第103話
2
「塞いだ扉は、まだ破られてはいない様子ね。」
転送されてきた、チビ恐竜人たちの円盤の中は、静かなものだった。
すぐに転送装置が眩く輝いて扉が開くと、センティアとレーナもやって来た。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・・・局地熱波!!!
これでいいわ、レオン、ちょっと大き目になってバリケードを片付けてちょうだい。」
ミリンダは、凍りつかせたバリケードを融かし、レオンに片付けさせる。
そうして、慎重に少しだけドアを開けて、通路の様子をうかがう。
「どうやら、あいつらはまだ凍りついたままの様ね。」
ミリンダは安心した様子で、通路へ出て行く。
「うーん、こいつらどうしようか・・・、さらに凍りつかせてもいいけど・・・、それだと凍死してしまう恐れもあるわよね。
レオンとゴロー、ちょっとその辺見渡して、何か縛るものを見つけて来てちょうだい。」
レオンと蝙蝠はすぐに通路を回り、他の部屋の様子もうかがって行く。
「元老院本部って言っていたから、もっとたくさんのチビ恐竜人がいるのかと思っていたのだけど、こいつらがいまだにそのままという事は、このビルの中にはほかにチビ恐竜人たちはいないようね。
どこに行ったのかしら・・・?」
ミリンダは不思議そうに辺りを見回す。
「そうだね、元老院本部には、常時千名前後の元老院メンバーが詰めているはずなのだが・・・、もしかすると、君の魔法で凍結させられた兵士たちを見て、危険と考えて避難したのかも知れないね。
ドアにバリケードを築いて、我々が立てこもったと判断したのかも知れない。
元老院メンバーだけは一緒に連れて行ったのだろう、我々と同じ、土着の恐竜人兵士だけが残されている。
そうなると、この建物の中から出る時が危ないかもしれないね。
玄関ドアの出いりを見張っている可能性がある。」
センティアが、未だに凍りついている恐竜人兵士たちを眺めながら答える。
「そう、だったら、レオンもゴローも戻ってきていいわよ。
彼らを縛っておかなくてもいいでしょ。
かといって、目覚めさせて説得するのも面倒だから、自然解凍に任せましょ。
でも、そうなると困ったわね、レオンをかぶって見えなくなっても、敵のセンサーに見つかってしまうのよね。」
ミリンダが、腕を組んで考え込む。
「ちょっと待って、父さんに連絡してみるわ。
父さん、聞こえるレーナよ。
訳あって、戻って来たわ。
地上では、皇族たちと土着の恐竜人たち及び人間たちが入り混じって、戦闘状態になっているようすよ。
父さんたちは気付いていないかも知れないけど、この円盤も超巨大な円盤の一部として吸収されているのよ。
早いところ、仲間たちを避難させないと、戦いに巻き込まれてしまうわ。」
レーナが左腕の上に発生させた、キューブ状のモニターに向かって話しかける。
「レーナか・・・、先ほど、少し揺れを感じたが、その時に円盤が合体したのだな。
こちらでは、未だにミリンダちゃんの放送を何とか続けてはいるが、反響は薄いようだ。
やはり、数千年の平穏を破るには、よほどのショッキングな事実を見せつけなければ、目が覚めることはないのだろう。」
スタットから、ため息交じりの返事が返ってきた。
「それはそうと、今元老院本部に居るのだけど、ここから出られそうもないの。
何とか正面玄関以外で、このビルから出る方法はない?」
レーナが、無線で助けを要請する。
「元老院本部は、我々も攻略を狙っている建物だから、建築時の資料は入手してあるが・・・、ちょっと待っていてくれ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
エレベーターで地下に降りて、ボイラー室の隣の扉が、地下下水道に通じている。
右へ進んで行って、5番目の梯子を上ると、3丁目の裏通りのマンホールに出るはずだ。」
すぐに、脱出手順が告げられた。
「ええと・・・、ここがボイラー室ね。その隣だから・・・」
エレベーターで地下に降りた後、長い廊下を進み、レーナがそのうちの一つのドアの前で立ち止まった。
『ガチャガチャ・・・』「駄目だわ、鍵がかかっていて開かないわ。」
頑丈そうな鋼鉄製の扉は、鍵がかかっていて開きそうもない。
「まって、こういう時は任せておいて・・・。」
ミリンダが、いつものようにドア横の柱に手を当てて、ドアを柱に固定しているフックを探るようにする。
