陵のバンド
裕也は、陵にギターを習った日から少しずつ練習を始めた。
裕也のオンボロギターの弦は、新しく張り替えられていた。
指先の痛みもなくなった。
一度、陵のバンドの練習を見に行った。
こんなに大きな音でやるのか。
驚いたと同時に、興奮した。
自分もやってみたいと思った。
裕也は、もっと上手くなりたかった。
陵のバンドは今日の文化祭に出るのだが、もちろん初心者の裕也に出番などあるはずもない。
陵はどんな演奏をするのだろう。
裕也はワクワクしていた。
舞と遥は、午前中から松岡先生と一緒に水飴を配っていた。
「山下くんのバンド、何時からだっけ?」
舞はなんだか落ち着かない様子だ。
「たしか一時からだったと思うよ」
遥が答えた。
時計は十一時を過ぎている。
「間に合うかなぁ」
舞が心配そうに言った。
「舞、時間になったら山下くんのバンド観に行っていいよ。あとは私やっとくから」
「えー?いいよ、別に…」
「でも観たいんでしょ?」
「観たいけど…」
ふと廊下を見ると、裕也が一人で歩いていた。
「相川くーん!」
舞が手を振って裕也を呼び止める。
「ちょっと、舞…」
遥は慌てた。
「立ってるものは何とやらってやつよ」
舞は廊下の裕也の方へ小走りに向かった。
「ねぇ、相川くんヒマでしょ?」
「ヒマでしょって何だよ?」
「水飴配るの手伝ってよ」
「何でだよ?」
「早く終わらないと山下くんのバンドに間に合わないのよ」
「知らねぇよ、そんなの」
「ね?お願い」
「は?意味わかんねぇ」
「松岡先生。相川くんが手伝ってくれるそうです」
舞が遥に向かって笑顔で小さくピースサインをした。
「お前、覚えてろよ…」
「はいはい」
舞が裕也の背中を押して、遥の方に連れて来て言った。
「じゃあ、私は松岡先生と配るから、相川くんと遥、よろしくね」
「おい…」
裕也と遥は、舞に言われるがままに一緒に水飴を配り始めた。
「何なんだよ、これ?」
「うん…」
「本当、わけわかんねぇ」
「ごめんね…」
「何でお前が謝るんだよ」
「…」
遥は黙ってうつむいた。
「そんな顔すんなよ。しょうがねぇからさっさと終わらせようぜ」
水飴はなんとか午前中にほぼ配り終えた。
「三人ともありがとう。あとは先生だけで大丈夫だから、もう行っていいわよ」
松岡先生が三人に言った。
「いいんですか?すいません」
「うん。本当に助かったわ」
「じゃあ、お先に失礼します」
「はい。お疲れさま」
三人は松岡先生に挨拶をすると、軽く昼食を済ませてバンドの演奏会場である体育館へ急いだ。
「なんとか間に合いそうね」
舞が安心したように言った。
「何で俺までこんな目に合わなきゃいけねぇんだよ」
「いいじゃない。楽しかったでしょ?」
舞はチラッと遥を見た。
遥は声に出さずに「もう」と言って、頬をちょっぴり膨らませた。
体育館に入ると、三つ空いている席を探した。
「遥、こっち」
舞が遥の手を引いた。
遥の後ろに裕也が続く。
三人は、中央よりやや右手の席に順に座った。
いよいよ陵のバンドの演奏が始まった。
すごい音量だ。
遥の聴いたことのない曲ばかり六曲。時間にして約三十分のステージは、あっという間に終わった。
遥を挟んで両隣に座った二人は、とても楽しそうだった。




