石橋舞
「舞ー。同じクラスだね。よかったぁ」
「あ、遥。私も嬉しい」
隣の席の女子のところに、同じ中学の出身であろう女子が来てはしゃいでいる。
この地域には中学校が四校しかなく、公立の普通高校は、ここだけだ。
頭のいい生徒はそれなりの私立高校へ進学するが、いわゆる平均点クラスの生徒は、ほぼこの高校へ進学する。だから、同じクラスに同じ中学の出身者がそれなりにいるのは当たり前のことだ。
しかし、こんなくだらない話で盛り上がれる女子って何なんだろう。
裕也には理解できなかった。
チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。
ザワついていた教室が一瞬静まり返る。
三十歳くらいだろうか。男の先生だ。
先生は、クラス名簿を見て言った。
「相川。号令よろしく」
忘れてた。
この席にはこれもあった。
「起立。礼。着席」
「おはよう。担任の斎藤です。教科は英語で、部活はサッカー部です」
マジか。
担任が部活の顧問なんて最悪だ―
「相川。お前、サッカー部だろ?」
「え?」
「情報は入ってるぞ」
斎藤先生はニヤリと笑った。
最悪だ―
「相川と石橋。今日の日直よろしく」
「よろしくね」
隣の席の石橋舞が、人懐っこい笑顔で裕也に向かって言った。
「あぁ…」
「それじゃあ、簡単に自己紹介を始めてもらいます。相川から一言ずつ」
まだ心の準備ができていない。
「あの…三中から来ました相川裕也です。よろしくお願いします…」
少し声が上ずった。緊張が伝わったのか、舞が隣の席でクスッと笑った。
くそっ。最悪だ―
この日は、学校の説明や、今後のスケジュールの確認で終わった。
それでも裕也にとっては長い一日だった。
「相川くん、サッカー部なの?」
黒板を消しながら舞が言った。
「あぁ」
裕也は窓際の机に座って外を眺めていた。
長袖の制服が暑いくらいのいい天気だ。
「三中って去年、県大会行ったよね?」
裕也は舞の方に向き直った。
「おう。何で知ってんだ?」
「遥が言ってた」
「遥?」
「そう。私の中学からの友達で西野遥。同じクラスだけど」
あぁ、朝からこいつと喋ってた女子か。
「遥、二中でサッカー部のマネージャーやってたから」
「マネージャー?」
「うん」
二中といえば、決勝で当たったところだ。
「まぁ、二回勝てば県大会だからな…」
なにせ、参加校は四校しかない。
「ねぇ、ボケっとしてないで手伝ってよ」
「あぁ、悪い」
「上の方届かないんだから」
裕也は舞から黒板消しを受け取ると、残りの部分を丁寧に消した。
舞は、黒板の右端に明日の日付と日直の名前を書いている。
人見知りの裕也が、今日初めて会った女子と普通に喋っている。
自分でも不思議だった。
それに、この空間がとても居心地のいいものに感じられた。
こんなことは初めてかもしれない。
「ありがと。あとはやっとくから」
舞は手についたチョークの粉を掃いながら言った。
「部活、あるんでしょ?」
「いいのか?」
裕也はカバンとスポーツバッグを左肩に背負うと、足早にサッカー部の部室へと向かった。