『カチャッ』しばらくすると、小さな金属音がした。
「これで大丈夫よ。」
ミリンダがドアノブをひねると、音もなく回転し、ドアが開いた。
「へえ、すごいね。」
これにはセンティアも感心しきりの様子だ。
「下水道の中だから、ちょっと臭うわね・・・。」
汚水の臭気に悩まされながら、下水道を進んで行き、指示された梯子を登って地上に出た。
「さすがに街中すべてに、センサーを張り巡らせてはいないだろうから、ここからはさっきまで同様周りからは見えなくして、天空エレベーターまで行こう。
ここからだと、2つ目の大きな通りを左に曲がると、すぐ前だ。」
センティアに促され、レオンが薄く伸びて3人を包み込む。
しかし、ゴローは蝙蝠の姿で居続けなければならないので、そのまま飛んでいくしかなさそうだ。
『ウィーン』誰もいないのに、自動扉が開き、1匹の蝙蝠が中へ入って行く。
そうして、勝手にエレベーターの扉が開き、蝙蝠が乗り込むと、そのまま遥か上空の天空ホールへと向かう。
『チン』扉が開いて蝙蝠が広い部屋の中へ入って行く。
同時に、薄く伸びたレオンが元の姿に戻り、2人の恐竜人とミリンダの姿が露わになる。
「よくぞ無事で戻ってきた。
どうやら、元老院たちも地上との交戦に躍起になっているのか、お前たちの事などお構いなしの様子だ。
ここには、未だに誰も調べに来てはいない。
だが、いつまでも大丈夫という事はないだろう、正体がばれてしまったからには、行動を起こさねばなるまい。
そうして、長い間の支配の歴史から、脱出するのだ。」
スタットが、力強く拳を握りしめる。
「多分、この下の抜け穴から超巨大円盤に繋がっているのだと思うわ。
攻めるなら、敵の本丸を狙うのよ。」
ミリンダが、こっくりと頷く。
「よし、全員で突撃だ。」
部屋の奥にある階段をどこまでも下って行き、最下層で床のボタンを押すと、四角く扉がスライドし、短いタラップ状の階段が現れた。
「ありゃ、又扉があるわね。
どうやら、超巨大円盤側の扉という訳ね。
どこかに、フックのような物があるかしら・・・。」
ミリンダがそう言いながら、扉のつなぎ目の周囲に掌を当てて行って探る。
「ここね・・・。」
『カチャ』小さな金属音を確かめて、ミリンダが扉を押し付け気味にスライドさせる。
「へっへえ・・・、開いたわ・・、あたしにかかればこんなものよ。
まあ、電動の扉なんだろうけど、こちらからでは手動で開けるしかないわね。」
ミリンダは自慢するように呟きながら、扉をこじ開けた。
「じゃあ、入るわね・・・きゃあ!」
ミリンダが、入口内部の手すりにつかまりながら降りて行こうとした瞬間、体のバランスが崩れ、更にスカートがめくれ上がる。
「この扉部分で、重力が反転しているんだろう。
中へ入ったら、ここが底面だろうから、体を折り曲げて床に体をすべり込ませるといい。」
スタットが、入り方を指南してくれる。
「わ・・分ったわ。」
ミリンダはそう言いながら、膝を折り曲げて扉部分に体を押し付けて、そのまま内側に入り込んだ。
中は暗く、パイプがむき出しの、機械室のような場所だった。
「火弾!」
小さく呟き、掌の上に小さな炎を出現させて、辺りを照らす。
続いて、流体のように体を伸ばしてくねらせながらレオンが入ってきて、センティア達も体をすべり込ませるようにして、続々と部屋に入ってくる。
蝙蝠のゴローは、一瞬羽ばたきを止めて、落下しながらその勢いで中へ入り込むと、方向を変えて羽ばたいて上昇した。
「ここが、超巨大円盤の最下層という訳よね。
こっちにはどういった施設があるのか分かる?」
ミリンダが、スタット達に振り返る。
「いや、我々には自分たちが住んでいる円盤の、しかも片側部分の情報しかないのだ。
だから・・・、他の円盤にも我々が住んでいる円盤同様、数多くの同胞がいるとは思っているのだが、実際の所、真偽のほどは定かではない。
あの円盤の中に3000万人の同胞がいると言うのも、元老院の発表をそのまま話しているにすぎない。」
スタットが残念そうにうな垂れる。
「いやあの・・・、あんな小さな円盤に、いくらあんたたちが小さいからって、3000万人もいる訳ないでしょ。
いくら全てのサイズが10分の一だからって・・・、あの円盤の大きさを10倍したところで、今の釧路くらいの大きさにもならないわよ。
家とか考えたって、数万人くらいが精一杯でしょ?
