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(2)

公園にて一服した後、家に向かって歩いて行く。

スポーツバックを俺に持たせた歌恋は紙袋をぶんぶん振り回して元気そうだ。

やめろ。もし破れたりしたらどうするつもりだ。

「なあ、それどうすんだ?」

持って帰って自宅の庭にでも埋める気だろうか。

「埋めるのはもうちょっと待ってから。

アンタはいっぺん帰って麻那ちゃんの様子を見てきなさい」

すっかり失念していたが、妹はこの悪魔が小動物を惨殺する現場を目撃していたのだった。

「もしも麻那ちゃんがPTSDにでもなったらアンタ麻那ちゃんの目の前で生皮剥いで八つ裂きにするから。」

いや、アイツにトラウマ植え付けたのは間違いなくお前だし。

そして心的外傷を負った少女の目前でその兄を惨殺しようという恐るべき計画を立てるのをやめれ。

まあ、実際麻那のことが心配でもあるので、家の前で別れることにした。

「昼頃になったらうちに来なさい。あ、今日晩ごはん奢ってあげるわ。」

口止め料のつもりか?俺も安く見られたものだ。

たかだかメシの一食で犯罪の片棒を担がされた対価を購おうとは。

もっとも口外する気などさらさらないのだが。

まあ良い、豪華ディナーでも期待するとしよう。


家に帰ると、麻那はリビングでテレビを眺めていた。

「あ、お兄ちゃんおかえり~」

あまりの日常っぷりに脱力する。

血煙舞い散る凄惨な現場を目撃してしまった薄幸のトラウマ少女はどこ行った?

