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Story1

それは1足の赤いトウシューズとの出会いから始まった・・・。






「すごーい!バレエってはじめて見たけどすごいんだねぇ」

そう言ってはしゃぐのは伊吹かれん。

「でしょでしょ?私もお母さんの影響で好きになって、それでときどきこうして舞台を見に行ったりしてるんだよね」

どこか得意気にそう言うのは、葉山星羅。

2人はちょうどバレエ公演を見終えたところだった。

「あの、真ん中で踊ってた女の人が特に素敵だった!」

家への帰り道で、かれんはうっとりとした表情を浮かべている。

かれんのそんな表情を見て、バレエ公演に誘った星羅は嬉しそうである。

「あぁ、主役の人?プリマっていうんだよ」

「へぇ、プリマかぁ。私もあんな風に踊ってみたいなぁ」

知らなかった単語を星羅から聞き、かれんはバレエについて一つ言葉を覚えた。

たった一つ新たに知っただけでも嬉しくて、かれんの瞳はきらきらと輝く。

そして、同時にかれんはバレエへと強く憧れを抱いた。

しかしその瞬間、その憧れをすっぱりと断ち切ってしまうような星羅の言葉が耳に届く。

「無理無理!」

「え〜!」

きっぱりと言った星羅に、かれんは非難めいた声をあげる。

しかし、星羅はそんなかれんの言葉に動じることはなく、ぴっと指を立て言い聞かせるようにさらに言葉を紡ぐ。

「知らないの?バレリーナになるには、小さい頃からバレエをはじめてなきゃダメなんだよ!今さらはじめたって、遅すぎなの!」

「そう、なんだぁ・・・」

星羅の言葉に、かれんは目に見えて落ち込んでいく。

もっと早くバレエを知っていれば、バレエに出会っていれば、そんなことを考えてみても遅いものは仕方がない。

かれんは肩を落とし、諦めたようにため息をついた。

「そうそう。今度またチケット取れたら誘ってあげるから、また一緒に見に行こう、ね?」

かれんを元気づけるように星羅がそう言えば、かれんはほんの少しだけ気分を浮上させる。

「うん、ありがとう星羅」

「いえいえ。それじゃあ、また明日、学校でね!」

「うん、また明日ね!」

お互いの家への分かれ道に差し掛かり、かれんは手を振って星羅と別れた。




その日かれんは夢を見た。

スポットライトに照らされたきらきらと光るステージ。

その中央できれいなチュチュを着て、トウシューズを履いてバレエを踊る。

それはかれんにとって覚めてほしくない、幸せな幸せな夢だった。


「夢、か・・・」

それでも朝は必ずやってくるもので、かれんは眠りから覚めるとゆっくりと身体を起こした。

「やっぱり、踊りたいなぁ」

前日に見たバレエが忘れられず、やっぱり自分も踊ってみたいと思う。

「でも、ダメなんだよね・・・」

同時に星羅の言葉も鮮明によみがえってくる。

誰もいない自室で、かれんは深いため息をついた。




その日の夕刻、沈んだ気分で街を散策していたかれんの目に、ふとバレエ教室の看板が目に入る。

近づくと音楽やにぎやかな声が聞こえてきた。

(いいなぁ、あの人たちはみんな早くにバレエに出会えたんだ・・・)

かれんはまた深いため息をついた。

「帰ろう・・・」

ここにいたって仕方がない、そう思ってかれんがくるりと反対を向き家へと帰ろうとした、そんなときだった。



”バレエが踊りたいのかい?”



どこからともなくそんな声が聞こえてくる。

「だ、誰?」



”踊りたいんだろう?”



辺りを見渡しても誰もいない。

だが、はっきりと聞こえてくるその声は、かれんの問いのは答える様子もなく、ただただ問いかけてくるばかりだった。

「お、踊りたいわよ!でも、私は・・・っ!」



”なら、踊らせてやろう、誰よりも上手く”



半ばやけのようにかれんが叫べば、その声は満足気な笑い声を漏らしながらそんなことを言ってくる。

「何言ってるの?あなた知らないの?バレエは・・・」



”小さな頃からはじめないとダメ・・・か?”



