第1話
「ちょっと平和な冒険の書」の続編です。闇の王子との戦いが終わったすぐあとから、舞台は始まります。内容が、過激になってきたので、タイトルを変更いたしました。
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「みんな、やられてしまった。」
クリクリの大きな瞳が印象的な少年は、そう呟きながら、ひたすら歩きつづけていた。
精神感応検知器が付いた球体が飛び交う中、それらに気づかれないよう、密林とも言えるジャングルの中を、南に向かって歩き続けている。
少年の名前はハル、人類にとっての最終戦争とも言える世界大戦で、地上のほとんどの生き物が死に絶える中、ようやく生き残った日本人の末裔だ。
旧北海道は、元は釧路と名の付いていた都市跡で、小さな集落を作って暮らしていたのだが、些細な事から冒険の旅が始まり、やがて世界を飛び回って、人類絶滅の危機とも言える出来事を解決して行った。
冒険家であり、魔術者でもある。
たった一人の戦いではなく、仲間たちと共に協力し合って戦ってきたのだが、今はその仲間もいない。
---------あれはそう、今から数日前の事・・・。
(ハルよ・・・、どうやら学校は休みのようだな。
都合がいいから、明日の昼に仙台市の研究所裏のグラウンドに、主だった仲間たちと集合してくれ。
会わせたい者がいる。
では、よろしくな・・・。)
「うん・・・、あれ?
夢か・・・な?竜神様が、全員を呼び出せって・・・。」
夜明け間近の時間に、夢のお告げで目が覚めたハルが、きょろきょろとあたりを見回す。
「ふう・・・んん、まだ早いから、もうちょっと寝よぅっと・・・。」
外の明るさを見てからハルはそういって、そのまま眠りについた。
7月下旬に、黄泉の国へお礼がてらトロンボに会いに行って、そのままハルたちは中学3年の夏休みに入ったのだ。
短い北海道の夏だが、ハルは勉強の外にも野外での遊びにも夢中だった。
なにせ、ミッテランの特訓の時に北海道の山奥で過ごしたため、そこへも瞬間移動で行けるようになったのだ。
危険な羆も生息してはいるが、小動物が多く、木の実や山菜も多く取れる山奥は、ハルたちの格好の遊び場となっていた。
翌朝、おじいさんに夢の事を告げ、仙台へ行くと断ってから、ミリンダ達を呼びに行こうと勢いよく玄関を飛び出そうとする。
「なんじゃ・・・、闇の王子とやらが封印されて、平和な世の中が戻って来たのではなかったのか?
また、長い事どこかへ飛んで行ってしまうのか?」
「そんな事ありませんって・・・。
竜神様に呼ばれていくだけです。
だれか、会わせたい人って言っていたから、昔出会った人とかに再会させてくれるのでしょう。
事件ではありませんよ。
だから、どこか冒険へ行くようなことはありませんけど、みんなと行くから、帰りが少しは遅くなるかもしれません。」
心配そうに玄関先で見送るおじいさんに、ハルは明るく元気に答えて、家を後にした。
「なあに、どうしたの?こんな朝早くに・・・。」
せっかくの休みだというのに、夜更かしばかりしているミリンダは、寝ている所を起こされて、不機嫌な様子だ。
「うん、竜神様が仙台市のグラウンドに集まってくれって。
会わせたい人がいるって言っていた。」
ハルが、今朝の事をミリンダに告げる。
「ふうん・・・、ポチが夢の中に出て来たの?
会わせたい人って誰かしらね・・・、ゴローのお母さんかな?
