ミサンガ
土曜日の夕方、部活から帰ってきた遥はジャージ姿のまま自宅のパソコンの前に座っていた。
インターネットで検索をする。
ミサンガの作り方―
「うわっ。いっぱい出てきた」
適当にいくつか開いてみる。
「なんだか難しそう…」
遥はおせじにも器用とはいえない。
更に開く。
「あった」
簡単なミサンガの作り方。
図解付きだ。
じっくり読んでみる。
「よし。これにしよっ」
遥はプリントアウトした。
サッカー部は今年に入って、練習試合も含めてまだ一勝もしていない。
なんとか一つでもいいから勝ちたい。
十月下旬から、サッカーの全国大会の予選が始まる。
それまでに完成させなければならない。
大会まで一カ月もない。
「明日の夕方ヒマ?買い物付き合ってほしいんだけど」
遥は逸る思いで舞にLINEを送った。
一分もしないうちに舞からの返信。
「OK」のスタンプ。
「ありがとう」
遥は舞に大きなスタンプを送った。
翌日、遥は部活から戻ると急いで着替えて舞との待ち合わせ場所のファストフード店へ向かった。
「ごめーん。待った?」
「ううん。大丈夫」
舞が持っていたオレンジジュースは、ほとんど空だった。
「で、買い物って?」
舞が残りのオレンジジュースを飲み干して言った。
「手芸屋さんに行きたいんだけど」
「遥。熱でもあるんじゃないの?」
遥の腕前を知っている舞は目を丸くした。
「あのね…」
遥は舞に事情を説明した。
「わかった。でも遥、できるの?」
「うん。頑張る」
遥は舞に選んでもらった刺繍用の糸を三色買った。
サッカー部のチームカラーの赤、セカンドユニフォームの白。
そして、遥が好きな青。
遥は家に帰って夕食をすませると、自分の部屋に戻って買ってきた刺繍糸を広げた。
プリントアウトした「簡単なミサンガの作り方」と、しばらくにらめっこする。
なるほど。
三つ編みと同じやり方だ。
遥は三色の糸をそれぞれ二本一組にして編み始めた。
ところが意外と難しい。
「あーん。何で?」
何度図解のとおりやってみても、すぐにほどけてしまう。
こんな調子じゃとても大会には間に合わない。
今更ながら自分の不器用さが情けなくなった。
「もう…」
遥は作りかけのミサンガを机の上に無造作に置いて、ため息をついた。
ふいに携帯が鳴った。
舞からだ。
「どう?調子は」
「全然ダメ。もう泣きたくなってきた」
「やっぱりね」
舞は電話の向こうで笑った。
「三つ編みと同じだと思うんだけど…」
遥はそう言って刺繍糸の束を見つめた。
「遥さぁ、髪型ずっとショートだったじゃん?だから、三つ編みなんか今までしたことないんじゃないの?」
確かに、言われてみればそうだ。
小学校のころからサッカーをやっていた遥は、それ以来髪を長く伸ばしたことがない。
「あのね、遥…」
舞が編み方のコツを丁寧に話し始めた。
「ちょっと待って」
遥は携帯のスピーカーをオンにした。
「ごめん。もう一回お願い」
遥は舞の言うとおりに編み始めた。
さっきまで全くできなかったのが嘘のようだ。
「舞。できたよ」
「何とかなりそう?」
「うん」
「よかった。じゃあ頑張ってね」
「うん。ありがと」
遥は電話を切った。
「よし。頑張ろ」
遥は黙々とミサンガを編み続けた。
「やっとできた…」
遥は大きく伸びをした。
とても格好のいいものではないが、ようやく一つ完成した。
これをあと二十一本。
部員二十人と千佳。
そう。裕也の分まで。
「相川くんが、またサッカーができますように」
遥は願いを込めて左手首にミサンガを結んだ。
時計の針は、午前一時を回っていた。




