ギター、やらないか?
「よっ!」
「なんだ。陵か」
「失礼なヤツだな。それとも誰か期待してたのか?」
「いや…」
「どうだ?具合は」
「口と手は元気だ」
「そうか。そりゃよかった」
陵はサッカーの雑誌を、裕也のベッドにポンと置いた。
「お前、サッカー部辞めるんだってな」
「なんで知ってんだ?」
「有能マネージャーから聞いた」
あいつ、なんでもかんでもベラベラ喋りやがって。
「まぁ、正確に言えば、西野が石橋に話してるのを、俺がたまたま聞いただけなんだけどな」
どっちにしても、他人に喋ったことに変わりはない。
「盗み聞きか?趣味悪いな」
「ん?」
陵はとぼけてみせた。
そして、パイプ椅子に座って続けた。
「お前、ギター持ってたよな」
「あぁ。インテリアにしてはちょっと邪魔だけどな」
中学のとき、音楽の授業で習ってちょっとだけギターに興味を持った時期があった。
陵に選んでもらって、なんとなく買った中古の安物だが、今では部屋の隅で埃をかぶっている。
「そのインテリア、有効活用しないか?」
なんだこいつ。あのオンボロギターが欲しいのか?
「欲しいんならやるよ」
「いらねぇよ。あんなオンボロ」
自分で言うのは構わないが、他人にオンボロと言われると妙に腹が立つ。
「じゃあ何なんだよ?」
陵は、カバンからA4サイズのコピー用紙を何枚か取り出し、裕也に手渡した。
「コードくらい弾けるだろ?」
陵のバンドのスコア譜だ。
「ギター、やらないか?」
言ってる意味がわからない。
「ギターが一人足りないんだよ」
「は?お前何言ってんだよ。俺は音楽なんか興味な…」
陵は、裕也の言葉を遮るように立ち上がると、売店に行くとだけ言って、病室から出ていった。
「おい!ちょっ…」
あいつ何考えてるんだ。
しばらくすると、陵は缶コーヒーを二本持って戻ってきた。
「なぁ、ギターってどういうことだよ」
「そういうことだ」
陵はサイドテーブルに缶コーヒーを一本置いて言った。
「意味わかんねぇよ」
「サッカー辞めたらどうせ暇だろ?気分転換にもなるしやってみろよ」
陵はコーヒーを一口飲んで言った。
正直、裕也はサッカーを辞めた後のことなど何も考えていなかった。
「どうだ?やってみねぇか?」
「そんな、急に言われても…」
「だよな」
「当たり前だろ」
裕也はサイドテーブルの缶コーヒーに手を伸ばした。
「それ、契約金のかわりな」
「120円って安すぎだろ」
「ここの売店、130円だったぞ」
陵が笑った。
「ま、考えといてくれ」
陵は残りのコーヒーを一気に飲み干すと、パイプ椅子を畳んだ。
「じゃあ、また来るわ」
「あぁ…」
陵の背中を見送ると、裕也は缶コーヒーを握ったまま、陵が持ってきたサッカーの雑誌を見つめた。
そして深くため息をついて、そっと目を閉じた。




