0 死は劇的に
別の小説が終っていませんが、心配御座いません。ちゃんと他の作品も続けますので。今回は、最近疲れ気味だな~、と思って気分転換で投稿した作品です。なので、設定など無理矢理な所もあるかと思いますが、どうか生暖かい目で見守ってやってください。
何だか知らないが、今日は暑い。
だからこそ、紫月紅夜は拷問に近い放課後補習の帰路途中に、こうして自販機で一本百円という特価の缶コーラを買っているのだ。
しかも隣では紅夜の誇るべき? 友人である蔵橋才牙が今日の水泳の授業での、スクール水着を着用したクラスの女子について完全に彼の主観的な評価を下している。
正直、ウザいですよ、はい。
「だーかーら! もう学級会長様の腰のくびれが素晴らしいということは分かったって言っとろーが! 紅夜さんはしつこい男は嫌いなのですよ~?」
「いいにゃ、分かってねえよ! 俺が言ってんのは腰だけじゃねえ、君はあの豊満なバスト部分を見たのかね? いーや、見てないだろう!」
「んな、ジロジロ見たら変態じゃねえか! 俺は変態じゃありません! 性犯罪者でもありません! 素直で純粋な青少年なのです!」
紅夜のその言葉を聞いて、才牙は意味ありげな笑顔をここぞと浮かべた。
「ほっほ~う。ま、お前は無い奴にしか興味ないしな。俺ぁ、知ってるぜ。お前が赤いランドセルを背負った純粋で健気そうな小学生を嘗め回すように見ていたのをな!」
「ぶごっ!」
紅夜はコーラを噴き出した。
これは別に図星だから、という合図ではない。
あくまで、突拍子もないことを言われ、少々驚きを隠せないだけだ。動揺とかは全然していない。え? 信じられない? うっさい、黙れ、信じろ。
そんな紅夜の様子を見て、才牙は更に図に乗り始めた。
「くっ、くっ、紅夜はロ~リコン♪しょーがくせいに欲情中~♪」
「ぐぅ、ぐぐぐ……、殺してやる!」
紅夜は精一杯の憎しみを込めた怒声と共に、リズムを付けた即興の歌を歌い始めた才牙の首をギリギリと締め上げる。
顔を酸欠で真っ赤にしながら、才牙は悶え苦しんでいる。
「ぁがががが、ご、御免なさい……、紅夜様……もぉ、言いませんから…………」
「――――分かったなら宜しい」
紅夜はパッと手を離してやる。
才牙は地面に膝を着けて、必死に肺に酸素を取り込むという生命維持活動の真っ最中だ。
「はぁ、はァ……、ところで紅夜。コーラが悲惨な最期を遂げているぞ?」
あん? と紅夜は足元を見る。そこにはひっくり返って、中身を盛大にぶちまけているコーラの缶が。
「し、しまったぁあああ! この変態の息の根を止めるのに夢中で、この存在を忘れていたぁぁああ!」
そう。紅夜は才牙の首を締め上げるのに夢中になり、うっかり缶コーラを放り投げていたのであった。ホントにうっかり。
「が、あああああ! ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
紅夜は悲痛な叫びをあげ、天に向かって吼えた。
つくづく、自分を不幸だと思った。でも、こんな事はこれから起こる人生最初で最後の一大不幸イベントに比べれば、無限の宇宙に散らばる一惑星程度の出来事に過ぎなかった事を紅夜は思い知らされることになる。
でも、彼はそんな事を知る由も無かった。
~☆★☆★☆★☆★~
事の発端はあの駅前の道を通った事なのかもしれない。
紅夜の住む水無瀬市は人口三十万程度の中規模都市だ。当然ながら、駅前には銀行や郵便局などの金融機関はもちろん、中規模のデパートや不良が集まるゲームセンターにア○メイトもある。
その日、紅夜と才牙の二人は駅前に通じる商店街を帰宅の道として選んでいた。
「なあ、機嫌直せよ。たかがジュース一本だろ?」
「ぶっ! たかがジュース一本だとぉ!! 貴様には夏の日のジュース一本の価値が分からんのかぁ!」
紅夜は結構本気でブチ切れた。
