なでしこ
学力テストは、五時間目まで続いた。
普通の授業なら六時間目まであるところだが、学力テストということで、一年生だけはここで終わりだ。
裕也は部室へ向かった。
まだ誰も来ていない。
昨日の練習では、ほとんどボールに触らせてもらえなかった。
今日も昨日みたいな練習なんだろうか。
あんなにきつい練習は初めてだった。
裕也はため息をついた。
だが、そんなことを考えても仕方ない。
「よし!」
裕也は自分に言い聞かせるように声を出して、両手で頬を二回叩いた。
練習着に着替えてボールを一つ取り出す。
グラウンドに出ると、二年生が体育の授業をしていた。
柔軟体操で入念に体をほぐす。
筋肉痛のふくらはぎが悲鳴を上げる。
少し走ってみるか。
裕也は体育の授業の邪魔にならないよう、ドリブルをしながらグラウンドの端っこを軽く走った。
うっすらと額に汗がにじむ。
一往復したところで足を止める。
意外と大丈夫そうだ。
「相川くん?」
いつの間にか遥が来ていた。
「何してんの?」
「まぁ、暇だからな」
「一人?」
「あぁ。まだ誰も来てない」
「そっか。だったら練習付き合ってあげようか?」
「はぁ?いいよ、別に…」
「いいから、ボールちょうだい」
何だよ、めんどくせぇなぁ…
裕也は軽く遥の方にボールを転がした。
遥は右足の土踏まずでボールを止めると、少し前に転がしてきれいなインサイドキックで裕也の足元にボールを送った。
裕也は少し驚いた。
こいつ経験者か?
「上手いな」
「でしょ?少しやってたんだ。サッカー」
「へぇ」
意外だ。そんな風には見えない。
「いつごろやってたんだ?」
試しに少し強めにパスを出す。
遥は難なくトラップすると、素早くボールを返してきた。
「小学校のとき、地域のクラブチームに入ってた」
「女子のか?」
もう一度強めに蹴ってみた。
「ううん。男の子と一緒」
またもやワントラップして返す。
「なんで辞めたんだ?」
今度は柔らかめにボールを出す。
遥はボールを止めた。
「中学で女子が入れるチームがなかったから…」
「それでマネージャーやってたのか…」
「これでもなでしこ目指してたんだよ」
チャイムが鳴った。
「ねぇ、何でマネージャーしてたって知ってんの?」
「あぁ、昨日石橋に…」
「遥ちゃーん」
体育の授業が終わった千佳が駆け寄ってきた。
「あっ。千佳センパイ!」
千佳は一瞬裕也に視線を送った。
「ねぇ、遥ちゃんさぁ…」
二人は楽しそうに喋りながら、グラウンドを後にした。
裕也は取り残されたボールを拾うと、雲一つない空を見上げた。
今日も暑くなりそうだ―




