第106話
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「じゃあ、行きましょう。」
ハルと所長とミッテランが、ミライとタイガ及び、恐竜人の妻たちと連れだって恐竜人基地の中の長い通路を歩いて行く。
通路の先のドアを開けると、そこは広い洞窟の中だった。
洞窟の中を、傍らを通っているレールを頼りに進んで行くと、行き止まりの壁面に、大きな穴が・・・、その穴をくぐり抜けると、そこは鬼たちの居住区だ。
戦いがひと段落してダロンボたちも戻って来たのか、どの家にも明かりが灯っているようだ。
そこを通り過ぎて、ロッジ風の大きな事務所棟を通過すると、広い空間に辿りつく。
地獄ステージの後の空間だ。
「待ってましたよ、所長。
あれからすぐにヘリで富士の風穴へ向かったんですが、丁度黄泉の穴が開いていたところでした。
すぐに仙台警察の精鋭を中に入れて、その後も西日本からヘリで来た自衛隊員精鋭も迎え入れました。
彼らは既に3回ほど出入りを繰り返しています。
最初は各ダンジョンで脱落者を出したようですが、今では何とか最後のダンジョンまで進むことができるようになっています。
パワードボディスーツを身に付けられるレベルにまで達したら、神仕様にダンジョンを組み替えるつもりです。
これ、大阪から送られてきた、ボディスーツの材料です。」
ジミーが大きな段ボール箱の山を、所長の目の前に積み上げる。
「おおそうか・・、これで、ボディスーツの量産ができる。」
所長も、箱の中の真っ黒い繊維を見て、満足そうにうなずいた。
「じゃあ、おいらは自衛隊員たちの訓練をサポートします。
マルニーさんと手分けして面倒を見ているのですが、なにせ人数が多いものでね・・。
あ・・あと・・・・、マイキーも来ていますよ。
特訓だって言ったら、どうしても一緒に行くって聞かないもので。」
ジミーはそう言い残して、地獄ステージの方へ駆けて行った。
その先に、ミニスカート姿の抜群のプロポーションの美女が・・・。
「あっ、マイキーさん・・・、お久しぶりです。」
「しかしてその実態は・・・。
あっああ、ハル君・・・、あなたのお友達のミリンダちゃん・・・、ひどいじゃない。
私のお株を奪って、潜入捜査なんて・・・、許せないわね。」
どうやら、マイキーはご機嫌斜めな様子だ。
「おおマイキー君、すまんが人手が足りない。
採寸を終えた型紙通りに、生地を切り出す役をやってくれないか?」
所長もやってきて声を掛ける。
「ふん!駄目よ、私は、マスクを外すタイミングを取り戻すのに忙しいから・・・。
こんなことだから、他の子に潜入捜査の役目を奪われてしまうのよ・・・」
マイキーはそう言いながらそっぽを向く。
「いや、潜入捜査も重要な役割だが、パワードボディスーツの制作も、今は大事な仕事なんだ。
これが完成するかどうかで、この星の命運が変わると言っても過言ではない。
だから、手伝ってはくれないか?」
所長は、尚も説得をする。
「ふう・・・、仕方がないわね・・・、でも、予定数まで作り終えたら、私はまた自分の特訓をするわよ。
あんな小娘に、潜入捜査なんて成功するはずないわ、変装だってろくにできないでしょ。
失敗だったってわかったら、すぐに私が潜入するわよ。
あの子の骨を拾ってきてあげるわ。」
渋々ながらマイキーも、一緒にボディスーツ制作に関わることを承知する。
「そ・・・そんな事ありません・・・、み・・・ミリンダが・・、ミリンダが死んじゃうなんて・・・絶対・・・。」
ところが、マイキーの心無い言葉に、ハルが反応した。
(ばかっ・・・、マイキー・・・、なんてことを・・・。)