「まあ、あの時はびっくりしたけど、カレン姉ちゃんのやることだし、しょうがないよね」

ああ、もっともだ。アイツのやることだからしょうがない。

「それにあの子、最近何だか様子がおかしかったし」

あの子というのは例のニワトリのことだろう。

しかし、学校で飼育している小動物が惨殺されてこの淡泊な反応。それで良いのか飼育委員。

むしろあの悪魔の影響は深く静かにこの多感な年頃の少女の内面を毒しているのではないかと心配になる。

まあ、下手に取り乱されたりふさぎ込まれたりするよりは面倒がなくていい。

麻那の相手はブラウン管に任せて(そう、我が家のテレビは今時ブラウン管だ!)俺は自室へ戻る。

ベランダへ出てラッキーストライクを咥えると、ゆっくりと紫煙を吸い込んだ。

今更ながら睡眠不足の頭に眠気を感じる。昼までまだ時間があるし、少し寝ておくか。

朝っぱらからイベントが濃厚すぎて疲れた。

ベランダの隅に置かれた空き缶に吸い殻をねじ込んで部屋へ戻る。

一度はたたんだ布団を伸ばして倒れ込む。速やかに意識は眠りの壁の彼方へと旅立っていった。


あれは二年前、まだ俺は中学生だったし、歌恋の胸はあそこまで大きくはなかった頃だ。

当時、俺と歌恋の関係はただのたまたま家が近所のクラスメイトというだけだった。

顔を合わせれば挨拶くらいはするが、別に一緒に遊んだりはしなかった。

引っ越してきたばかりの頃はそれなりに交流もあったのだが、年齢が上がるにつれて次第に疎遠となり、

俺は男子同士で集まって遊ぶようになり、歌恋は女子同士で集まって遊ぶようになっていった。

まあ、そういう年頃ということだろう。なんとなく異性と一緒に居るのが恥ずかしく感じる年頃だ。

そんな俺が当時つるんでいた仲間の一人に韮崎という男子がいた。

韮崎とは音楽の趣味が合い、よく我が家で一緒に音楽を聴いていたのだった。


ここで少々話の腰を折るのだが、うちの親父には年の離れた弟がいる。

この叔父さんというのがたいした放蕩者で、

半年ほど前に旅に出るから荷物を預かってくれといって大量のCDやらレコードやらを送りつけてきて、

そのまま失踪してしまったのだ。

しばらくしてバックパック担いでパキスタンを放浪している、

次はインドへ向かうつもりだというような内容の絵はがきが一つ送られてきたきり消息不明。

まあ、こんな変人奇人な叔父はともかく、残されたCDやレコードに罪は無いはず。

何かの拍子に興味を持った俺は段ボール箱の中から一枚を取りだしてみた。

帯には「メガデス 破滅へのカウントダウン」と書かれていた。

親父のステレオで再生した瞬間、俺の人生は変わった。世の中にはこんなにも感動的な音楽があるのか。

今まで、愛がどうしたとか恋がどうしたとかそんなヌルいことばかり歌っているポップミュージックにまったく興味が持てずにいた俺には最高の音楽だと思った。

翌日、学校でその感動を皆に伝えようとしたのだが、

仲間達の誰一人として興味を示してくれるものはいなかった。

理解者のいないことに悲嘆していた俺に声を掛けてきたのが韮崎だった。

今まで特に話したこともない、単なるクラスメイトに過ぎなかった彼が、俺の話を耳に挟んだらしい。

「俺もそういうの好きでさ、何枚かCDとかも持っているんだ」

そう話す韮崎の学生鞄にはLED ZEPPELINと書かれた飛行船型のキーホルダーがぶら下がっていた。

それ以来、韮崎はよくウチに遊びに来ては叔父のコレクションを漁ったり、

自分のコレクションを持ってきたりして、親父のプレイヤーで二人でヘヴィ・メタルを聴いていた。

うちの親父が別に熱心な音楽ファンというのは聞いたことがないが、

韮崎に言わせれば親父の揃えた音響設備はなかなかのものだったらしい。


そんなある日、例によって学校帰りに韮崎が遊びに来て一緒に音楽を聴いていた。

その日は韮崎が「そろそろプログレにも挑戦してみよう」と言って叔父のコレクションから引っ張り出したキング・クリムゾンを聴いたのだった。

〈21世紀の精神異常者〉という曲が気に入ったらしく、韮崎は何度も何度も繰り返し再生していた。

いつもノってくると派手に頭を振り乱し、拳を振り上げて全身で感動を表現する韮崎だっったが、

その日は時折雄叫びや奇声を上げるほどヒートアップし、俺は若干引いていた。

西側の窓から真っ赤な夕焼けが室内を照らし、その禍々しい光が徐々に暗くなっていく中、

韮崎は奇声を上げながら頭を振り続けていた。

その時、韮崎の狂態を眺めていた俺の心に何かがそっと触れる感触があった。

ソレを表す言葉は俺の貧弱な語彙では存在しないが、強いてたとえるのなら、

透き通った水にそっと墨汁が注ぎ込まれていくような、そんな感触。

目の前の光景が急激に意味を失っていき、スピーカーから流れる音も、

首を振りちぎらんばかりに猛烈なヘッドバンキングをしながら金切り声を上げ続ける韮崎も、

窓から差し込む赤黒い光もまるでモノクロの無声映画をコマ送りで見ているような感覚。

未知の感覚に冒されながらも、生物としての本能が俺の脳内で最大限の警告を上げた。

俺は理解する。

今、自分は不当な侵略に直面している。この侵略を受け入れてしまえば、自分は死ぬ。

いや、俺という肉体は今まで通りの日常を送っていくのだろうが、それは今の自分ではない。

今の自分を自分と認識する自我とは連続しない存在だ。

この侵略者は俺の魂を陵辱し、略奪し、殺害して消失させた後にこの肉体を乗っ取ろうとしている。

ソレは韮崎の精神を侵略し、韮崎の魂を破壊し、韮崎の肉体を支配し、

