第6話 それぞれの想い
葵と美緒のどちらかを選ぶなんてことはできない。これは本当だ。
どちらかを選んでしまったらどちらかを傷つけることになるだろう。それにそんなことをしたら俺がのちのち後悔するかもしれない。
それと、俺には悩みの種の多重人格がある。高校生になってからはまだ出ていないが、いつ出るかわかったもんじゃない。それのせいで葵や美緒を傷つけたくないから。
あとは単純に、恋愛に今は興味無いしな。
「湊…やっぱりかっこいいなあ…」
「ん?なんか言った?」
「え?ううん、なんでもないよ」
最近になって葵の様子がおかしい。以前のような美緒との口喧嘩が減って妙に大人しくなった。
もしかしたら、はしたないとか本人は色々と考えてるのかもしれないけれど、俺はそういうのはあまり気にしない。俺が言えたことではないからな。
毎回思うことなんだけど、美緒と葵は俺のどこがいいのだろうか。
良い所がない人間なんていないので、良い所なんてないとは言わないが、ぶっちゃけた話、それでも俺に良い所なんて少ないし、多重人格という爆弾を抱えてるだけあってあまりいい物件ではない。むしろ欠点だらけだ。
まあ、それでも俺のことを好きでいてくれるあの二人にはいつかそれ相応のお返しをしなければいけないな。今度二人で出掛けるとか。このことを世間一般ではデートと言うらしいけれど、俺は別にデートなどとは思わないから決してデートではない。…はずだ。
お茶を飲みながら少しの間話をしていて、いつの間にか時間は17時を回っていた。
「もうこんな時間か。そろそろ帰るぞ、美緒」
「えー、葵ともう少し話していたかったのになあ…」
「仕方ないだろ。あまり長居するわけにもいかねえんだから」
「それもそうだね。じゃ、またね、葵」
「うん、今度はもっとゆっくりお話していたいな」
「おう、じゃあまた月曜日に学校で」
「うん!」
あまり長居するわけにもいかないと思って帰ったのだけれど、そういえば今日はまだ土曜日。俺はもう日曜日だと思ったから月曜日にまた学校でと葵に言ったわけなんだけど…そうか、まだ土曜日か。明日はどう過ごそう。
帰り道、美緒に抱きつかれたまま俺は歩いていた。歩きにくいから離れて欲しいのは山々なんだけど、言っても無駄なわけなので諦めている。
美緒の様子が少しおかしいことに気づいたのは葵の家を出て少ししてからのことだった。落ち着きがないというか、そわそわしているというか…
抱きつかれているのにそわそわされたんじゃたまらないので少し話しかけてみた。
「おい、なんでそんなにそわそわしてるんだよ?」
「え、あ、その…。ねえ、湊」
「あ?なんだよ?」
「湊はさ、どういう女の子が好き?」
「いきなりなんだよ。…さあね、わからねえ」
「え?」
「だってさ、人を好きになるのに理由なんていらないじゃん。好きになるのは、そりゃあ、ある程度はタイプとかもあるだろうけど、だとしても、好きになったから好き。それでいいと俺は思ってる」
「そっか…じゃあさ、湊は私のこと、好き?」
「好きだよ。けど、同じくらいに葵も好き。だからこそ選べない。二人にはそれぞれ違う魅力があるから、今の俺には選ぶなんて到底無理」
「そっか…私のこと好きでいてくれたんだ…今はそれがわかっただけでも嬉しいな」
今のは嘘偽りのない俺の気持ち。あそこで嘘はいらないし、はぐらかす必要もない。
「ねえ、湊」
「何?」
「私と…キスして」
「な、なんで?」
「いいから。それとも、私じゃ嫌?」
そんな上目遣いで見られたら断れなくなるだろ。くそ、やっぱこういうときの女の子の顔って反則だと思う。だって可愛すぎるし。
「はあ…いいよ、キスしよう」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、目閉じて」
この時の美緒の顔はきっと忘れないと思う。だってこの日一番の満面の笑みだったから。それほど嬉しかったんだと思う。
小さい頃からずっと好きでいてくれた美緒。長い間俺を好きでいてくれて嬉しくないことはない。
そして、今日。俺は美緒とキスをした。
久々の更新です。
パソコンが壊れていて、携帯から執筆をしているので不定期更新となっています。
そして、携帯からなので文字数も約千文字ぐらい短くなっております。
読者の皆様にはこれからも迷惑をかけるとは思いますが、どうぞ、最後までよろしくお願いします。