所長が厳しい目つきで、声を出さずに唇の動きだけでマイキーをたしなめる。
「あ、ああ・・・、ミリンダちゃんなら、全人類が滅亡しても、彼女だけは絶対に生き残るタイプだから無事よ。
でも、潜入捜査までうまく出来るとは限らないわ。
やはり、長年積み上げた知識と、たゆまぬ努力がなければね・・・。」
そう言いながら、マイキーは生地が積み上げられたテーブルへと向かって行った。
「そ・・・そうですよね、ミリンダがやられるわけないですよね・・・。
絶対、無事ですよね・・・、だから、早いところ、チビ恐竜人たちを打ち負かして、助けに行かなくちゃ・・・。」
ハルは決意を新たにする。
「ハル君は、彼女たちにカーボンナノチューブ繊維と蜘蛛の糸から合成した特殊繊維を合わせて編み上げる、自動織機の使い方を教えてあげてくれ。
残った奥さんたちは、型紙通りに裁断された布地を、ミシンで縫製する仕事を受け持ってください。」
協力を申し出てくれた、恐竜人妻たちの中には、ザッハ小隊長の妻であったアカミの姿もある。
そのアカミが中心となって、裁断された布地を縫製する作業に取り掛かってくれた。
「じゃあ、ミライさんとタイガさんはこちらに来てくれ。
まずは採寸だ。」
そう言いながら、所長がメジャーでミライとタイガの丈や肩幅などを採寸していく。
2人とも3mを越える大きさなので、所長は踏み台に乗りながら採寸をしていく。
「じゃあ、次は体力測定だ。
まずは握力から・・・、ミライさん950キロ、タイガさん1000キロ、1トンか・・・すごいね・・・。」
恐竜人に合わせて特注で作らせた握力計は、鋼鉄製の巨大なものだが、それでも目盛が振りきれそうなくらいの力だ。
もしかすると、二人とも多少は加減しているのかとも取れるような様子だ。
「次は、背筋力・・・」
恐竜人仕様のパワードボディスーツ制作のための、身体測定が続いて行く。
この日はデータ採りをして、所長がその値を元にスーツを設計することになった。
「うーん・・・、パワーアシスト用のモーターを、もっと強力なものに、変えなければならないね。
いっそ、自動車のエンジンのような・・・、いやいや・・・、世界戦争前には電気自動車というのが主に走っていたはずだ。
今では、電力供給は都市内のみに限られているから遠出ができないので、ガソリン車に戻ってしまったが、電気自動車のモーターは強力な駆動力を持っていたはずだ。
バッテリーが大きくはなるが彼らなら平気だ、この力を利用することにしよう。
しかし・・・、恐竜人というのは・・・、いうなれば歩くトラックというか、ダンプカーと言ったところだね。」
所長が、ミライ達の測定データを眺めながら、ため息をついた。
「じゃあ、我々は基地へ戻っておく。
いつまた奴らが攻め込んでくるか分らないから、警戒を怠るわけにはいかないのでな。」
そう言ってミライとタイガたちは、基地へと戻って行った。
「ダークサイド」
どこからか、唱える声がして、ミリンダに向かって来ていた光線がピタリと止まった。
「えっ・・・何?」
漆黒の闇と化した中で、ミリンダが慌ててキョロキョロとあたりを見回す。
「ミリンダちゃん、危ないとこだったから、ダークサイドを使ったよ。
物理力が反転したから、最も高速の光は最も低速となった、まあ、動かないのと同じだね。
今なら逃げられるけど、すぐにまた第2波、第3波と発せられるだろう。
何時までも避けきれるものではないから、ここは攻撃に転じよう。」
ミリンダの頭の中に、声が響いてきた。
「ゴローね・・・、分ったけど攻撃ってどうするの?
1台ずつ、あたしが大爆発の魔法を唱えて発射しておく?