そして次の標的としてして俺を選択したのだ。もう韮崎は駄目だ。奴はもう殺されてしまった。

あそこで奇声を上げながらメチャクチャに暴れているのは韮崎の残骸に過ぎない。

俺は自分の身を守るためにも、友人の仇を取るためにも、

韮崎の姿をしたあの怪物に立ち向かわなければならない。

リビングの端に置かれた電話台が目にとまる。

電話台には今時珍しい黒電話が鎮座しているが、その横に筆立てが置かれている。

ボールペンやサインペンに混じってペーパーナイフがある。

霞む視界の中、粘度の高い空気の中を泳ぐように電話台へと歩いて行く。

どこか旅行先の土産物屋で買ったとおぼしき、

柄に凝った貝細工がちりばめられたペーパーナイフを鞘から引き抜く。

細身の刃先が沈みゆく夕日の残滓に赤く煌めいた。

俺はペーパーナイフを腰だめに構えると、

脇目も振らずにヘッドバンキングし続けている韮崎に向かって突進した。

身体ごとぶち当てられた韮崎は吹き飛んで床に尻餅をついた。

何が起こったか理解できないと言う顔でキョロキョロしていたが、

自分の脇腹から血が流れているのを見て、呆然としていた。

俺の頭の中で本能が命じる。敵は奇襲を受けて混乱している、今のうちに確実にトドメを刺すのだと。

俺は仰向けに倒れている韮崎の腰の辺りに馬乗りになるとペーパーナイフを逆手に持ち替え、

腹から胸から首から顔面から、所構わず滅茶苦茶に刺しまくった。


ピンポーン、ピンポーン

暗い室内に来客を告げるチャイムが響く。

朦朧とする意識にふらつきながら廊下を進む。

身体が重い。眠い。怠い。

今すぐ眠ってしまいたいが、客が来たのならば対応しなければならない。

どうせ今日も両親の帰りは遅いだろうし、今日は麻那はそろばん教室の日だ。

家には俺しかいない。

ピンポーン、ピンポーン

うるさいな、今でるよ。

玄関の鍵を外そうとして、自分の手が濡れているのに気付いた。

濡れた指先がヌルヌル滑ってうまく金具が掴めない。

だいぶモタつきながらチェーンを外し、ドアロックも外して玄関の扉を開く。

そこには回覧板をもったまま目を見開いて絶句する歌恋がいた。


--------------------------------ーーーー


私、涼城歌恋には友人がいない。

もちろん学校に居れば適当に話を合わせることのできる女子も何人かいるのだが、

彼女たちに放課後や休日に遊びに誘われた事は無い。

原因はわかっている。私は自分の欲望に忠実過ぎる上に、口べたなのだ。

なので他人には私の言動はひどく過激で扱いにくい印象を与えるのだろう。

有り体に言えば引かれているし、警戒されているのだろう。

実際それが原因で様々なトラブルに巻き込まれがちなのであるが、

幸いにして私には自分の身を守れるだけの身体能力が備わっていたので、

大事には至らずに今日も生きている。

私はそんな私ががけっこう気に入っているので、あえて自分の性格を直そうという気もしない。

そんな私は今日も今日とて自分の趣味を充足させるための活動に勤しんだ後、帰宅したのだった。

具体的には近所の柔術道場で小等部の稽古に参加してきたのだ。

背の低い私は体格的には小等部の子供達と変わらないので師範も大目に見てくれている。

中等部の稽古の時間にはどうしても都合が合わないという事にしているのだ。

年上のお姉さんと組み手をするときの男の子たちの緊張した態度や、

寝技をかけられて私の身体の下で必死になって抵抗しようとする女の子たちの仕草にキュンとする。

最近胸が膨らんでたので、、道着越しにおっぱいをふにふに当ててあげる。

するとイロイロとカチコチになって固まる高学年の男の子達をからかうのが楽しくてしょうがない。

そうして至福の時間を過ごして帰宅してみると、郵便受けに回覧板が入っていた。

至急と書いてあるが、共働きの我が家には日中誰もいないので直接渡せなかったのだろう。

適当に中身を見てハンコを押して、次の家へと持って行く。

次の家ははす向かいの鬼頭家だ。

字面の恐ろしさに比べて読みの間抜けさに苦笑を禁じ得ない名字だ。

先祖に鬼のようなイチモツを持った人でもいたのだろうか。

この家の長男は私のクラスメイトで、最近は何となく疎遠となっているが、

何とかまた仲良くなれるキッカケはないものだろうか。

別に彼自身はどうでもいいのだが、彼の妹の麻那ちゃんが可愛すぎる。

食べてしまいたいくらい。

直接本人にアタックしてもいいのだが、

兄貴がクラスメイトならその繋がりを利用できるに越したことはない。

とりあえず至急の回覧板という口実もあることだし、尋ねてみよう。

鬼頭家は我が家と同様、共働きで両親とも帰りが遅いようだし、

この時間ならば子供しかいないはずである。

麻那ちゃん本人が出てくれば言うことはないが、このさい兄の方でも良しとしよう。

将を射んとすべばまずは馬から。

そう思ってチャイムを鳴らす。返事はない。もう一度押す。

もう日が沈んであたりは暗くなりかけているが、来客に反応して自動的に灯るドアライト以外、

鬼頭家に明かりはついていない。

留守かと思って回覧板を置いて帰ろうとしたとき、なにやら扉の向こうで人の気配がしたので思いとどまる。

なにをモタモタしているのか、なかなか扉は開かない。

たっぷり時間をかけてロックを外す音が聞こえ、扉が開いた。

ドアライトに照らし出されたのは死人のような顔をして全身血塗れのクラスメイトだった。


うつろな目でブツブツと何か言い続ける鬼頭章

(何か今更感がハンパないが、鬼頭家のご長男はこういう名前だ)