紅夜にとって、暑い日のコーラ一本は数十カラットのダイアモンドに匹敵する。財宝を奪われた海賊の恨みは恐ろしいものだ。そして今、紅夜は株が大暴落した株主並みに吹っ切れていた。
「ま、落ち着けって! 暴れたってコーラは帰って来ねえんだぞ!!」
「…………えして」
「え?」
「…………こーらかえしてよ」
「――――ああ…………」
思わず才牙の口から、溜息とは違う呼気が漏れる。
紅夜は元々、整っていて中性的な顔を精一杯の悲しみに歪め、今にも泣きそうになっている。まるで雨に打たれてずぶ濡れになってしまった子犬みたいだ。子犬は子犬でも飛びっきり可愛いチワワ。
至近距離で見ると本物の女の子みたいで、何だか才牙の方が照れてしまうのだった。
「ねえ、こーら、かえしてよ」
「ご、ゴメン。ホントに。俺、奢ってやるよ」
ふわぁ、と紅夜の顔に笑顔が広がっていく。
「いっよっしゃああああああ!」
先ほどとは打って変わって、紅夜は拳を天に突き上げて歓声を上げた。
一気に男に変化した紅夜に、才牙は毎度の事ながら溜息を吐いた。
「何かさ、お前ってずるいよな。いっその事、女になっちまえよ。俺なら抱いてやるぜ?」
「止せよキモい、マジでキモい。もう寄らないでくれ」
「じょ、冗談だって!」
才牙は必死に弁明し、手をバタバタと仰がせてリアクションを取る。紅夜もそれを見て、何時ものように頬を綻ばせた瞬間――――――――、
バンッ! と鋭い音が響き渡った。
紅夜は特殊部隊でも、忍者でもない。だから、その鋭い音が銃声だと認識するまでに、五秒ほどのタイムラグがあった。
これが戦場なのだとしたら、既に紅夜は死んでいるだろう。
それほどこのタイムラグは大きいものだ。
「今のって……、なあ?」
「ああ、銃声っぽいな」
二人は顔を合わせて呟き合った。商店街で買い物途中の豹柄オバサンも八百屋のおっちゃんも皆硬直して、今の音の正体を探っている。
そして見はからかったかのように、女性の悲鳴が響き渡った。
間違いなくこれは事件だ!
「よしっ! 才牙、行ってみるぞ! 俺に着いて来いよ!」
「任せい!」
紅夜と才牙は商店街を駅前の方向に向け、走り出した。
この好奇心が紅夜の人生を永遠に狂わす事になる。見方によっては良い方に。でもよくよく考えてみれば、悪い方に動いていく事になるのだった。
~☆★☆★☆★☆★~
銃声と悲鳴を追って、たどり着いた先は駅前の銀行だった。
この銀行はこの市で最大規模の店舗だ。だが、今まで一度も物騒な事件が発生した事はない。
銀行の前には数人の男女が倒れている。どれも足などを撃たれていて、地面でうめいている。しかし二人の視線はそこが中心ではない。二人は銀行の正面玄関にいる三人の犯人を睨んでいた。
三人は手に拳銃を持ち、一番後ろの男は現金が入っているであろう黒いゴミ袋を抱えている。そして二番目の男の腕には一人の女性銀行員の姿がある。どうやら人質のようだ。
「あー、なにやらヤバめな雰囲気ですぜ、紅夜さん。警察に通報しますか?」
「おふざけは後にしてくれ。警察になら、もう誰かが通報しているだろうよ。それよりもあいつ等を放っておくほうが、俺としてはいただけないんだよな」
紅夜の超真剣な顔から放たれたその言葉を聞いて、才牙はうげっ、と顔を曇らせる。
「おいおい、まさかとは思うけどよ、人質を助け出すなんて馬鹿なこと言わねえよな?」
「ああ。無論、助け出して、現金も取り戻す。犯人も取り押さえるぞ」
「――――ッ!! 馬鹿かよ、お前! 事件ってのは、本職の奴らに任せておけばいいんだよ!」
しかし紅夜は首を縦に振らない。まったくの頑固者である。
紅夜は昔から無駄に正義感? が強かった。それは才牙も記憶している。駄菓子屋で万引きの常習犯を取り押さえたり、お小遣いを不良に盗られた友人の頼みで不良達の屯う場所に殴りこみに行ったりと、無茶な事ばかりしてきたのだ。紅夜にとって、人助けは病気のようなものである。
