オンボロギター
やっと松葉杖が取れた。
普通に歩く分には何の支障もない。
リハビリは落ちた右足の筋力を戻すため、器具を使ったトレーニングが中心となった。
もうサッカーをするつもりはない裕也にとっては、どうでもいいことに思えたが、これをきちんとやらないと、体のバランスが悪くなるらしい。
歩く練習も辛かったが、これはこれで結構きつい。
九月も下旬だが、まだまだ暑い。
1セット終わるころには汗だくだ。
あと2セット。
さっさと終わらせて家に帰ろう。
裕也はタオルで汗を拭うと、休む間もなくトレーニングを続けた。
待合室では母が待っていた。
「終わった?」
「うん」
とりあえずリハビリが終わるまでという約束で、母の送り迎えは続いている。
「暑ぃ…」
車に乗ると、すぐにシャツのボタンを外してエアコンの風を浴びた。
「リハビリはまだ続きそう?」
「先生は今月いっぱいって言ってた」
「そう」
ということは、来月からまた自転車通学に戻るということだ。
最初は、車での送り迎えが恥ずかしかったものだが、今となってはこんなに快適なものはない。
裕也は窓の外を眺めて、ため息をついた。
週末、陵は裕也の部屋にいた。
オンボロとケチをつけた裕也のギターを楽しそうに弾いている。
そういえば、裕也の病室でギターを薦めてきたわりにはあれから何も言わない。
もう新しいメンバーは見つかったのか。
「なぁ、陵。ギターのメンバーってどうなったんだ?」
「あ?別にどうもなってねぇよ」
「マジか…」
「何だ?もしかして少しはやる気になったか?」
「そうじゃねぇよ」
「ほら」
陵は裕也にギターを渡した。
「弾いてみろよ」
「無理だよ…」
「教えてやるからやってみろって。どうせやることねぇんだろ?暇つぶしくらいにはなるぜ」
しょうがねぇなぁ…
あんまり気は進まなかったが、裕也は自分が知っている一番簡単なAmのコードを鳴らした。
「いいじゃねぇか」
陵が満足そうに言った。
裕也は病室に陵が持ってきたスコア譜を、机の引き出しから取り出した。
「ほう。一応持ってたのか」
「陵。教えろ」
「何だ?ずいぶん上からだな」
陵は一旦ギターを受け取ると、ひととおり弾いてみせた。
「どうだ?簡単だろ?」
「ふざけるな」
陵は弦の押さえ方や指の運びを、丁寧に裕也に教えた。
裕也の指先はすぐに真っ赤になった。
「指が痛ぇ…」
「ま、そこは慣れだな」
「くっそ…あのとき缶コーヒーなんか飲むんじゃなかった」
「何の話だ?」
「何でもねぇよ」
裕也は赤くヒリヒリする指先を見つめながら言った。




