泣きたいのはこっちだ
「痛ぇ…」
「相川。少し痛いけど我慢しろ」
斎藤先生がスパイクの紐を切ってそっと脱がせたあと、ハサミでストッキングを切り裂いた。
右足首は青紫色に腫れ上がっていた。
氷水をビニール袋に入れ、タオルで包んで患部を冷やす。
あまりの痛さに吐き気がする。
斎藤先生が救急車を呼んだ。
「相川、立てるか?」
裕也は斎藤先生と救急隊員の肩を借りてストレッチャーに乗り、救急車へ運ばれた。
「先生。私一緒に行きます」
遥が言った。
「頼む、そうしてくれ。先生もあとから行く」
「はい」
遥は救急車へ乗り込んだ。
「付添いの方はほかにいますか?」
「いえ」
「それでは市民病院へ向かいます。よろしいですか?」
「はい。お願いします」
遥は斎藤先生に電話で搬送先の病院を伝えた。
「名前と住所、言えますか?」
救急隊員が言った。
「相川裕也…」
「えっと、住所は…」
斎藤先生への連絡を終えた遥が続けた。
救急車の中は意外とうるさい。
「相川くん、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ…」
「痛い?」
「痛ぇよ…」
遥の目から涙がこぼれた。
「何でお前が泣いてんだよ…」
「だって…」
泣きたいのはこっちだ。
初めての試合。
得点のチャンス。
それがこんなことになるなんて―
痛みと悔しさで体が震えた。
病院へ到着すると、医師の診察を受けた。
遥が、怪我をしたときの状況を説明する。
右足首は、パンパンに腫れ上がっている。
「レントゲンお願いします」
カルテを書きながら、医師が看護婦に言った。
裕也は車椅子でレントゲン室へ運ばれた。
「相川裕也さん?」
「はい…」
「ちょっと痛いけど我慢してくださいね」
女性のレントゲン技師が言った。
三方向からレントゲンを撮る。
角度を変えるたびに痛みが走る。
「結果が出るまで待っててくださいね」
レントゲン室を出ると、遥が心配そうに立っていた。
「試合は?」
「あのまま打ち切りになっちゃった」
「そうか…」
「うん…」
しばらく二人は何も喋らなかった。
泥だらけの濡れたユニフォームが、やっと少し乾いてきた。