そうしてから、ゴローがダークサイドを解けば、動き出すんでしょ?」
ミリンダも、同様に頭の中で考えて会話をする。
「いや、ダークサイドというのは、別にストップモーションのように、周り中の動きを1時的に止める魔法ではないよ。
物理力を反転させるだけで、レーザー光線を放ったロボット兵は、光の進む速度が極端に遅くなって、光線が目標に到達しないから、止まったように見えるだけなんだ。
まあ、この効果は限られたこの場所だけで、周囲とは時間軸が異なるから、この魔法効果範囲だけが動いていることにはなるのだけどね。
だから、魔法攻撃を掛けようとしても同じことさ、高速の魔法を唱えても相手に届かないから1発しか打つことは出来ない。
ミリンダちゃんも魔法を唱えた途端に、固まって動かなくなってしまうんだ。
それよりも、ロボット兵の向きを変えて、同士討ちをさせよう。
今だったら、光線が止まったままで突き出ているのが見えるから、光線に触れないように気を付けて、ロボット同士がお互いのレーザー光線に当たるように向きを変えて行こう。
そうすれば、効率よくロボットを破壊できる。」
ゴローがミリンダに、攻撃方法を指示する。
「分ったわ・・・、ロボット達の向きを変えて行けばいいのね。」
ミリンダがこっくりと頷く。
「ああ、だけど気を付けてくれ、素早く動こうとすると、逆にほとんど動かないことになってしまう。
自分では極力ゆっくりと動こうと注意する。
ロボット兵士は、恐らく相当に重いと予想されるから、すごく軽くなっているはずだ。
だから、力を入れなくても、簡単に向きを変えられるはずなんだが、ここでも気を付けてほしい。
弱い力を加えようとすると、逆に強烈な力が加わることになるから、物を動かす時には、それなりに力を込めて試してくれ。
それでも動かなければ、徐々に力を抜いて行く・・・、つまり、通常とは逆の動きとなる訳だ。」
ゴローの説明は、ちんぷんかんぷんで、ミリンダにはよく理解できなかった。
「まあいいわ、スローモーション映像のように、動けばいいんでしょ。
レオン?居るんでしょ、手伝ってよね・・・。」
ミリンダは頭の中でレオンにも呼びかけながら、ゆっくりと動き出した。
『ヒュン』すると、すぐに目の前にロボット兵士の姿が・・・、今度は渾身の力を込めてロボット兵士を動かそうとする・・・が動かないので少し力を緩める。
すると、ロボット兵士の向きが、少しだけ変わった。
ミリンダはロボット兵士の、銃の先端から飛び出た光の軌跡の先を目で追いながら、その先のロボット兵士に向けて、またゆっくりと一歩を踏み出す。
そうして、1対ずつ相打ちするように、レーザー光線の軌跡の長さを考えながら、ペアを組んで行く。
時々、ロボット兵士がひとりでに動き出すこともあり、レオンが姿を隠しながら動かしているのが分った。
「ふう・・・、こんなものかしらね・・・。」
ミリンダが額に汗しながら、ようやくロボット兵士たちの向きを調整し終えたようだ。
「じゃあ、あたしはこの円の中心にいれば、絶対安全な訳だ。
レオンもここに居なさい。」
ミリンダの指示で、レオンが目の前に姿を現した。
「じゃあ、いいわよ、ダークサイドを解いても・・・。
ああっ・・・、ちょっと待っていて・・・。
レオン、悪いけど、小槌でまた小さくしてくれない?
この大きさのままじゃ、目立っちゃうでしょ?」
ミリンダは、掌の中に小槌を出現させて、レオンに手渡す。
『ピカッ』『ドゴーン』『ドッカーン』『ズン』『ガガーン』辺り一面から、爆発音が鳴り響き、塀の中が爆炎に包まれる。
炎と煙で視界が全く効かない。
やがて、煙が流されて視界が確保されると、そこには壊れたロボット達の残骸が山となっていた。
「な・・・なんという事だ・・・、派兵したロボット兵が全て破壊されてしまった。
しかも、同士討ちではないのか?」
塀の中の様子をモニター画面で見ていたライゼルは、怒り心頭と言った様子だ。
「はい、たった一人の目標に対して、周り中から集中攻撃を掛けたために、目標が消滅すると、余ったレーザー砲が味方のロボット兵たちに・・・。
まあでもいいではないですか、巨大化した人間はレーザー光線の集中攻撃で消滅してしまいました。
我が陣営も被害が出ましたが、街中の破壊は最小限に押さえましたし、ロボット兵は補充が効きます。」
チビ恐竜人兵士は、何という事もないと明るく答える。
「まあ、そう言って言えないことはないだろうが・・・。
現有しているロボット兵士の約3分の1を投入したはずだ。
これでは当面の間、昼間にしか地上攻撃は掛けられんではないか。
ロボット兵士の増産計画はどうなっている?」
ライゼルがため息をつきながら尋ねる。
「はい、次のロットの転送が始まるのは、明日の午後です。
一気に倍以上になりますから、明後日からは昼夜問わずに戦いが継続できます。
更に、秘密兵器も3日後に完成予定となっております。」
チビ恐竜人兵士は、忙しくボタン操作したあとモニター画面を眺め、報告する。
「そうか・・・、まあ明日までは手慣らしの前哨戦と言ったところか・・・。
まあいいだろう、2日後から一気に片を付けてやる。」
ライゼルはそう言いながら、不気味な笑みを浮かべる。




