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HARUKA  作者: zaku
20/28

退院

 「忘れ物ない?」

 「たぶん…」

 あの悪夢のデビュー戦から約一カ月半。

 リハビリを兼ねた入院生活も、今日で終わりだ。

 もう二学期は始まっている。

 裕也は病室を見渡した。

 夏休みのほとんどをここで過ごした。

 やっと家に帰れる。

 主治医の先生からは、とりあえず松葉杖で歩くように言われている。

 実際、松葉杖がなくても歩こうと思えば歩けるのだが、リハビリの先生によれば、あと二週間程度通院して経過を診るという。

 退院してもしばらくは自宅療養で、リハビリも続けなくてはならない。

 「さ、帰るわよ」

 「うん…」

 裕也は母に促されて病室を後にした。

 母の運転する車に乗り、家へ戻った。

 試合当日の裕也の荷物は、斎藤先生が届けてくれたらしい。

 自転車は学校に置いたままだ。

 裕也は二階の自分の部屋に入ると、ベッドに横になった。

 窓のカーテンレールには、きれいに洗濯された13番のユニフォーム。

 あの日のことは、思い出したくもない。

 裕也は起き上がると、ユニフォームをクローゼットの中にしまった。

 家に戻った安心感からか、裕也はいつの間にか眠っていた。

 

 ふいに目を覚ますと、もう夕方だった。

 一階のリビングへ行くと、母が夕飯の準備をしていた。

 「足はどう?」

 「大丈夫」

 「お茶、入れようか?」

 「うん」

 ソファに座り、テレビをつけた。

 サッカーの日本代表の試合だ。

 裕也は思わずバラエティ番組にチャンネルを切り替えた。

 しばらくすると、父が帰ってきた。

 「おっ。裕也、帰ってきたか」

 「うん」

 「よし。退院祝いだ」

 父は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

 「お父さん、毎日飲んでるでしょ?」

 母があきれた顔で言った。

 父も母も日本代表のサッカーの試合があることは知っているはずなのに、まったくその話には触れなかった。

 裕也に気を使ってくれているということは明らかだった。

 リビングのDVDレコーダーの録画中の赤いランプが、それを教えてくれた。

 裕也は食事を終えると、自分の部屋に戻った。

 部屋中に貼ってあるサッカー雑誌の切り抜きやポスターが、裕也を蔑んでいるように思えた。



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