ありがとな
九月に入って二週間あまり。
今日から学校に復帰だ。
とはいっても、まだリハビリのための通院はしなくてはならない。
松葉杖も持たされている。
自転車に乗れるようになるまでは、母が車で送り迎えをしてくれる。
校門の前で車を降りるのが、少々恥ずかしい。
「おう、相川。大丈夫か?」
教室に入ると、クラスメイトが大げさに出迎えてくれた。
席に座って窓際の一番後ろの席を見る。
陵がニヤリと笑った。
「おはよう。久しぶりね」
舞が言った。
陵は家が近所ということもあって、退院してからもしょっちゅう裕也の家に遊びに来ていたが、舞と遥には花火大会以来会っていない。
そういえば、いつも舞と一緒にいる遥の姿が見えない。
今日は休みなのか。
「何?遥?」
舞がふいに言った。
「いや、別に…」
裕也は慌てた。
「もうすぐ来るんじゃない?朝練だと思うよ」
「そうか…」
まだ朝練の時間か…
裕也は、なんとなく後ろめたいものを感じた。
ホームルームが始まる五分前、遥が教室へ入ってきた。
「あっ」
一瞬目が合って、お互い逸らした。
「舞、おはよう」
「おはよう」
「相川くん、おはよう…」
「あぁ」
なんとなくぎこちない。
「あの…もう大丈夫なの?」
「一応な」
裕也は壁に立て掛けた松葉杖を指差した。
「そっか…」
チャイムが鳴った。
「あっ…」
遥は慌てて自分の席へ向かおうとした。
「西野…」
「え?何?」
遥が驚いて振り返る。
「いろいろ、ありがとな…」
裕也が照れくさそうに言った。
「うん」
遥は嬉しそうに自分の席についた。
「ふーん」
舞は頬杖をついて横目で裕也を見た。
「何だよ」
顔が熱い。
「別にぃ」
舞は下敷きを左手に持って、団扇がわりに扇いだ。
「あー、暑い、暑い…」
風は裕也のもとにも届いた。