分ったわ、ミッテランおばさんは魔法学校の夏期授業で、もう学校へ行っているから、あたしが行って説明するわ。
多分、ジミー先生も魔法学校に出ているはずだから、そっちは大丈夫よ。
まあでも、一旦は学校へ集合するのがいいわね。」
寝ぼけ眼のまま、逆立つ巻き髪を手で押さえつけながら、パジャマ姿のミリンダは、着替える為家の中へと入って行った。
ハルはそれから権蔵の家へ向かう。
ハルたちの学校の校長でもある権蔵宅には、吸血鬼のゴローとチベットの寺院の修行僧であるホーリゥが下宿しているのだ。
「判りました、一緒に行きましょう。」
既に起きて家の手伝いをしていた、ゴローとホーリゥが、権蔵に事情を説明して、家を出て来た。
相変わらずゴローは、黒のタキシードにマントを羽織っている。
夏も真っ盛りというのに暑くはないのだろうか。
以前、ハルも聞いたことがあるのだが、吸血鬼としての仕事着のようなものだから、絶対に脱げないのだそうだ。
ホーリゥは、ホースゥ同様修行着を着ている。
今は、夏用の半そで姿だ。
3人はそのまま、学校の宿舎へ向かう。
宿舎には、今や大学の授業の教鞭をとっている、マイキーとマルニーに加えて、大学生になったゴランとネスリーが住んでいる。
「わかったわ、また新たな潜入捜査先が出来るかもしれないのね。
一緒に行くわ。」
訳の判らないことを言いながら、マイキーはマルニーを連れ立って出て来た。
夏になって、ますます薄着で体の線が丸判りのタイトな出で立ちは、子供のハルですら目のやり場に困るほどだ。
「へえ、竜神様からの招集か・・・、興味があるね。
分った・・・、おいネスリー、一緒に行こう。」
そう言ってゴランは奥に居るネスリーを呼び寄せた。
彼らは、大学生になっても、ハルと同じく、中学用に支給された詰襟の学生服姿だ。
7人は、そのまま宿舎の裏手にある学校のグラウンドへ向かう。
そこには、既にジミーとミッテランが、ミリンダと共に待ち受けていた。
「仙台には既に無線で連絡をしておいたから、所長もグラウンドで待っているはずだ。
だから、直接行けばいい。」
ジミーが笑顔で話しかけてきた。
相変わらず肩からマシンガンを吊り下げているが、今では50センチほどの細長い小箱も持ち歩いている。
闇の王子用に開発された、灼熱のバズーカが折りたたんで入っている、バッグだ。
すっかり気に入って、常時持ち歩いているようだ。
そういえば、ハルも鬼封じの剣を背中に担いでいる姿は、平和になった今でも変わらない。
今となっては、フリフリが付いて大きく裾が広がったスカートのワンピース姿で、エナメルの靴を履いているミリンダの姿が、一番この時代にふさわしいと言えるだろう。
まあ、彼女の場合は、この格好が戦闘服でもあるのだが・・・・。
「じゃあ、仙台市へ行きましょう。」
喪服にも似た黒いドレスがトレードマークのミッテランを中心に、全員が中空へと掻き消えた。
「どうも・・・、ハル君以外の方たちとは、久しぶりとなりますね。」
相変わらず白衣姿の所長は、ジミーから無線を貰ってからすぐに出て来たのか、既にグラウンドの真ん中で待っていた。
『お久しぶりです。』
全員が元気にあいさつをする。
「竜神様の呼び出しという事だが、そうでなくても、みんなを呼び寄せるつもりだった。」
所長が気になることを口にする。
「それは、どういう事ですか?
なにか、気になる出来事でも?」
ジミーが尋ねる。
「ああ、実は、このところ満潮時の潮位が上がってきている。
1ヶ月位前からその傾向はあったんだが、最近になって加速している。
ここ1週間で20センチほども上昇しているから、もしかすると、闇の王子が南極で露出させた火山が噴火でもして、火山灰の影響で南極の氷が溶けだしたのではないかと、心配になってきているのだ。
だから、一度君たちに調査に向かってもらおうと思っていてね。
富士山ふもとの黄泉の穴ももう既に閉じてしまったから、瞬間移動で行ってもらうしかないのだが、行ってみてはくれないか?
