prologue 始まりはいつも雨
「いつまで降るんだか…」
見た人の半数が廃墟と答えるであろう、倉庫のような場所で雨をしのいでいた20代そこらの男、カイルがつぶやく。
鈍色の空を一瞥し、溜息。
「おちおち廃品漁りにもいけねぇなこいつは。仕方ねえ、在庫チェックでもするか」
言って、この廃墟じみた倉庫の奥まった場所、ガラクタの山に向かう。
カイルはその山から、大半が錆びに覆われ、触れようものなら途端に崩れてしまいそうな
一抱えほどの箱状の物を取り上げ、わりかしきれいな台に置く。
台の上にはドライバー、ペンチ、万力等の工具があることから、かろうじて作業台だと推測できる。
カイルは台に散らばる工具を探り、目当てのプラスドライバーを手にする。
そして引っ張ってきた箱状の物、昔流行った家庭用ゲーム機らしきものの残骸を持ち上げ、各面を確認し、穴と同化したネジを見つける。
「はぁ…。錆びついちまってやがる」
作業台に目をやり、今度はマイナスドライバーを手にした。ゲーム機の奇跡的に錆の少ない面の継ぎ目に突き立てる。
「…っ」
梃子の要領でドライバーに力をこめ、無理やりにこじ開ける。
鉄板が歪み、複雑な内部がのぞく。
「おっ、中は割と痛んでないな。こいつぁ期待できそうだ」
カイルはわずかに口角をあげ、内部を弄り始める。
コンコン。
不意に、倉庫の入り口、搬入口ともいうが、今はシャッターもないので開きっぱなし、外が見える。そこから音がした。
「よぉ、今日は廃品回収に行かないのか、カイル」
見ると、そこにはコートに身を包んだ青年が倉庫の壁に寄りかかり、カイルを呼んでいた。
「ひどい雨だからな。お前こそ今日はどうした?」
コートに身を包んだ男、尹に聞く。
「おう。こいつの修理を頼みたいんだが…」
言って、尹はノートパソコンを懐から取り出し、カイルのいる作業台に向かう。
「ふむ、どこの調子が悪いんだ?…」
「いやな、処理が異常に遅くてだな…」
作業台に二人並び、相談をしている、と。
ガシャッ。
「ん?」
倉庫の入り口方面から音がする。カイルが振り向くと、朽ちたフェンス近くに小さな人影が見えた。今の音はフェンスに手をかけた音だった。
「客か?あぁ、そのフェンス気をつけな。体重かけたら崩壊しちまうか…ら…」
カイルは絶句した。
「どしたカイル。鳩が迫撃砲受けたみたいな顔し…」
尹も絶句。
二人の視線の先には、異様に長い髪が顔の大半を覆い、隙間から感情の無い瞳をのぞかせている小さな少女が全裸で立っていた。
そして、その少女が左手を、否、左手があるはずの部位をこちらに示し抑揚のない声を発した。
「…直せ、る…?」