第3話 久しぶりの再会
高校生活が始まって約一週間が過ぎた。桜もまだ花びらがひらひらと舞い落ちるほど咲き誇っている。
高校生活が始まってから俺はずっとあんな調子で葵、美緒、蓮、結衣と高校生活を過ごした。そして今日は土曜日。
朝はまだ寒さがうっすら残っていて、俺はその寒さのせいで目が覚めた。携帯で時間を確認する。今現在の時刻は8時。とてつもなく眠い。寒いし、もう少しだけ寝ていようと思い、俺は思い目蓋をそっと閉じた。
しばらくして誰かの階段を上がってくる音がする。誰だろう。いつもは休みの日になると美緒が起こしにきていたんだけれど、最近は来てないため、母さんが俺を起こしに来る。だから今日も母さんが起こしに来るんだろう。
ドアがガチャッと開く音が部屋に鳴り響くと、足音が俺のベッドの前で止まった。
「湊、そろそろ起きなさい。もう12時だよ」
「ん・・・。・・・なんだお前か」
「何よ、その反応はー」
目を開けると、俺の前に美緒が立っていた。
美緒は俺の従姉であり、お隣さんだ。だから休みの日でもこうして俺の家に平気で起こしに来る。そう、俺に休みの日にダラダラ過ごすという選択肢はないのだ。まったく、休みの日ぐらいゆっくりさせてほしいもんだ。
「母さんは?」
「由紀おばさんなら私のお母さんと下で話してるよ」
「なんだ、千里さんも来てたのか。通りで母さんが起こしに来ないわけだ」
言ってなかったかもしれないが、実は美緒の母さんとは千里さんだ。旧姓、洟咲千里さん。十数年前、俺の父さんの弟さん、つまり俺のおじさんに当たる人と知り合ってそこから付き合って結婚したらしい。元々はじいちゃんのことが好きだったらしいんだけど、おじさんが千里さんに一目惚れして、もうアタックしたら千里さんが折れて仕方なく付き合うことになったらしい。それで過ごしていくうちに千里さんもおじさんのことが俺のじいちゃんより好きになって結婚して今に当たる。人生とは何が起こるかわからないものなんだな。
とまあ、俺がなんでこんなに知っているかというのは、千里さんが俺に出会ったきっかけを話してくれたからだ。千里さんには何かと色々お世話になっている。
「久しぶりだし、挨拶でもしてこようかな」
「それが良いと思うよ。私のお母さん、湊のこと気に入ってるみたいだし」
「気に入られてるのは嬉しいけど、なんでだろうな。俺はたいして何もしてねーぞ」
「お母さん曰く、学生時代の湊のおじいちゃんにそっくりなんだって」
「俺がじいちゃんに似てる、ねえ・・・」
じいちゃんに似てるといわれても俺にとっては何も嬉しくなかった。だって、俺なんてじいちゃんみたいに凄いやつじゃないし。
美緒とこんな他愛もない話をしながら階段を降り、リビングのドアに手をかけた。そしてゆっくりと開くと、そこには母さんを千里さんがいた。
「湊、やっと起きたのね。もう少し早く起きなさい」
「え、だって眠かったし・・・」
もう少し早く起きなさいと言われても、眠いのだから仕方ない。それに、人間の三大欲の一つ、睡眠に勝てなんて無理な話だ。
「みーくん、久しぶり」
「お久しぶりです、千里さん。それと、そのみーくんって呼び方やめてくださいっていつも言ってるじゃないですか」
千里さんは俺のことをいつからか、みーくんと呼ぶんだ。以前まで湊くんと呼ばれていたのだが、いつの間にか、みーくんになっていた。
「あ、そうだ。みーくん、今日何か用事ってある?」
「いや、特にはないですけど・・・」
「じゃあさ、徹夜のとこにこれ持ってってほしいんだけど、頼める?私さ、これから由紀ちゃんと出掛けちゃうからさ」
「母さんと?はあ、まあいいですよ」
「ん、オッケー!じゃあよろしくね。夫が仕事で京都行っててね、それのお土産で八つ橋なの。徹夜って八つ橋食べたことないらしいからさあ」
「じいちゃん、八つ橋食べたことなかったのか・・・。ばあちゃんならわかるけどさ・・・」
そう言って千里さんは俺に八つ橋の入った紙袋を俺に渡して母さんと出掛けた。
母さん達を見送り終わった俺と美緒はじいちゃんの家に行く支度をする。ご飯を食べ、歯を磨き、身だしなみを整える。
「・・・よし。おーい、行くぞ美緒」
「わかった、今行くよー」
どうせ俺だけで行くと言っても美緒はだだをこねたりすねたりして、私も行くと言い続けて聞かないだろう。それなら最初から連れて行く。それに、じいちゃんたちも美緒には会いたがるだろうし。
・・・・・・・・
家を出てから約5分後。
俺たちはじいちゃんの家の前に着いた。
インターホンを鳴らしてみるが反応なし。だが、中から話し声はする。
「じいちゃんの野郎・・・。またばあちゃんと何かやってんな」
「ただ聞こえてないだけでしょ?」
「だからこそ何かやってるんだろ。どうせいつもみたいにイチャイチャしてるんだろうよ」
「湊のおじいちゃんたちって仲凄くいいもんね」
そう、俺のじいちゃんとばあちゃんはとても仲がいい。学生時代はこんなにも仲が良くはなかったらしい。
ドアに手を掛けてひねってみると、ドアは開いていた。ったく、じいちゃんの野郎、また締めてねえな。
「じいちゃーん、いるんだろ。入るぞ」
「お邪魔しまーす!」
中に入ると、一人の女性が部屋から出迎えてくれた。・・・風呂場から。
「あ、湊じゃん!久しぶり~、元気にしてた?」
「ああ、元気だから離れてくれない?」
この人こそが俺のばあちゃんであり、母さんの母親のミラ。
そして、会って早々に抱きつかれた。離れてほしい。美緒が嫉妬してるから。
「なにやってんだよ、ミラ。って、湊に美緒か。来てたんだな」
「来てたんだな、じゃねーよ、じいちゃん。またドア開けっ放しだったぞ」
「あ、悪い悪い。閉め忘れてたわ」
「徹、また閉め忘れてたの?いつも閉めてって言ってるじゃんよ」
「悪かった悪かった。キスしてやるから許せ」
「もう、いつもいつもそうやって・・・」
この人ら、俺と美緒がいること忘れてんのか?というか、人前で堂々とキスなんてするなよ。それと、リア充なんて死んでしまえ。
「ねえ、湊」
「なんだ、美緒?」
「この状況どうするの?」
「ほっとけ。すぐ終わるから。じいちゃんがばあちゃんに対してたらしなのはいつものことだ」
「おい、湊。それはどういうことだよ」
「そのまんまの意味だよ。ほらみろ、ばあちゃんの顔が幸せで蕩けきってんじゃねーか。たらし、たらしー」
じいちゃんにキスされたばあちゃんの顔は、今にも蕩けそうなぐらい幸せな顔をしていた。ほんと、どんだけこの人らは中がいいのだろうか。
と、こうして俺の騒がしい土曜日が始まるのだった。
はたまた報告です。
今現在、語りを湊視点でやらせてもらっていますが、第二章からは第三者視点でやらせていただこうと思います。
今から書き換えるのも面倒なので、第一章はこのまま湊の視点でやらせてもらいますが、第二章で僕が執筆していて、第三者視点が難しかったり、どこか不自然だったりした場合には、第三章でまた湊の視点に戻させていただきます。
以上で報告とさせていただきます。