ボチボチ
「痛ぇ…」
酷い筋肉痛だ。
中学のときは、練習なんか楽勝だったはずなのに。
自転車をこぐのも辛い。
しかし、何で学校というのは少し小高い場所にあるんだろう。
校門までの数十メートルのゆるやかな上り坂が、地獄に見える。
「くっそ!」
立ちこぎで一気に登る。
あとは惰性で駐輪場まで向かった。
「情けねぇ…」
高校生活二日目。
裕也にとって、今日が三年間で一番辛い登校となったに違いない。
自転車に鍵をかけ、部室に向かう。
先輩たちは、ちょうど朝練が終わったころだ。
「おはようございます」
挨拶をして、部室に荷物を置いた。
遥はもう来ている。
一年生は、明日から朝練が始まると聞いていたが、マネージャーは関係ないのか。
遥と目が合う。
裕也はなんとなく目を逸らしてしまった。
「相川くん、おはよう」
「おう…」
裕也は、今気付いたようなフリをした。
「早いな」
「うん。相川くんたちも明日から朝練始まるね」
「あぁ」
「遥ちゃん、ちょっといい?」
千佳が呼んでいる。
「はーい」
マネージャーは、朝から忙しそうだ。
「じゃあ、あとでね」
「あぁ」
裕也は時計を見た。
ホームルームの時間までに余裕があることを確認すると、筋肉痛を悟られないようゆっくり歩いて教室へ向かった。
チャイムが鳴って、斎藤先生が教室に入ってきた。
手にはプリントの束。
そうだ、完全に忘れてた。
今日は一日、学力テストだ。
「どうだ?筋肉痛は」
プリントを配りながら、斎藤先生が裕也に小声で言った。
これだから担任が部活の顧問なんて嫌なんだよ。
「はい。ボチボチです」
「そうか」
斎藤先生はニヤリと笑った。
一時間目が終わると、いつものように遥が舞の席にやってきた。
「舞、テストどうだった?」
「うん。結構できたかも」
「私も」
なんだ?こいつら…
裕也には、半分も取れればいいくらいの感触しかない。
裕也は聞こえないフリをした。
「ねぇ、相川くんは?」
舞が言った。
「何が?」
裕也はとぼけて言った。
「今のテスト」
「あぁ」
俺に聞くな。
「ねぇ、どうだった?」
「ボチボチ、かな…」
「だよねぇ?」
二人はテストの問題の内容を、ああだこうだと楽しそうに話している。
頼むから、俺には話しかけないでくれ。
裕也は心の底からそう思った。




