西野遥
裕也は中学時代、13番を付けていた。
裕也が好きなストライカーが、クラブチームでも代表でも付けていた番号だ。
13番は、憧れでもあり、こだわりでもあった。
部員を何十人も抱える強豪校なら、よほどの実力がない限り、一年生で番号をもらえることなどまずない。
ただ、このチームは部員二十人の弱小チームである。
しかも幸運なことに13番は空いている。
だが、いくら弱小チームとはいっても、新入部員がいきなり好きな番号をもらえるほど甘くはない。
それに、ユニフォーム自体いつもらえるかわからない。
そうだ。焦っても仕方がない。
もらえなかったときは、もらえなかったときだ。
たとえすぐにもらえなくても、必ず実力で13番を背負ってやる。
裕也は、ひとまず13番に対する思いを封印することにした。
サッカー部の練習は、ランニングから始まる。
裕也はランニングが嫌いだ。
昔から足は速い方だったが、体力には自信がない。
それでも中学のときはなんとかこなしてきたが、さすがに高校ではそうはいかない。
いったいいつまで走るんだよ…
ようやくランニングが終わると、裕也はグラウンドに座り込んだ。
「お前、体力ねぇなぁ」
キャプテンが傍に来て笑う。
「すいません…」
息が上がってそれ以上声が出ない。
今すぐ横になりたい気分だ。
「よーし。次、ストレッチ!」
キャプテンが号令をかける。
この人は鬼だ―
裕也はキャプテンを見上げた。
裕也はキャプテンと組んでストレッチをしながら、グラウンドの隅のテントの下にいる遥の方をなんとなく見ていた。
二中でもマネージャーしてたって言ってたけど、あんなやついたか?
裕也の記憶には、遥の存在などまったくなかった。
ストレッチのあとも、サーキットトレーニングやダッシュなどが続き、なかなかボールを触らせてくれない。
もうバテバテだ。
汗がしたたり落ちる。
高校の部活ってこんなにきついのか。
「よし。五分休憩」
キャプテンが仏様に見えた。
他の部員たちはテントに向かい、思い思いに水分を補給している。
裕也はグラウンドに大の字になった。
もう動けない。
西陽が眩しくて目を閉じる。
ふいに冷たいものが頬に触れた。
驚いて目を開ける。
「はい」
遥が笑顔でペットボトルを差し出す。
裕也は起き上がった。
ペットボトルを受け取ると、一度うがいをして、水を口の中に流し込んだ。
「がんばってね。相川くん」
裕也からペットボトルを受け取ると、遥はテントの方へ走って行った。
裕也は、その後姿をじっと見つめた。