「そうよ、知ってるんじゃない!」

姿なき声と会話しているという奇妙な事実を忘れ、かれんは声を荒げる。

すると声はくすくすと笑いはじめる。




”ああ、知っているとも。だからこそ言っているんだ。今からでも踊れるようにしてやろうと”



「で、できるの?私も、バレエを踊れる?」




”ああ”



今からでは遅いと言われたバレエを、踊ることができるかもしれない。

かれんはそれ以外には何も考えられなくなった。

「どうすればいいの?」



”簡単だ。このトウシューズと契約を結べ”



声がそう言うと同時に、どこから現れたのかかれんの目の前に1足のトウシューズが現れる。

それは、赤い、赤いトウシューズだった。

「このトウシューズと契約・・・?」



”そう、それには若いバレリーナの魂が宿っている。だからそのトウシューズは踊りたくて仕方がないんだ”



「どうやって契約するの?」



”そのトウシューズを履けばいい。そうすればそのトウシューズに宿ったバレリーナの魂が、おまえを誰よりも上手く躍らせるだろう”



かれんは目の前のトウシューズを見つめた。

そして、そっと手を伸ばす。

「これを履けば、バレエが踊れる・・・」

かれんはそれを大事そうに抱えると、家へと急いだ。






「これを履けば、バレエが踊れる・・・」

家へ着き、そのまま自室へと駆け込んだかれんは手の中のトウシューズををじっと見つめる。

真っ赤なリボンのついた真っ赤のトウシューズと数秒見つめあってから、かれんはそっと床へとトウシューズを置いた。

ごくり、と唾を飲み込んでからそっとトウシューズに足を通す。

すると勝手にリボンが結ばれていき、両足のリボンがきれいに結び終わると同時に、まるでかれんんお足にすいこまれていくように赤いトウシューズは姿を消した。


「え?何、いまの・・・」

ほんの数秒の間に起こった出来事に、かれんは目が点になる。

すると、またしても声がかれんの耳に届いた。



”契約を結んだようだな・・・”



「その声、さっきの・・・ねぇ、何がどうなってるの!?急にシューズが消えて・・・」

普通ではありえない今の現状に、かれんは姿なき声に向かって必死に問いかけた。



”あのトウシューズはおまえと契約を結び、おまえの一部となった”



「私の、一部・・・?」



”そうだ、だからこれからおまえがそのトウシューズに願えば、どんな踊りでも踊れる”



「どんな踊りでも・・・」



”あぁ、おまえが望む限りはな”



それだけ言うと声は聞こえなくなった。

かれんはじっと自分の足を見つめる。

何度見てもそこには履いたはずの赤いトウシューズの姿はない。

そして、契約を結んだと言われても、かれんには今までと何も変わらないように思えた。

「これで、本当にバレエが踊れるのかなぁ」

かれんは首を傾げる。

「お母さーん!」

やってみなくてはわからない。

かれんはバレエを習うべく、母のもとへと向かった。






「えぇ〜!?バレエをはじめたぁ!?」

赤いトウシューズを履いて数日後のことだった。

バレエを習い始めたことを星羅に告げれば、星羅は酷く驚いた様子で声をあげた。

「かれん、無理よ、今からなんて・・・」

バレエはそんなに簡単なものではない。

星羅はかれんに辞めるように説得しようとした。

だが、そんな星羅に対しかれんはにっこりと微笑む。

「大丈夫だよ、星羅。きっとすぐに舞台で踊れるようになってみせるから」

「そ、そんな・・・かれん知ってる?バレエってトウシューズを履けるようになるまでだってすごく時間が・・・」

「それなら私、もう履けるようになったもの」

「え?うそ・・・」

「はじめてのレッスンのときにね、先生がこれなら履いてもいいだろうってトウシューズをくれたの」

得意げに言うかれんの言葉に、星羅はおどろきのあまり言葉を失ってしまった。

そして、そんな表情の星羅を見つめて、かれんは満足そうに笑っていた。











それはかれんがはじめてバレエのレッスンへと向かった日のことだった。

バレエ教室は、かれんが赤いトウシューズと出会ったときに見かけたところへと通うことにした。

バレエ教室へと一歩踏み込めば、かれんと同じくらいの生徒がたくさん居た。

そしてその教室の教師だと名乗る人物がそっと一足のシューズをかれんへと差し出した。

「これ、使ってね」

そう言って差し出されたシューズをかれんはまじまじと見つめた。

「これ、違うわ」

シューズを受け取ったかれんが最初に発したのはそんな言葉だった。

星羅と見た舞台でバレリーナたちが履いていたシューズや、自分が履いた赤いシューズ、姿なき声が『トウシューズ』と呼んでいたそれと、教師が差し出したシューズは違っていたのだ。