を押しのけて家に上がり込む。廊下を渡ってリビングへ。

手探りで電灯ののスイッチを押すと、白い照明に真っ赤な室内が照らし出された。

フローリングの床には血だまりが広がり、その中心には赤黒い何かが大の字になって横たわっていた。

ズタボロになったその服は、辛うじて原型を留めている詰め襟から学ランだとわかる。

しかし胴体ならず顔面までも無茶苦茶に切り裂かれていて誰だかは判別不能だった。

遺体の側には細身の刃物が血塗れで転がっていた。あれはペーパーナイフか。

ソファや壁には盛大に血しぶきが撒き散らされ、それは天井近くにまで及んでいた。

「これ、アンタがやったの?」

私の背後にボウッと立っている鬼頭章に尋ねると、彼は緩慢に頷いた。

彼の全身を濡らす血は返り血のようだで、怪我をしている様子はない。

コイツがこのズタボロ学生を滅多刺しにしたのは間違いないだろう。

だが、麻那ちゃんを人殺しの妹にさせる訳にはいかない。

なんとかしてこの状況を収拾する必要がある。

しかし、この散らかりようでは証拠隠滅は不可能だ。

無かったことにするには、あまりにも周囲への影響が大きすぎる。

「あんたはそこ動かないで待ってて。」

緩慢に頷く章に言い渡して一度自宅へ戻る。

自室の押し入れの中にもぐり込む。

押し入れの天井部分は30センチ四方ほどの穴があけられていて、

ベニヤ板の蓋をずらせば屋根裏を覗けるようになっている。

そこに手を入れて埃にまみれた菓子箱を取り出す。

蓋を開けると、箱の中には新聞紙に包まれた棒状の物体が入っている。

包みをほどくと中から現れたのは切っ先の鋭い細身のナイフ。

昔ちょっとしたことで自称暴力団関係者とトラブルになった際にそのチンピラから巻き上げたナイフだった。

細身の刀身は切断という作業に使用されることを想定しておらず、ただ突き刺す用途のみに特化した形状。

殺人以外の実用性皆無なシロモノである。

直接素手で触らないように慎重に扱う。

さらに押し入れから雨合羽と軍手を持って紙袋に入れるとそれを持って鬼頭家に戻る。

リビングでは血にまみれたソファーに章が横になって死んだように眠っていた。

あまりに血色が悪くて本当に死んだかと思ったが、かすかに胸が上下していたので安心した。

こんな状況でよく眠れるものだと思う反面、こんな状況だからこそ意識を手放したのかとも思う。

私は紙袋から雨合羽を取り出して着込み、軍手を嵌める。

ナイフを取り出すと、学生服の死体を改めて持参のナイフで滅多差しにした。

充分刺しまくった後、最期の一突きでナイフを刺したままにした。

軍手と雨合羽を脱いで紙袋にしまい、血塗れのペーパーナイフも一緒に紙袋へ入れる。

それから一度自宅へ戻り、物置の裏に紙袋を隠した。

後ほどこれらも改めて処分しなければならないだろう。

血塗れソファーで血塗れで眠る血塗れ男の頬を平手でペチペチと叩く。

「起きなさいよこのハゲ!」

章の瞼がゆっくり開いた。

そして再び閉じた。

「二度寝してんじゃねえよチンカス野郎!

これからアンタが助かる方法を教授してやろうってんだから!」

頬の叩き方をペチペチからバシンバシンに変更すると、章は観念して瞼を開いた

「いい、よく聞きなさい。アンタは彼と一緒にこの部屋に居た」

「ああ、韮崎と一緒だった。」

あのドログチャ肉塊は韮崎君だったか。

「そしたら覆面を被った男が突然押し入ってきて韮崎君を刺し殺した」

「え?覆面の男なんて…」

「いたのよ、覆面の男が。あんたは抵抗しようとして殴られて気絶した」

「ああ、そういえばそうだったかもしれない。」

「そこに私がやって来て、焦った男は私を突き飛ばして走り去った」

「そうだったのか」

「そうだったのよ。今から警察と救急車を呼ぶわ。何か聞かれたら今の話をしなさい」

それから後は警察やら救急やら野次馬やらが集まって大変な騒ぎだった。

現場の状況や章の証言には多少不審な部分があるかもしれないが、あまり問題にはならないはずだ。

実際に現場に残された凶器を調べれば例のチンピラの指紋が検出されるはず。

あのチンピラは前科持ちだったはずだから警察のデータベースにはアイツの指紋が登録されていることだろう。そして当の本人はとっくの昔に現世に別れを告げて今頃は神宮小学校の裏山で植物や土中微生物たちの栄養源になっているはずなので、逮捕されて否認するとか完璧なアリバイがあるとかいうこともない。

警察にはせいぜい既にこの世にいない人間でも指名手配して探してもらうことにしよう。


私が自宅の庭先で作業しながら2年前の事件を思い出しているうちに1時半になった。

もっとも作業はほとんど待ちの状態なので、

特に手を動かす必要も無くボーっと昔の事を回想していただけだったが。

章はまだこない。昼ごろ来いと言っておいたのに。

ポケットから携帯電話を取りだして電話を掛ける。


--------------------------------ーーーー


ジャーン、ジャジャジャーン、ジャジャジャジャージャ

ジャーン、ジャジャジャーン、ジャジャジャジャージャ

AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!

OHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!

再び枕元のスマホがエンジェル・オブ・デスを奏でる。

まったくあの悪魔、少しは寝かしてくれてもいいものを。

しかし、何だか昔の夢を見たような気がする。2年前の事件を思い出したのは本当に久しぶりだ。

あの時は韮崎と俺で、今回は歌恋か。

あの人間の精神を侵食する敵は一体何者なのだろうかとか、色々と思う所はあるのだが、

思索は明確な形を得られずに霧散していく。

いかん、まだ寝ぼけているようだ。早く電話に出ないとまた悪魔の機嫌が悪くなる。


涼城家の玄関でインターフォンを鳴らそうとしたら、庭の方から物音が聞こえてきたのでそちらに回る。

庭先では朝方殺害されたニワトリが足を紐でくくられて逆さ釣りにされていた。

「何してんだ?」

「見てわかんないの?緊縛吊るしプレイよ」

「は?」

「冗談よ。やっと血抜きが終わったところ。

死にたてじゃなかったから血の抜けが悪くて時間かかったわ」

いや、緊縛吊るしプレイも血抜きも俺の理解の範囲外なのだが。

「今晩ごはん作ってあげるって言ったじゃない。

その下準備よ。アンタも食べるんだから手伝いなさい」

え?豪華ディナーを奢ってくれるんじゃなかったのか?まさか食うのかこの鶏。

「殺した獲物は感謝の念をもってありがたくいただく。生物として基本でしょ」

いわれてみればその通りなのだが、何故か釈然としない。

「台所にお湯沸かしてあるから持ってきて」

どうやらこれから解体ショーのパシリ、もとい助手をやらされるのは確定らしい。

台所ではヤカンが二つ沸騰していた。両手に持って庭へと戻る。

「そのバケツに入れて」

指示されたバケツにお湯を注ぐ。

俺がバケツに湯を充たしている間に、

歌恋はタロットカードの〈吊された男〉のようになっていた鶏の紐をほどいていた。

湯の中に鶏を投入。約1分放置したのち湯から上げ、羽をむしる。

羽をむしり取られるととたんに〈ニワトリ〉が〈鶏肉〉に変化したように感じる。

そして作業場所を台所へと移して解体にかかる。

まずは脚の付け根に切れ目を入れて股を開かせる。

「ほぉら恥ずかしがらずにもっとオジさんによく見せてごらん」とか、

「今更カマトトぶってんじゃねえよこのアバズレが!とっとと股開けつってんだろ!」

とか笑顔で鶏肉に語りかける歌恋が残念すぎる。

続いて腹を開いて内臓を取り出す。

歌恋が頼んでもいないのにハラワタ講座を始める。

「これがレバー、これが砂肝、こっちがホルモン」

ハッキリ言って気持ち悪いだけだから見せないでもらいたい。

「ハツは切り開いて血の塊を洗い流さないと。はい流水で洗って」

そう言って内臓を押しつけてくる。

なんだろう、焼き肉屋とかで見ればどうってこともないのに、

こうしてみるとエグいというか、グロいというか。

「ほら、さっさとやる!次にホルモンも流水でよく洗って!」

まだあるのか。

「ほら、嫌そうな顔してないでちゃっちゃと動け!

こんな美少女と一緒にクッキングなんてイベント、

あんたみたいなハゲにはもう一生ないかもしれないんだから、

もっとワクワクテカテカギラギラヌラヌラしなさい!」

うわ、こいつ自分で美少女とか言いやがった。つーか、ヌラヌラってなんだ?


こうして俺の食欲を大きく減退させる解体ショーは夕方まで続けられたのだった。

ちなみに鶏肉づくしの夕飯は正直あんまりおいしくなかった。

「血抜きが足りなかったかしら」

とは歌恋の弁だが、どちらかというと肉そのものよりも調理に問題があったように思えるのだが、

それは言わぬが花だろう。


つづく




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