そして今回もその”病気”は惜しめなく発動してしまったらしい。こうなったら、才牙にも止める事は出来ないのだ。
才牙はふぅ~、と笑顔で溜息を吐き、
「で、どうするよ? お前が人助けするってなっちまっちゃあ、俺が手伝わない訳にはいかねえだろ?」
「……危険かも知れないけど、それでもやるか?」
「ああ、才牙様にドンと任せろ」
「じゃあ頼みがある。いいか、よく聞けよ――――――――――――」
~☆★☆★☆★☆★~
最初に異変に気付いたのは、一番先頭で拳銃を構えて威嚇していた男だった。
突然、目の前に停車しているワゴン車の影から学生らしき人影が現れたのだった。その学生はこちらを馬鹿にするかのように、彼の足下に落ちていたお茶の空き缶を蹴飛ばした。
「ぐぅっ!! 嘗めやがって!!」
学生に小馬鹿にされたとあっては、憤慨しないほうがおかしい。先頭の男は威嚇の意味を込めて、こちらを挑発している学生の足下に向けて、発砲した。銃声で野次馬が一部、悲鳴をあげる。
もちろん、それでこそ才牙の思惑通りだったのだ。
どんな人間でも、大きな物音がすれば自然とそちらに注意が逸れる。才牙はそれを利用し、犯人たちの注意が自分に逸れるようにしたのである。
紅夜はその時、犯人達の側面で待機していた。
ねらい目は三人の強盗犯の注意が逸れた時。
そして――――、
バン、と乾いた銃声が夏の駅前に響き渡った。
「――――――――ッ!」
紅夜は無言で車の陰から、飛び出した。
後ろなどは見ない。飛び出した以上は特攻隊同然、目の前の敵に向かってただ突進するのみ。紅夜が殴り込めれば、その隙に才牙も加勢できる筈だ。
犯人達までの距離はおよそ五、六メートル、紅夜の足なら三歩で踏み込める距離だ。
犯人達は突然の出来事に脳の情報処理が追いついていない。これならイける――――ッ!?
「のわぁっ!!」
突如、踏み込んだ足に謎の感触が走った。それを踏みつけた紅夜は盛大にずっこける。
思い切り尻餅をついた紅夜は自分の特攻を妨害した憎憎しい相手を睨みつける。それは――――、
先ほど紅夜が飲んでいたのと同じ缶コーラの空き缶だった。
「なんと言う不幸!!」
紅夜は誰に言い聞かせるでもなく、叫んだ。
あれ? でも俺がこの状況でこけたってことは? もしかしたら……!?
紅夜は恐る恐る顔を上げてみる。
目の前、三メートルほどの所で激昂している犯人は拳銃を紅夜に向かって構えていた。
あれ? これ、ヤバくないか?
えへへ、と紅夜は笑顔を浮かべた。
「い、いや~。失敗失敗……、みたいな?」
「死にやがれっ!!」
バン! という銃声。
犯人の拳銃から放たれた銃弾は真っ直ぐに紅夜の額へと向かってくる。避ける間など、存在しない。
「ぐぁはっ!!」
凄まじい衝撃が頭に響き、脳が揺さぶられる。激痛が走る。
額に着弾した衝撃を身体に受けた紅夜は大きく後ろに飛び上がる。
撃ち込まれた銃弾は額の皮膚を突き破り、頭蓋骨に食い込んだ。そして粉砕し、前頭葉に食い込む。
人は死の間際になると走馬灯が見えるらしいが、実際、そんなモノは見えなかった。
(ああ…………、俺は…………)
死ぬんだな、と思う。いざとなると、諦めの気持ちすら浮かんで来ない。
ただ、宙に身体が浮かび地面に落ちる間に、人質の女性の悲鳴が聞こえた気がした。友人の才牙が、紅夜の名前を叫ぶ声が聞こえた気がした。
(ごめん……、才牙。俺、お前ともお別れみたいだよ)
地面に身体が落下した衝撃を感じる間も無く、
(あ……だ、駄目だ……もう意識がと…………ぶ……)
その人生にピリオドを打った。
あ、終わりじゃないよ。まだ続くんだからねっ!
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