ビー玉
「山下くん、ちょっと…」
特別講習の休み時間、舞は陵を屋上に呼び出した。
「相川くん、花火行かないかな」
「西野か?」
陵は金網にもたれかかって言った。
「どうして?」
「そんなの見てりゃわかんだろ。俺の目はビー玉じゃねぇ」
「やっぱりわかるよね」
「あぁ。気付いてないのは、あのバカだけだ」
「うん…」
「しかし、こないだは凄い剣幕だったな」
「だって、相川くんがあんな言い方するから…」
「まぁ、あいつは昔っからそういうことには鈍感なんだよ」
「そうなんだ」
鈍感なのは相川くんだけ?
舞は言葉を飲み込んで、陵から視線を逸らした。
「で?」
「あ、それで、どうしたら相川くんを花火に誘えるかなと思って…」
「そうだな。まず外出は無理だろうから、見るなら病院の屋上だな」
「私もそう思ったんだけど、でも、そんなことできるのかな…」
「花火は八時から。いつも四十分くらいには終わる。で、あそこの屋上に鍵がかかるのは夜の九時。面会も九時までだ」
「本当?」
「あぁ。時間的には余裕だ」
「すごーい。でも何でそんなに病院のこと詳しいの?」
「俺の母ちゃんが市民病院で事務やってるからな。リサーチ済みだ」
陵は得意げに右手の親指を立てた。
「えー?何それ。なんだかできすぎたドラマみたい」
舞が楽しそうに笑った。
「あとは、どうやってあのバカを連れ出すか、だな…」
「だよね…」
チャイムが鳴った。
「おっ。やべぇ」
陵と舞は急いで教室へ走った。
「ねぇ、一つ気になったことがあるんだけど…」
階段を下りながら舞が言った。
「何だ?」
「さっき言ってた『ビー玉』って、本当は『ふし穴』なんじゃないの?」
「あぁ?そんなのどっちでもいいだろ。うちの田舎じゃ昔からそう言うんだよ」
「えーっ。うそでしょ?そんなの聞いたことない」
「知るか…」
「山下くん可笑しい」
「うるせぇな…」
舞は、陵の耳が少し赤くなったのを見逃さなかった。