「舞台で履いていたのは、これじゃなかったもの」

かれんがそう言えば、教師はくすりと笑う。

「それはトウシューズね。これはバレエシューズというのよ。トウシューズはレッスンを重ねて上手くなってからね。それまではこれでレッスンしましょう。それにトウシューズを履く子だって、最初はバレエシューズを履いてレッスンをはじめるのよ」

にこやかな笑みを浮かべ、やさしい声でかれんに教える。

かれんはそんな教師をじっと見つめた。

「上手くなれば、今日からでも履けるの?」

「え、そ、そうね・・・でも、今日はさすがに・・・」

無理じゃないかしら、という言葉を教師はなんとか呑みこんだ。

「そんなに焦らなくてもいいのよ。ゆっくり上達していけば、ね?」

教師は困ったような表情を浮かべつつも、かれんにそう声をかける。

しかし、その言葉はかれんの耳に入っていなかった。

「上手く踊れれば、今日からでも履けるのね」

確認するようにそれだけ言うと、かれんは自分の足元を見つめる。

(赤いトウシューズさん、お願い、私にトウシューズを履かせて)

かれんはトウシューズに呼びかけるように、心の中で呟く。

そうして、いよいよレッスンが始まった。




「うそぉ!?」

「す、すごい・・・」

「あれで、初心者?」

「どっかでやってたんじゃないの?」

バレエ教室の生徒たちは、かれんの踊りを見て口々にそう呟いた。

生徒たちはみな、驚きの表情を浮かべている。

そしてそれはかれんもまた同じだった。

(すごい、すごい!私、こんなの踊ったことないのに、こんなに素敵に踊れるなんて!)

1度も踊ったことがないにもかかわらず、かれんの足は軽やかにステップを踏み、身体は優雅に宙を舞う。

「ねぇ、これだけ踊れたら、もうトウシューズとか履けちゃうんじゃない?」

「悔しいけど、私たちより上手いものね・・・」

「私なんてバレエはじめてからトウシューズ履けるまで、随分時間かかったのにな・・・」

「私もよ」

「私も」

少女たちは口々にそんな言葉を口にした。

そして彼女たちの予想はピタリと当たり、レッスンが終わると同時にかれんは教師からトウシューズを受け取ることとなる。


「伊吹さんすごいのね、びっくりしたわ。あれだけ踊れるなら合格よ、はい、トウシューズ」

そんな言葉とともに渡されたトウシューズを見て、かれんは満足そうに微笑んだのである。





「伊吹さん、すごいのねぇ」

「本当、はじめてだなんてびっくりしちゃった」

レッスン後、2人の生徒が駆け寄ってきた。

かれんは2人を見つめて、きょとんとする。

「あ、ごめん。自己紹介がまだだったわね。私、麻衣よ」

「私は理子っていうの。あなた、かれんだったわよね?ねぇ、かれんって呼んでいい?」

かれんの様子を見て、麻衣、理子と名乗った少女たちは慌てて自分の名を告げた。そうしてかれんに対し、名前で呼んでよいか訊ねる。

その問いかけに、かれんは笑顔で頷いた。

「うん!じゃあ私も麻衣と理子って呼んでいいかな?」

「ええ、もちろん!」

「大歓迎よ!ねぇ、ところでかれんっていくつ?」

麻衣と理子もまた、かれんの問いかけに笑顔で頷く。

こうして互いに名前で呼び合うこととなった。

そうして今度は、年齢を問われる。

そういえば、はじめてのレッスンということで簡単な自己紹介は行ったものの、名前のみで年齢は告げてなかったなと思いかれんは2人に自分の年齢を告げた。

「12歳、中学1年よ。もうすぐ13歳になるわ」

「じゃあ、私たちと同じ歳ね」

「そうなの?」

「ええ。これから一緒にバレエをやっていくんだし、仲良くしましょうね」

「うん!よろしくね」

にっこりと笑って手を差し出され、かれんはその手を握った。

この日かれんにとって、麻衣と理子はバレエ教室でできたはじめての友達となった。

「あ!見て、凛ちゃんとヒロくんがパ・ド・ドゥを踊るわよ」

「あ、本当だ!ねぇ、見に行きましょう!とっても素敵なのよ!」

「え、ええ・・」

かれんは新しくできた友人、麻衣と理子に手を引かれ、引きずられるように連れて行かれた。

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