あいかわらず
三人は遥の様子が気になっていた。
化学室の空気はなんとなく重かった。
「相川くん、本当にもうサッカーやらないの?」
舞がふいに口を開いた。
「何だよ、急に…」
裕也は訝った。
「遥が昔サッカーしてたこと、知ってるでしょ?」
「あぁ。それが何だ?」
「遥、そのころから相川くんのこと知ってるのよ」
「はぁ?」
「六年生のときって言ってたかな。十二歳以下の大会で、相川くんのチームと試合してるの」
地域のクラブチームに入っていた遥は、裕也の小学校のチームと二回戦で対戦した。
参加チームも少ない小さな大会だ。
裕也のチームも遥のチームも、優勝候補の一角に数えられていた。
いよいよ試合開始だ。
センターフォワードの裕也は、とても速くて上手かった。
遥はトップ下に入っていたが、終始守備に追われて何もできなかった。
裕也は、遥の敵う相手ではなかった。
試合は0‐4で負けた。
他のチームメイトが悔し涙を流すなか、遥はちっとも悔しくなかった。
あのフォワード、凄い―
遥は、大好きなストライカーと裕也を重ね合わせた。
裕也のチームは、準決勝でPK戦のすえ敗れた。
最後のPKを外して泣きじゃくる裕也を、遥は観客席から見つめた。
中学に入り、遥はサッカー部のマネージャーになった。
隣の中学に入学した裕也も、サッカー部に入るに違いない。
もう一度、あのプレーが見たい。
「今だから言うけど…」
舞が続けた。
「二中の頃、私と遥、相川くんのファンクラブに入ってたの」
裕也は驚いた表情を見せた。
「最初は二人だけだったんだけど。ていうか、遥一人じゃかわいそうだから、私が遥に付き合っただけなんだけどね。遥がファンクラブ一号で、私が二号」
「何だそれ?で、何人いたんだ?」
なぜか陵は興味津々だ。
「うーん…六人くらいだったかなぁ」
「裕也、スゲェな」
陵が笑った。
「遥はずっと相川くんのサッカーが好きで応援してたのよ。だから高校で一緒にサッカーができるって喜んでたのに…」
「知らねぇよ、そんなこと言われても…」
裕也は座り直して窓の外に目を向けた。
「お前さぁ…」
少し苛々した様子の裕也に、陵が言った。
「本当はサッカーしたいんだろ?」
裕也は無視したように黙っている。
「ネガティブで飽きっぽいお前が真剣にやってきたのって、サッカーだけだったじゃねぇか」
「うるせぇなぁ。だったら何でギターなんか薦めたんだよ」
「気分転換だって言ったろ?そのうち飽きてサッカーが恋しくなると思ったんだよ」
陵は、裕也に向かってニヤリと笑った。
「行かなくていいのか?」
「どこにだよ?」
「さぁな。まぁ心配すんな。お前よりギターが上手いヤツなんていくらでもいる」
「ふざけるな」
裕也は立ち上がった。
「どうしたの?」
舞が裕也に声をかける。
「便所行ってくる」
裕也は化学室を出ると、トイレとは反対の方向に歩いて行った。
「あいかわらず素直じゃねぇなぁ」
「本当ね」
「さて、帰るぞ」
「うん」
陵が先に出口に向かう。
「私も素直になろっかな…」
舞は缶ジュースの空き缶を捨てながらつぶやいた。
「何か言ったか?」
陵が振り返った。
「ううん。何でもない。帰ろ」




