1 何ですか?この美少女様は?
連投です。夜中の腹痛ってイラつきますよね?
真っ暗だ。
紅夜は確かに目を開けている、と思う。でも視界は真っ暗だ。暗い部屋に居るとかそう言うレベルではなく、本物の深淵。
身体の感覚はあまり無い。
寒くも無く、暑くも無い。
「あれ? なんで俺、こんな所に居るんだろう?」
紅夜の第一声はがらんどうの空間に木霊する。
自分の言葉に呼応するかのように、そこで洪水のように記憶の波が押し寄せてくる。気付いてしまった一つの
真実。
「ああ……、そうか。俺、死んだんだったな」
ふう、と溜息を吐く。
今、思い返せば短くて儚い人生だった。
「御免なさいお父さん、お母さん。先立つ不幸をお許しください。才牙、お前ともっと高校生活を満喫したかったよ。後、学生寮の近所のオバサン、生ごみはちゃんと捨てる日を守ってくださいね。後は…………、」
あれ? 他に人間が思いつかないぞ?
「俺、友達少ないんだな。生きていてもいいこと無かったかな?」
紅夜は諦め気分の超鬱モードに突入した。
でも心残りが一つ。
「俺、女の子と付き合ったこと無かった。くそっ! くそおおお!! 俺だって美少女とラブラブイチャイチャしたかったんだよお!!」
男としての悲痛な叫びが木霊する。
そんな変態じみた叫びには誰も応えてくれない……筈だった。
「すみませーん、そこのゴミクズ!」
真っ暗な空間に鈴の音みたいな少女の声が響いた。だけども、可愛らしい声の中には気の強さが窺い知れる。
ご都合主義の紅夜の脳内では、光の速度である可能性を導き出す。
「そうかそうか。俺の潜在的な欲望が映し出されたんだ。ああ、俺って罪な奴だな~、あははあはははは!」
「無視しないでくださいっ! ゴミクズがっ!!」
「ぶごあっ!!」
突然、紅夜の後頭部を鈍器の殴打が強襲した。
あまりの衝撃に前方に紅夜の身体は吹き飛んだ。流石の紅夜も、
「んだ、テメェはぁ! いきなり殴りやがって!!」
怒鳴った。
態勢を立て直した紅夜のぐらぐらと揺れる視界の先に、一人の銀髪ロングヘアーの、所謂ゴスロリ衣装を身に纏った超が付く美少女が立っていた。
その可愛らしい容姿を色んな意味で際立たせているのは、右手に握られた何処からどう見ても鋼鉄製のバールだ。
「貴方、自分がどうなったのか知ってるんですか?」
美少女は紅夜を殴った凶器であろうバールをゴスロリ衣装の内側にしまい、紅夜に尋ねてきた。
「ああ、俺って死んだんだろ?」
「ええ。小口径の拳銃で額を撃ちぬかれ、弾丸は頭蓋骨を貫通! 前頭葉に直撃! 脳髄は粉々に砕け散り、見るも無残な惨殺体に……」
「もう止めてくれ。聞きたくない」
「そうですか。ならいいです。あまりこういった事をペチャクチャ話すのは死神の流儀に反しますし」
「……ちょっと待てい。貴様、今何と申した?」
ゴスロリの少女は首をわざとらしく傾げた。
「ですから、あまりペチャクチャ話すのは死神の流儀に反すると……ッ!」
その少女の言葉を聞いて、紅夜は光速で少女の首を締め上げた。
「あ……、な、にするんですか……?ぐ、るじい…………!」
「そうかそうか。道理で都合よく空き缶が転がってきたわけだ。貴様が俺の魂を地獄に引きずり込もうとしやがったんだな!?」
「ち、がいま……おね、が……離して……」
紅夜はあまりにも少女が苦しそうに見えたので、離してやることにした。
首の拘束を解かれた少女はげほげほと咳き込みながら、地面(真っ暗な空間なので地面かどうかは吝かではないが)に膝を着いて、紅夜を上目遣いで睨み付けている。
紅夜は目を閉じ、静かな声で告げた。
「まあ、言い訳を聞いてやらないことも無い。一応、事情を聞いてやろう」
「……首を絞めた事に関してはスルーなのですか?」
「い・ち・お・う! 聞いておいてやろう」
「……はい。私が主導権を奪われている事に関しては不快に感じますがいいでしょう。まず、貴方は私のせいではなく、自然に訪れた不幸によって死にました」
「あれって、俺の持ち前の不幸だったんだな」
「はい。そんな可哀想で哀れ惨めな少年の魂を捕まえて、私は生き返らせようとしていたのです」
そこまで聞いて、紅夜の思考に何かが引っ掛かった。
「ちょっと待て。普通、死神の仕事って魂を貰う事じゃないか? なのに何で生き返らせる? それに俺を選んだ理由ってのは一体……」
「ええーい! 五月蝿いです! 細かい事は気にしないで下さい! このゴミクズ!」
