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HARUKA  作者: zaku
12/28

デビュー戦

 夏休みに入って一週間。

 今日の天気予報は曇りのち雨。

 午後の方が降水確率は高い。

 サッカーの試合は、雷でも鳴らない限り、多少の雨では中止にはならない。

 暑いのは嫌だが、雨はもっと嫌だ。

 裕也は空を見上げた。

 灰色の雲が低く厚い。

 このまま降らないでくれ―

 インターハイの予選は、ピッチに立つことなく、あっさりと一回戦で敗れた。

 今日は練習試合とはいえ、高校に入って初めて出場する対外試合。

 裕也にとってのデビュー戦だ。

 興奮するなと言う方が無理だろう。

 裕也は、13番の真っ赤なユニフォームを丁寧に畳むと、スポーツバッグに入れた。

 まだ少し早いが自転車を走らせる。

 毎日通う学校までの道のりが、こんなにもワクワクする。

 いつもは苛々する赤信号でさえ、青に変わる瞬間を待つのが楽しく思えた。


 「相川くん、おはよう」

 「おう」

 「いよいよだね」

 「あぁ」

 遥は、千佳とともに忙しなく働いている。

 試合ともなると、マネージャーはいつもの練習のときよりも何かと忙しい。

 それが、自分の学校のグラウンドを使うとなるとなおさらだ。

 マネージャーも大変だな。

 「よし。みんな集まれ!」

 斎藤先生の周りに輪ができる。

 「昨日のミーティングでも言ったとおり、前後半で一年生を三人ずつ使う。一年生はしっかりアピールしてこい。上級生はバランスを考えろ。今日は結果よりも内容重視だ。いいな!」

 「はい!」

 斎藤先生は、授業中は冗談を言ったり、気さくに話しかけたりしてくる優しいお兄さん的な先生だが、ことサッカーになると熱血監督に変身する。

 裕也は、最初はめんどくさいと思っていたが、今では大好きな先生だ。

 「相川、相手ディフェンスの4番の動き、よーく見ておけ」

 「はい」

 裕也は、後半からの出場予定だ。

 フォワードの裕也は、相手の4番をじっと見つめた。


 前半を終わって1‐2。

 一点ビハインドでのハーフタイム。

 前半の途中から降りだした雨が、少し強くなってきた。

 斎藤先生と審判団が相手校の監督のもとへ走る。

 どうやら、試合を続けるかどうかを話し合っているらしい。

 頼む。中止にならないでくれ―

 斎藤先生がこちらに向かって、両手で大きなマルを作った。

 よかった。続行だ。

 円陣を組んで気合を入れる。

 「裕也。一点取ってこい」

 7番を付けたキャプテンが、裕也のお尻をポーンと叩いた。

 雨のグラウンドへ走る。

 裕也は4‐2‐3‐1のワントップの位置に入った。

 「よし。一点」

 後半開始のホイッスルが鳴った。

 裕也は前線へと走った。


 相手の4番は、前半、ベンチで見ていたよりもマークがきついように思えた。

 雨のせいでパスがうまく回らないうえに、裕也がボールを持つとしつこいくらい体を寄せてくる。

 しかも強い。

 裕也の体は、いとも簡単に何度もグラウンドに転がされた。

 「ラスト五分!」

 斎藤先生が叫ぶ。

 まだ、一点負けている。

 味方からのロングボールに反応するが、相手がカットに入る。

 「あーっ!」

 天を仰いだその瞬間、相手がうまくコントロールできなかったボールが裕也の目の前に転がってきた。

 裕也はそのこぼれ球を拾うと、ゴールへ向かってドリブルを始めた。

 「裕也!行け!」

 裕也は思いっきり右足を振りぬいた。

 しかし、それより一瞬早く、相手の4番の右足が伸びる。

 裕也の右足は鈍い音を立て、同時に体は吹っ飛ばされた。

 「ってぇっ!」

 右足首に激痛が走る。

 「ピィーッ!」

 主審が試合を止める。

 「担架!」

 誰かが叫んだ。

 「相川くん!」

 遥の叫び声が聞こえた気がした。



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