辞めんなよ
退屈だ。
何もすることがない。
手術の翌日に陵が買ってきてくれたマンガも、何回読んだかわからない。
入院して今日で九日目。
ボルトが埋め込まれた右足首は、まだときどき痛む。
ギプスで固定された、その姿が恨めしい。
昨日、見舞いに来てくれたキャプテンに、退部の意思を伝えた。
もちろん慰留されたが、もうサッカーを続ける気にはなれなかった。
なぜだろう。
あんなに好きだったはずなのに…
コンコン―
誰だ?
病室のドアが遠慮がちに開いた。
「相川…くん?」
ドアの隙間から遥の顔が覗いた。
「何やってんだ?」
「何って…」
「今日は部活じゃないのか?」
「あ、ちょっと買い出しのついでに…」
ついでに?
でも、まあいい。
「入れよ」
「うん」
ジャージ姿の遥は手ぶらだった。
「何だ。差し入れとかないのか?」
「ごめん。お財布持ってなくて…」
「お前、財布も持たずに買い出しに行ってんのか?」
「そうじゃなくて…あの…ほら、買い出しは部費から出すから…その…自分のお財布は持ってなくて…」
「ふーん」
「えー?何?」
「別に」
「もう!」
遥は頬を赤らめて、少し拗ねたような顔をみせた。
「辞めちゃうんだ。サッカー…」
「あぁ」
もう知ってんのか。
「そっか」
「まぁ、もともと遊びみたいなもんだったからな」
裕也は少し強がった。
「私も辞めよっかな…」
「はぁ?何で辞めんだよ。お前、大学行くんだろ?」
「うん。誰かさんとは頭のつくりが違うからね」
「うるせぇ。バーカ」
「何?拗ねてんの?」
「…」
「ごめん。怒った?」
「大学行くんなら、部活続けた方がいいんじゃないのか?」
「そうだけど…」
「だったら辞めんなよ」
「だって…」
「だって、何だよ?」
「そういう相川くんは行かないの?大学」
「誰かさんとは頭のつくりが違うからな」
「あーっ。やっぱり拗ねてる」
「うるせぇ」
裕也は遥から顔を背けて窓の外に視線を移した。
「部活、戻らなくていいのか?」
「うん。そろそろ…かな」
「じゃあな」
裕也は窓の外を見ながら、軽く左手をあげた。
「早くよくなるといいね」
遥は努めて明るく言って、静かに病室のドアを開けた。
振り返ってもう一度裕也を見る。
顔を背けたまま毛布を握りしめた裕也の左手の甲が、濡れて光っているように見えた。




