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片林小学校球技部  作者: 里雪怜菜
出会い
2/3

 四月。俳句の世界では夏らしいが、実際は春。花粉が飛んでいることを考えなければ外で過ごすにはいい時期である。

 木陰で風にあたりながら、本を読んでいるとその心地よさがよくわかる。

 ただ・・・問題があるとすれば。

「だから、私たちが先に使ったでしょ。」

「はあ?何言ってんの。あんたらみたいなガキにこんないい場所がある訳無いだろ。」

「いや・・・意味わかんないし。」

「そうだ、ハゲ!」

「禿げてねぇ!」

「うっさい小坊が。」

「坊じゃないし。嬢だし。」

 と言ったように謎の口論が時たま聞こえるぐらいだろうか。

 ついでに言うと今回はなんか聴き慣れた声が混ざっているのが気になるのだが。

「ざけんなよコラ!」

「ひょいっ・・・と」

 ガッ・・・・

「「あ・・・・」」

 面倒事には関わりたくないので再び本に目を戻す・・・はずが自分のズボンしか見えない。

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「「「・・・・・・・。」」」

 右手に持っていたはずの本が消えている。周りもやけに静かだし・・・。

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「「「・・・・・・・。」」」

 仕方なく周りを見渡すと先ほど口論をしていた集団全員の視線が俺に・・・いや、正確に言うと俺の右斜め後ろに集まっている。

 そして、そこには・・・

 とん・・・と足に微かな衝撃が走る。

・・・無残にも泥だらけになって落ちている本があった。

 目線を足元にやると七号球のバスケットボールが転がっているのが見える。

 最後にもう一度先ほど口論をしていた集団を見る。

・・・小学生七人に大学生が五人。大学生のうち俺との間に障害がないのが二人。小学生の他に大学生がいるのが二人。そして小学生しかいないのが一人、か。・・・

「ねえ、お兄さん。」

 黙って足元のバスケットボールを手に取る。

「知ってた?」

 何かを感じたのか間にいた小学生が離れる。これによって俺と大学生の間に障害がなくなる。

「本を粗末にする人はね。」

 大学生に狙いを済ませながら腕を大きく振りかぶる。

「ろくな死に方しないって!」

 最後に叫びながら一気に投げる。

「ぎゅえ・・・・。」

 変な声が響き大学生が倒れる。

・・・ヘッドアタック、良かったな。・・・

 さてと。本当は賠償請求でもしたいところだが、面倒だしさっさと退散・・・

「あ、おじさん。」

「な・・・こいつ大人を呼びやがったぞ。」

「宇輪ちゃん。どこ、どこ?」

・・・おお、大鳳が余計なこと行ったせいで奴らが混乱しているぞ。この好き俺はさっさと・・・

「あ、ちょっとおじさん。無視しないでよ。」

「何だ。ハッタリかよ。」

「小学生のくせに嘘をつくとはな。」

「宇輪ちゃ~ん・・・。どうするの。」

 あ、別に宇輪ちゃんは嘘なんかついてないと思うぞ。大人を呼んだって勝手に勘違いしてるのは自分自身なわけだし。

 え、なんでそんなことがわかるかって?そんなの簡単。

「嘘じゃないし。」

 後ろから右腕の自由が奪われる。

「ね、おじさん。」

 そう。俺がこの小学五年生の、大鳳宇輪の叔父今井流星だからである。

 が、もちろん厄介事に巻き込まれたくない俺が事実を認めるわけにも行かない。

「お~う・・・ワタシのナマエはアロンソ・キハーダ、デース。アナタとは初対面。オジなんて事実無根デ~ス。」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「「「・・・・・・・。」」」

 ああ・・・流石に嘘だとバレ・・・

「ほら見ろ。全く関係ない人じゃねえか。」

「あ~。宇輪ちゃん。なんてことを。」

「ソ、ソーリー、ソーリー。」

「なりほど、外人だからソラ君を一発KOできたのか。」

・・・よかった。バカばっかりで。

「オ~ウ・・・それじゃ邪魔したな!チャオ。」

 今度こそこの場をあとに・・・

「りゅ・う・せ・い・叔父さん?」

・・・出来る訳もなく肩を小学生とは思えない強さで掴まれる。同時に変な汗が流れる。

(何逃げようとしてんのよ。)

(いや、なんか取り返しのいけない事態になっちゃったし。)

 ヒソヒソ声で会議をする。

(うーん・・・たしかに流星おじさんはアロンソ・キハーダさんになっちゃたもんね。)

(ああ。小学生はともかく、あの大学生たちはいろんな意味で心配だな。頭が。)

(うん・・・それは小学生に因縁をつけて喧嘩売ってるところから終わってると思うけど。って、そういえばアロンソ・キハーダの元ネタは?)

(ドン・キホーテの本名。)

(ああ・・・どうりで聞いたことがあったわけだ。)

 と、ここで一旦ヒソヒソ話中断。未だに騒いでる集団に目線を向ける。

「ああ、宇輪ちゃん。どうするのよ。」

「全く、将来が心配だな。狼少女。」

「さっさとどけよ。」

「あ・・・宇輪ちゃん。怒られてる。」

 ヒソヒソ会議再開。

(どうするの・・・これ?)

(もう・・・なんでもいい。)

(流星叔父さん。そんな無責任な。)

(いや、どうしろと。)

(うーん・・・とりあえず私たちを助けてよ。)

(い、や、だ。)

(だめ、もうこれは決定事項。それともあの人たちを追い返すべがないの?)

(いや・・・それなら何個か方法はあるけど。)

(よし、じゃあ。決定。)

「あ、ちょっと・・・」

「みんな聞いて。」

慌てて遮ろうとしたが、遅かった。

「アロンソ・キハーダさんに事情を説明したら私たちに協力してくれることになったの。」

「おい。俺はそんなこと言って・・・・?」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」

「「「・・・・・・・。」」」

「「「「何ぃ~!」」」」

「「「「「「おー。」」」」」」

 こいつらの頭はどうにかしているのだろうか。いや、もしかして、俺がおかしいのか?

「・・・まじで・・・。」

「頑張れ。」

 宇輪が肩を軽く叩いて励ましてくる・・・ってお前のせいだよな。

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