花火大会
「さぁて、どうするか…」
陵は、裕也の病室に向かっていた。
普通に誘ったところで、素直に乗っかるような相手ではない。
それは陵が一番わかっている。
とりあえず顔色でもうかがうか。
だが、花火大会は明後日だ。
あまり時間はない。
そんなことを考えながら歩いていると、裕也の病室の前に着いてしまった。
妙案もないまま病室のドアをノックしようとしたそのとき、ふいにドアが開いた。
「あら、陵くん」
「あ、こんにちは…」
裕也の母だ。
ちょうど今帰るところだと言う。
「あの、おばさん。明後日の花火、裕也誘っても大丈夫ですか?」
陵はとっさに口をついた言葉に、自分でも驚いた。
「おばさんは構わないわよ」
「何勝手なこと言ってんだよ」
裕也がベッドの上で文句を言っている。
「行ってくればいいじゃない。ここにいても音が聞こえるだけでしょ?」
思わぬ援護射撃だ。
「ですよねぇ?」
「じゃあ、おばさん帰るから。陵くん、ゆっくりしてってね」
「はい」
「お母さんにもよろしくね」
「ありがとうございます」
陵は裕也の母に深々と頭を下げると、病室のドアを閉めた。
「陵。お前、何考えてんだよ」
「何が?」
「何がじゃねぇだろ」
「コーヒーでいいか?奢るぞ」
陵は裕也の言葉を無視して病室を出た。
そして売店へ向かう途中、一旦病院の外へ出て、舞に電話をした。
「嬉しいお知らせだ」
花火大会当日。
陵は裕也の病室にいた。
午後七時四十五分。
あと十五分だ。
「何で男二人で花火なんか見なきゃいけねぇんだよ」
「いいじゃねぇか。何年ぶりだ?」
「知らねぇよ」
裕也はまだふてくされている。
「そろそろ行くか?」
陵は裕也に肩を貸して車椅子に乗せた。
「めんどくせぇ…」
「文句言うな。さ、行くぞ」
陵が車椅子を押してエレベーターで屋上へ向かった。
屋上の重たいドアを開ける。
「暑ぃ…」
昼間の熱気がまだ残っている。
花火が見えるポイントへ、ゆっくりと向かう。
裕也は団扇で扇ぎながら、じっと前を見つめた。
暗闇に人影が見える。
誰かいるのか?
こっちに向かって手を振っている。
誰だ?
「山下くん、こっち」
「おう」
どういうことだ?
「俺が誘った」
陵が言った。
「何だよ。意味わかんねぇな」
「男二人じゃ嫌だって言ったのは、お前だろ?」
「はぁ?何言ってんだよ」
「まぁ、気にすんな」
「ここ暑いね」
舞が団扇を扇ぐ。
「ねぇ、もうすぐ始まるよ」
遥が時計を見ながら言った。
ドン―
一発目の花火が上がった。
「すごーい」
「きれい」
花火に照らされた遥の横顔は、とても楽しそうに見えた。
「な?来てよかっただろ?」
陵が言った。
「別に…」
裕也は慌てて視線を逸らした。
「素直じゃねぇなぁ」
生暖かい風が、襟まで伸びた裕也の髪を少しだけ揺らした。