ゴスロリ自称死神少女はキーキー喚き始めた。
紅夜はとにかく一番気になっている事から質問することにした。
「まず、俺を生き返らせることにしたのは何故だ?」
ゴスロリ自称死神少女は真顔で、
「何故って、私がゆらゆら散歩してたらゴミクズの魂がゴミクズみたいに彷徨っていたからですよ。だから慈悲深い私が、哀れなゴミクズの魂を肉体に戻してあげようと考えたわけですよ。分かりましたか、ゴミクズ?」
「どうでもいいが、そのゴミクズっていうのは止めてくれ。俺には紫月紅夜っていう名前があるんだよ」
「ゴミクズはゴミクズなのです。それに下僕が主人に命令するのは好ましくないのですよ」
「わーい、俺って下僕? 嬉しくなーい!」
「嬉しくなくても結構です。でも、私は一応ゴミクズの命の恩人なのですよ」
「それだけは感謝しまーす。でも下僕は御免でーす」
ゴスロリ自称死神少女は紅夜のやけくそ気味なふざけ方を見て、ギチギチと歯を鳴らし始めた。
「……馬鹿にしてますね。私、死神なのに……ぐすっ」
何だか涙目になり始めたので、紅夜は少女がちょっと可哀想に見えてきた。
紅夜は人の気持ちが分からない人間ではない。致命的に空気が読めないとかいった特殊能力もないノーマルな人種なので、こういう空気の時にどうすればいいのかくらいは察しが付く。
紅夜は咳払いし、
「まあ、生き返らせてもらった事には感謝してるよ。ありがとう」
しかし、話はここで終わりではない。
「でも俺は一般人なんですよ。平凡な生活をぐうたらと送っていた青少年に死神とか、そんな話をされても正直困るんです!」
紅夜はもっともな事を言ったつもりだった。
「でも、実際に生き返らせた訳ですよ。これは信じて欲しいのです。……そうです! 私が自分の身体で証明致しましょう!」
か、身体っ!? と初心な紅夜は噴き出した。手をぶんぶんと振りながら、顔を真っ赤にして弁明する。
「待って、待ちなさい! 女の子がそういう事を言うもんじゃありませんっ!」
少女は顔に?マークを浮かべた。そして可愛らしく首を傾げる。
「ゴミクズ、どうしてそんなに顔を赤らめているんですか? なにやら脈拍や心拍数も絶賛急上昇中のようですが……」
「うわぁあああ!! 何でもないないない! それよりもどうやって証明してくれるんだよ!」
ノリで誤魔化してみた。案外、少女には通じたようだ。
「そうですね……じゃあこうしましょう。私がゴミクズの家に居候します。それでいいですよね? 異存は認めません」
「はいはい……って、ふざけんじゃねえぇぇぇ!」
「ふぉわっ!! びっくりしますよ~、いきなり叫ばれたら」
「びっくりしても駄目です。意味不明な死神少女を養うほど我が家の家計は潤ってはいないのだー!」
むうう~、と少女は唸った。
「じゃ、一つだけ証明してあげます! これを見なさいっ!」
少女は背中に手を回し、なにやら長い柄を持つモノを取り出した。何だろう? 嫌な予感がする。少女が取り出したモノは、木材と思われる柄の先端になにやら見覚えのある形状金属が付いているそれは……、
「じゃじゃーんなのです! これをとくと見ろー!」
それはよく漫画とかで見る死神の鎌だった。
「うおお! そんな危険なシロモノ持ち歩いてんじゃねーよ! つーか、アナタのその華奢なスタイルと凶悪且つ残酷な大鎌とのギャップが凄まじいんですがー!?」
「ふんふっふーん♪ これで死神だという事が分かりましたか? 分かったら居候させやがれー、ゴミクズ」
「……ホントに死神なんだな?」
「もっちろーん! それに今、私は住むところがない流浪の民。だから必然的に宿が必要になるのですよ」
「俺んちって学生寮だからさ、狭いぞ。それでもいいんですか?」
「妥協します。おやつは三時と十時に一回ずつ。朝昼夜三食寝床付きならおーけーなのです」
「居座る気かよ……」
「当然なのですよ。まあ、そろそろ雑談にも飽きてきました。これより死者蘇生の儀式を始めたいと思います」
少女は右手に持った鎌を振り上げた。何となく標準は紅夜に向いている気がする。
何だかもう嫌な予感しかしない。
「では、いっきまーす!!」
「ちょ、おま!!」
ザシュッと鎌が紅夜の脳天に降り注いだ。
一瞬で紅夜は意識を無限の彼方まで吹き飛ばされてしまった。
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