もし、火山灰が降り積もっていたら、表層の黒い粒を吹き飛ばして1ヶ所に集めて収集してしまうか、もしくは逆に雪を降り積もらせて覆って仕舞うかすればいい。
どちらでも、すぐに効果が出るだろう。
なにせ、南極方面には観測用の人工衛星もコントロール可能なものがないから、何の情報も入っては来ないのだ。
頼りは、君たちだけだ。」
所長が、厳しい表情で説明する。
闇の王子を封印した後、ミリンダとミッテランの二人の魔法で、凍りつかせたつもりではあるのだが、なんにしても何十億年もの長い歳月をかけて、深々と降り積もった何百メートルもの氷の厚みを瞬時に再現することは叶わない。
時の経過に願いを込めたのだが、誤った判断だっただろうか。
「分ったわ、この間所長さんが言っていたように、あたしたちの住む平地が無くなってしまったら困るもの。
すぐにでも行くわ。」
そう言いながら、ミリンダは瞬間移動の体勢に入る。
「待ってよ、まずは竜神様の話を聞くことが先でしょ。
この事に関係するかもしれないから、まずは聞いてみようよ。
天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使徒を授けよ。
いでよ、竜神!」
ハルが唱えると、晴れ渡っていた空が一瞬で掻き曇り、分厚く垂れ込めた雲の隙間から一筋の光が差し込み、その光を伝って神獣が降りてくる。
「久しぶりだな。」
体長百メートルは優に超える竜神は、上空からハルたちを見下ろしながら挨拶をする。
「お久しぶりです、竜神様。
合わせたい人って、一体誰なんですか?」
ハルが、元気に大声で上空に向かって問いかける。
「ああ、実は・・・これ・・・。」
「た・・・大変です!」
竜神が、話しだそうとした瞬間、研究所ビルから一人の研究員が息せき切って駆け込んできた。
「どうしたんだい、一体・・・。」
所長が心配そうに、息を切らせて苦しそうにあえいでいる、若い研究員の背中をさする。
「はあはあはあ・・・、実は、マイキーさんの国から緊急連絡が入りまして、S国の人工衛星の観測結果では、北大西洋に突然大陸が浮上したそうです。はぁはぁ・・・。
場所は、旧スペイン沖、南西に3000キロほどの距離という事です。はあはあはぁ・・・。」
研究員は、荒い息のままようやく告げる。
「な・・・、なんだって・・・?
じゃあ、このところの海面上昇は、その大陸の影響だったのか・・・。
どうやら南極ではなかったようだね。
どちらにしても、新大陸出現となれば大ごとだ。
これはすぐにでも、調査に向かわなければならないね。」
所長が、がぜん張り切りだす。
「それはそうと・・・、竜神様の用事って・・・。」
ハルが、上空を見上げる。
「あ・・・、ああ。
まあ、わしの用事はさほど大したことではない。
急いで行かねばならんのだろう?
またの機会としよう。」
そう言って、竜神は天へ帰って行った。
「緊急連絡によると、どうやらS国から調査団が新大陸に向けて派遣されるらしい。
マイキーの国へも派兵要請が来たようだが、一緒に我々にも参加してほしいそうだ。
ヘリで港まで行き、そこから軍艦で向かう手はずになっている。
申し訳ないが、一旦釧路へ戻って、冒険の支度を整えてきてほしい。
こちらでも、携行食料やテントなどを手配しておく。」
所長はそう言い残して、研究員と共にビルの中へ入って行った。
「じゃあ、あたしたちも。」
そう言って、ミッテランを中心に、もう一度釧路へと戻る。
それからは大変だった。
各自の家へ戻って事情を説明し、長期間の冒険へ出ることを告げる。
平和になったので、以前のように緊急対応のリュックなどは既に準備していない。
誰もが大慌てで押入れの奥からリュックを見つけだし、着替えや勉強道具などを詰め込む。
更に、毎度おなじみとなって来たが、やっておかなければならないことがあった。
タイトルが変更になりましたが、あまり過激路線には走らないようにしたいと考えております。