第8話 多重人格
お久しぶりです。
覚えていてくださっていると嬉しいなあ、なんて思ったりしながら2ヶ月ぶりの投稿です。
今まで就職関連で忙しく、全く執筆ができていませんでした。
少し落ち着いたので久々に執筆ができました。
今後もこういうことが増えて不定期が続くと思いますが、長い目で見てくださると嬉しいです。
それでは、またお会いしましょう。
俺は昨日、美緒とキスをした。それは揺るぎない事実だ。
何故かあの後からずっとこのことだけが頭の中でいっぱいだった。それほど俺は自分が思っているより美緒のことが好きなんだろうか。
「…だああああ!!なんでさっきから美緒のことを延々と考えてるんだ、俺は!」
それだけ俺の頭の中は自分が思っているより美緒のことが好きなんだろう。けど、俺は葵のことも好きだ。
「はあ…どうすればいいんだよ」
「あらあら、朝から悶々と考え込んでどうしたの?何かやらかしちゃった?」
「か、母さん、そんなんじゃないから!」
「そう?それにしてはさっきから美緒って声に出てたわよ?」
「えっ!?まじ!?」
はあ、最悪だ。よりによって母さんに聞かれるなんて。聞かれちゃったものは仕方ないけど。
「母さん、ちょっと散歩してくる」
「はいはい、行ってらっしゃい。あまり遅くならないうちに帰ってきてね」
「わかってるよ。行ってきます」
散歩として外に出たのはいいとして、これからどうしようか。美緒でも誘ってどこか出掛けるか…?
俺がうーんと頭を悩ませていたら裏路地の方から誰かの声が聞こえてきた。しかも妙に聞き覚えのある声だ。
「ちょっと、やめてよ」
「別にいいだろ、ちょっと俺らと遊ぼうよ」
「いや、やめて、離して」
あれは葵かな。だが、見るからに明らかにナンパをされている。葵も嫌がってるし、止めに行こう。流石に見て見ぬふりはできない。
「あ、やっと見つけた。葵大丈夫?」
「え、湊?うん、私は大丈夫だよ」
「おいおい、兄ちゃん。その子のなんなの?」
「なんなのって、見たまんまだけど。俺の連れが何かしましたか?」
「兄ちゃん今いいところなんだよー。ちょっと邪魔しないで貰えるかな?」
こういう奴ほどめんどくさいのはいない。こういう奴らはとことんしつこいし、俺の一番嫌いなタイプだ。
「そんなの知らないし。行こう、葵」
「う、うん…」
「おいおい、なんだよそりゃあ?ふざけてるとてめえぶっ殺しちゃうよ?」
「………あ?なんだ、てめえこそ。ぶっ殺すっつったか?」
「ああ、言ったぜ?お前がうざいからよお」
「ちょっと、湊もうやめようよ…」
「黙ってろ。これは俺が勝手にやってんだ。邪魔するんじゃねえよ」
意識の中で俺は目覚めた。ぶっ殺すという言葉をきっかけに俺の多重人格の中の一つが数年ぶりに出てしまっている。
こうなってしまっている時、俺には止められないというよりも、止められないのだ。止めようと試みたことはあったが、俺の中のいくつもの人格が俺を邪魔して止められないのだ。だから俺は黙って見ているしかなかった。
「お前さあ、調子乗るのもいい加減にしろよ?」
「それはこっちのセリフだ、クズ野郎。ナンパしてる暇があったら社会の勉強でもしてろよ、バーカ」
「てめえ…、もう頭きた。ぶっ殺してやる!」
「それはこっちのセリフだ、クズやろォォ!!」
お互いが拳を大きく振りかぶってお互いを殴りつけた。俺の一発の方が強かったのか、急所に入ったのかはわからないが、相手はのびていた。
ムカついていて、無我夢中に相手の事を俺は殴り続けていた。その時だった。
「湊、もうやめて!もういいから…私のためにそんなに怒らないで…」
「あ、葵…」
後ろを振り返ると、葵が俺のことを後ろから抱きしめて止めていた。
俺の中の人格が静かに戻っていくのがわかり、気づくと俺は相手に馬乗りになっていた。何が起きたのかが全くわからなかった。
「あ、葵。俺、もしかしなくても、あれ出てたのか?」
「うん…あの湊が出てたよ…すっごく怖かった。怖かったよお…」
「悪い、怖がらせちゃったな。けど、もう大丈夫。だから安心してくれ」
「うん…」
俺と葵は地べたに座ったまま、お互いを抱きしめた。俺が守らなきゃいけないんだ。葵も美緒も、女の子で、か弱くて。だからこそ俺が守らなきゃいけない。そのためにも、俺の中の多重人格のこいつらをコントロールできるようにしないといけない。俺はそう思いながら、葵のことを抱きしめていた。