神田と神尾もメンバーに入っている。
さらにナンバーファイブが、何往復もして連れて来た米兵も加わり、総勢300名の兵士と42名の魔術者たちという、かつてない規模の特訓が開始された。
そうして、この日も夕刻になるとロボット兵士たちが引き上げて行く。
「ふう・・・、こちらとしては、負傷兵の手当ても出来るので、ありがたい事ではあるのだが、一体どういう訳だ?」
ロボット兵士たちが回収されていく様を眺めながら、ミライがどうしても腑に落ちないとばかりに呟く。
「そうだね、暗くなると遠隔操作の視認性が悪くなるのではないかと考えていたが、今日はまだ夕方で、充分な明るさがあるにもかかわらず、引き上げて行く。
長時間ロボット兵士たちを繰り出してはおけない、別の理由があると考えたほうがよさそうだね。
もしかすると、円盤内に潜入しているミリンダちゃんが関わっているのかも知れないね。」
「そうですよ、ミリンダが頑張ってくれているんですよ。
だから、チビ恐竜人たちだって、地上だけに神経を注げないから・・・・。」
時間軸を合わせるために地上に出てきていた所長の意見に、ハルも自慢げに頷いている。
さすがに、普通レベルのダンジョンでも、始めから攻略できたものはいなかった。
しかし、何回も出入りを繰り返していくたびに、次のダンジョンへ進んで行くことができるようになり、日付が変わる頃には、全員がレベルを上げたダンジョンでも攻略できるまでになって来た。
「じゃあ、いよいよ明日から、パワードボディスーツを装着して、訓練を開始する。
最初のうちは動きづらいこともあるかもしれないが、筋力レベルが達していればすぐになれるはずだ。
無理して動かさずに、徐々に体を慣らして行ってくれ。」
ジミーが精鋭兵たちの前で、翌日からの訓練手順を説明する。
いよいよ、神レベルでのダンジョン特訓が始まるのだ。
一人一人に、パワードボディスーツが手渡されていく。
「えーと、このマンホールでいいのかしらね・・・。」
小槌の力で小さくなったミリンダが、3丁目大通り裏側の辻にある、マンホールのふたを持ち上げて中の様子をうかがう。
「み・・・、ミリンダちゃん・・・、悪いけど、僕はここでお別れだ・・・。」
すると、背後でゴローの声が聞こえたような気がした。
そうしてすぐ後ろには、うず高く積もった灰が・・・。
「そうだったわ、ダークサイドを使った後は、美少女の生き血を吸わなくちゃ、灰になってしまうんだ・・・。
言えばいいのに・・・、ちょっとでいいなら、吸わせてあげないこともなかったのに・・・。」
自分を救い出すために、たった一人で敵の円盤の中まで駆けつけてくれたゴロー。
不死の体ではあるのだが、それでも強い魔力も強靭な肉体も持っていないのにもかかわらず、駆けつけてくれたのだ。
ミリンダは、少し悲しそうな表情をして、それでもすぐに地面に散った灰を集めて袋に入れると、鬼の能力で仕舞い込んだ。
「無事に戻れたら、いつもの見晴らしのいいところに埋めてあげるからね。
じゃあ、行きましょう。」
そう言って、ミリンダとレオンはマンホールの中の梯子を下りて行く。
下水道に降りて、すぐ脇にある扉を開けると、どこまでも果てしなく続いて行くような、深い深い穴と金属製の梯子が見える。
2人は慎重に、その梯子を伝って降りて行く。
そうして、パイプがむき出しの機械室のような空間に降り立つ。
「なんか、どこかで見たような・・・、造りが全く同じなら・・・、こっちよね。」
ミリンダは、当たりを付けた方向へ歩いて行く。
「ああっ・・・、そうだわ、レオン、あたしの体を覆い隠して・・・。」
ミリンダの言葉にレオンがシート状になって、ミリンダの体を包み込むと、そのまま周りと同化して見えなくなる。
「やっぱりあったわ・・・。
このボタンを押して・・・。」
床にある四角い切欠きの傍らにあるボタンを押すと、扉がスライドする。
ミリンダはレオンをかぶったまま、床面の扉に潜り込むようにして入って行く。
次いで、レオンもシート状のままに中へ入ると、自動的に床の扉が閉じた。
「あ・・・あれ・・・?
3号円盤への接続口・・、誰もいないのに、今開かなかったか?」
集中監視室でモニターを監視しているチビ恐竜人兵士の1人が、不思議そうに目を擦る。
「なにねぼけているんだよ・・・、接続ハッチ周りのモニターは俺がずっと監視していたが、翼竜一匹だって通ってやしないぜ。」
隣のチビ恐竜人兵士が、自信満々に答える。
「そ・・・そうだよな・・、き・・・気のせいだろ・・・。
い・・・今の言葉は、忘れてくれ。」
「ああ、分っているさ・・・、なんせ、監視業務なんて、何にも起こらないと、暇以外の何物でもないからな。
ここ数日間は脱走者や、今日の侵入者たちの騒動なんかで監視を強化されているが、いい迷惑だよな。
そんな奴ら・・・、見つけたって騒いでいる奴らが、責任もって捕まえればいいんだ。
何も見てやしない俺たちにまで、どこへ行ったかすぐに見つけろなんて言ったところで、こっち側にまで流れて来やしないって。
どうせ、俺たち皇族の生活に憧れて、一般市民たちがどこで聞いたのか知らんが、こっちの円盤に住みたくて侵入でもして来たんだろ?
