第5話 葵の家
「さあ、入って」
「お邪魔します・・・」
なぜこうなったのだろう。じいちゃんへの用事を済ませ、さあ帰ろう!と思ったら、葵に「それなら二人とも帰る前に私の部屋に寄っていかない?」なんて言うもんだから仕方なく寄ったけどさ。
靴を脱いで俺と美緒は葵の部屋に上がった。お茶を出すから座って待っててと言われ、俺と美緒は隣同士に椅子に座る。部屋はとても綺麗に整頓されている。同じマンション内の部屋だというのに、家具やそれの置き方が違うだけで部屋というのは全然違って見える。だから葵の部屋はある意味新鮮だ。
葵がお茶を入れてくれている間、俺らは何をしているかと言うと、いつもみたいにイチャついている。いや、正確に言えば、美緒が俺に抱きついていて、俺が離れろと言っている。
「なあ、葵の部屋なんだし抱きつくのはやめてくれよ。また修羅場になって俺でも止められなくなるんだからさ」
「別にいいじゃん。私は湊のことが好きだからこうしていたいの」
「さいですか・・・」
まあ、当然のように美緒が聞くわけもなく、俺が諦めるという形になる。はあ、どうせこのあと修羅場になるに違いない。
お茶を入れ終わったのだろう。ダイニングから葵が出てきて俺らの前にお茶を置く。
「お待たせ。さあどうぞ」
「ああ、悪いな」
「いいのよ、これくらい」
カップを置いて、葵がカチンと立ったまま動きが止まった。
にっこりと笑っているが、そこに優しい雰囲気の葵はいない。当然のように嫉妬というか、怒っているというか、なんとも言えないどす黒いオーラを出している葵がいる。そりゃそうだろう。自分の目の前で、好きな人が抱きつかれているのだから。
「とりあえずさ、立ってないで座ったらどうだ?」
「それもそうね」
まあ、葵の家だから葵がどこに座ろうが別にどうでもいいんだ。けど、なんでわざわざ俺の隣に来るかなあ。
「ところで美緒、私の家で、湊に抱きつかないでもらえるかな?」
「私がどこで、いつ湊に抱きついていようが勝ってでしょ?それなら葵だって湊に抱きつけばいいじゃん」
「そっ、そんなことしたら恥ずかしいじゃない。二人きりならもちろんそうしたいけど」
「ふーん、ふたりっきりならするんだあ?」
この二人、いつも喧嘩するよなあ。と、今思ったが、葵の態度がいつもとは全然違うのに俺は違和感を覚えた。いつもなら対抗して、何かを美緒に言うが、今日の葵はなんというか、恥ずかしそうな感じだった。
この二人の会話を聞いていたら、美緒がいきなり俺にとんでもないことを聞いてきた。
「ところでさ、湊は私と葵のどっちが好きなの?」
「はあ!?言えるわけねーだろ、そんなこと」
「な、何を聞いてるの、美緒は!」
「じゃあ葵は知りたくないの?湊が私達のどっちが好きなのかさ」
「そ、それは確かに気になるけどさ・・・」
「というわけだからさ、答えてよ、湊」
こいつは俺のことになるとどうしてこう、必死になるのだろう。こんなの選べるわけがないっていうのに。
美緒は確かに可愛いし、気配り上手で魅力的だ。葵はとても綺麗で、家事ができる。けど、運動音痴で、怖いものが苦手と、とても女の子らしいやつだ。そんな二人が俺のことを好きでいてくれている。確かにそれ相応の何かをするべきだとは思う。けど、この二人のどっちかを選べなんて、俺にはできない。
「俺は・・・二人のうち、どっちかを選ぶことなんでできない。これが俺の答えだ」
そう、これでいい。納得はしてくれないだろうが、これでいいんだ。俺は俺らしくしていればいいのだから。
報告です。
作者の活動報告に重要なお知らせが書いてあるので読んでおいてください。
今回文字数が1000文字くらい少ない理由は読んでくれればわかります。
以上で報告とさせていただきます