ずっと不思議に感じてたんだけど、超巨大円盤が現れたから納得したのよ。
このサイズなら、3000万人くらい何とかなるって。
この全体で3000万人なのでしょ?」
ミリンダが必死に考えて、自分なりに出した結論を述べる。
「家・・・家と言うのは、元老院たちが住んでいる施設の事か?
我々はその様な施設に住むようなことは出来ない。」
センティアが当然のことのように返事をする。
「じゃ・・・じゃあ、あんたたちはどこで晩御飯を食べて、どこで寝るの?」
ミリンダが、半ば唖然としながら尋ねる。
「食事?食事は仕事場へ出勤して、仕事の前後に食堂で配給されたものを食べる。
我々が寝る場所は、自分の体がすっぽり収まる大きさのチューブの中だ。
俺の宿は20階建てのビルだが、床にいくつもの穴が開いていて、その中に入ると、重力場が設定されていて、無重力状態で体を浮かせたまま眠れるのだ。
リラックスできるぞ。
仕事場の近くにそう言った施設が分散していて、1ヶ所の施設で10万人程度が睡眠をとる。」
スタットが自慢そうに答える。
「そ・・・そう・・・、ミライさんたち監視役の恐竜人たちが、エリートって言われていた意味が、ようやく分かったわ。
まあ、彼らだって氷漬けで狭い冬眠施設で眠らされていたけど、それでも起きている時はちゃんとした家に家族と住んでいたんだものね。
まあ、交代制での生活だったようだけど・・・。」
ミリンダが、小さな声で呟く。
「そう・・・だったら、この超巨大円盤なら、何億もの恐竜人たちが住んでいる可能性があるわね。
元老院の数も多いのかしらね。」
ミリンダが、周囲を見回しながら想像する。
「まあ、まずは通信施設を見つけましょ。
うまく行けば、他の円盤へも通信して、土着の恐竜人たちへ呼びかけることが出来るかもしれないわ。」
レーナが、左腕の上に光のキューブを出現させながら話す。
「こっちの方向から、微弱電波が流れてくるようよ。」
レーナに促され、全員が歩き出す。
小さな炎で前方を照らしながら、ミリンダを先頭に全員がゆっくりと進んで行く。
「うん?」
突然ミリンダが立ち止まり、明かりを消すと、次の瞬間姿を消した。
「なあに?こそこそとかくれて・・・、すきを窺って襲い掛かろうとしていた?」
数メートル程離れた、天井を支えている太いパイプの影に隠れていた恐竜人の背後に、突然ミリンダが出現した。
「お・・・お前は・・・、何・・・
りゅ・・・竜弾!!」
一瞬たじろいだ恐竜人だが、気を取り直して攻撃を仕掛けてくる。
「障壁!!!」
ミリンダがすぐに障壁を張り、閃光を弾き飛ばす。