皇族の中にもピンきりで、俺達みたいな下級兵士で、こんな牢獄みたいな穴倉で、1日中監視業務っていうやつもいると言うのにな。」
チビ恐竜人兵士は、愚痴りながらため息をついた。
「まあまあまあ・・・、それでも俺たちは部屋を一人一人与えられて、手足を伸ばして寝られるからいい方らしいぞ。
平民たちは、寝る時は小さな穴倉に押し込まれて、縮こまって寝るらしいからな。
それはそうと、さっきも接続口の監視カメラの映像にノイズが入って、数分間見えなくなったし、修理したはずがちっとも直ってやしない。
あとで設備班に、もう一度点検してもらおう。」
そう言って、チビ恐竜人兵士は、そのまま監視業務を続けた。
一方、3号円盤内へ潜入したミリンダは、長い長い階段を昇って行く。
そうして、ようやく階段が終わり、扉の影で中の様子をうかがう。
中はシーンとしていて、物音一つしない。
『カチャリ』ミリンダは慎重にドアノブをひねると、少しだけドアを開けて、そのまま勢いよく部屋の中へと転がり込んだ。
「み・・・ミリンダちゃん・・・、無事だったのかい?」
部屋の中央で、周りを警戒していたセンティアが、嬉しそうに声をかけてくる。
「え・・・ええ・・・、犠牲は出たことは出たけど・・・、あたし自身は無傷だし無事よ。
それはそうと・・・、どう?」
ミリンダが、センティアの向こう側で、忙しく操作しているレーナの様子をうかがう。
「こっちは大丈夫よ、天空ホールの制御は乗っ取って、ミリンダちゃんの映像を大空のスクリーンにタイマーで映し出す、プログラムが終わったわ。
こっちの円盤の施設検索をしたけど、あたしたちの円盤と全く瓜二つよ。
それよりも、こちらの円盤に入ってくる時に、見つからないでこられた?」
レーナが、不安そうにミリンダに振り返る。
「接続ハッチの所を監視している、カメラの事でしょ。
うーん、レオンに隠れて来たから、たぶん大丈夫じゃないかと思うけど・・・。」
ミリンダも、あまり自信はなさそうに答える。
「そう・・・、あたしの時は配線に細工して監視カメラを使えなくしてから入ったけど、恐らくすぐに復旧されたでしょうから心配していたのよ。
大丈夫よ、あそこには生体感知装置はなかったから、カメラにさえ映らなければいいのよ。
こちら側では、警報も鳴っていないから、あたしたちが潜入してきたことには、まだ気づかれてはいない様子ね。」
レーナが笑顔で答える。
「そ・・・そう・・・・、よかったわ。」
ミリンダもほっと息をついた。
「じゃあ、行きましょう。」
レーナが、エレベーターホールへと向かう。
「どこへ行くの?」
「あたしたちの円盤と同じことをするのよ。
元老院本部にある、コントロールを奪うの。
こっちの円盤にも、恐らくあたしたちの円盤と同様に多くの同胞たちが暮らしているはずよ。
地上との交戦に巻き込まれないように、何とか切り離さなくては・・・。」
レーナはそう言いながら、開いた扉の中に入って行く。
センティアが続き、レオンとミリンダも乗り込んだ。
『あたしはミリンダ、あなたたち恐竜人が・・・。』
天空ホールビルを出ると、ちょうど、上空のスクリーンにミリンダの姿が映し出され、メッセージが告げられるところだった。
『なんだなんだ?』『なんだ、あの生き物は?』『言葉をしゃべるぞ・・・・』外の様子が騒がしいので出てきた人々が、上空の映像にくぎ付けとなる。
『やっぱり、昨日の大きな揺れが・・・。』さすがにハルの魔法攻撃で墜落させられた時の衝撃は、大きかったのだろう。
人々は、ミリンダの言葉に真剣に耳を傾けている様子だ。
そんな人々の目を避けるようにレオンをかぶって姿を消しながら、3丁目のマンホールへ向かう。
下水道へ降りて左へ進み、5つ目の梯子を過ぎたところにある扉を開けて中へ入ると、そこは元老院地下のボイラー室だ。
「レオン、また頼むわ。」
すぐにレオンはシート状になって、ミリンダ達の上に覆いかぶさり、周囲と同一化して見えなくなる。
ボイラー室の扉が一人でに開いて、エレベーターの呼び出しボタンが勝手に光る。
エレベーターの扉が自動で開閉すると、3階のボタンが光り、エレベーターが動き出す。
そうして誰もいないのに、3階でエレベーターのドアが開いた。
「へんですねえ・・・、誰も居ませんよ・・・。」
大勢の兵士たちが待ち伏せ・・というよりも、そこには人っ子一人いないようだった。




