スターフィールドレンジャー
人類の活動が宇宙に広がって100年、人々は太陽系の惑星を渡るようになり人類にとって有益な鉱物や金属、さらにはまだ見ぬ物質を探し求めて宇宙船で飛び回っていた。
すると当然、事故や災害が起こる。そんな時、駆け付け救助をするのがスターフィールドレンジャーの仕事である。
地球の周りを回るスターフィールドレンジャーの人工衛星基地で俺たち4人は待機していた。
事務所で事務作業している筋骨隆々でゴリラのような男で隊長のヒュウガ。
眼鏡で長身で主に後方支援のモガミ。
何かと俺と張り合ってくる嫌味なアキヅキ。
最後は俺、ムラサメ。
俺とモガミさんとアキヅキは救助活動で使う装備に異常がないか確認作業をしていた。
基地内に警報が鳴り響く。緊急出動のサイレンだ。
俺たちは作業をやめ、宇宙服へ着替え、救助艇へ乗り込む。
操縦はアキヅキ、その隣にヒュウガ隊長、後ろに俺とモガミさん。
「隊長、まだ指令来てませんよね?」
「ああ、そのまま待機しろとの事だ」
「待機ですか……」
「太陽風か宇宙線ですかねぇ」とアキヅキが言う。
「特に注意報なんかも出ていませんね」とモガミさんが救助艇に備え付けられたコンソールをいじりながら言う。
少し待機していると指令センターから連絡が入り、立体映像に指令センター課長が映し出される。
俺たちは敬礼をすると共に課長が直接連絡を取ってくるほどの重大な事故である事をすぐ悟った。
「あまり時間がないので急いで説明する。さきほど、アステロイドベルトから地球へ向かう鉱物輸送船が航路を外れて航行、その後ハイパースペースに入った」
「?!」
俺たちチーム全員に戦慄が走った。
と言うのもハイパースペースに入れば普通では考えられない距離を一気に跳躍して惑星間の移動を縮めることが出来たが、そこは新ニュートン力学や異質相対性理論の通じない、見渡す限り全て白く輝き、レーダーがほとんど役に立たない、目や耳を塞がれたような空間なのである。もしハイパースペース内で行方不明になれば見つけることは実質不可能となる。
「君たちには今なおハイパースペース内にいる輸送船を追いかけて乗組員の救助に向かってほしい。これは大変危険な任務である。少しでも危険を感じたのならけっして無理をせず引き返せ。いいな」
「了解」
通信が終わると詳細なデータ送られてくる。これにより消えた輸送船の方向や速度、時間が分かり、救助艇の進路が決まる。
「よし、輸送船のおおよその位置はわかったアキヅキ、船を出せ」
「了解」
基地のハンガーから救助艇は発進する。すると基地内にいる職員たちが敬礼していたり、手を振っているのが見えた。普通このような事は無いのだがこれから行う救助活動の過酷さを知っているから応援に駆け付けたのだろう。外からは見えないが俺たちは答礼をした。
俺たちの乗る船の速度は上がりすぐに基地は見えなくなってしまう。
「フロントのシャッターを下ろせ」
「シャッター下します」
ヒュウガ隊長の指示にモガミさんが答える。
「ワープ開始」
「ワープ開始」
隊長の指示をアキヅキは復唱しワープする。ハイパースペースは真っ白なので目がおかしくなるのを防ぐためにシャッターを下ろして、航行している感覚を失わない様にするために疑似宇宙映像を映し出す。
「ふぅ……」
「どうした? ビビってんのか」
俺のため息にアキヅキが茶化す。
「うるせえよ。おまえだって知ってんだろ? ハイパースペース内の事故の事」
ハイパースペースで事故が起きて帰ってきた人は今までいないのだ。それどころか救助へ向かったレンジャーも行方不明になる場合も過去にはあった。この何も見えない空間のどこかで救助を待ち続ける人をことを考えると気が重くなる。
「今まで散々訓練してきたんだ、訓練でやった通りやればいいんだよ」
「そうだ、アキヅキの言う通りだ。今までやってきたことを信じてやればいいだけだ。過剰に怖がれば体が硬直して力を発揮できなくなるぞ。でもな、恐れる心があるから慎重になってリスク管理ができるんだ。まぁ、要するに心のバランスを取れって事だ。そうだ、あれをやるぞ!」
ヒュウガ隊長は大きく息を吸い込む。
「SFRの心得! モガミ!」
「天上に輝くポラリスは救急救命への道しるべ!」
「次、アキヅキ!」
「助けを求む声あらば火にも水にも我顧みぬ!」
「最後、ムラサメ!」
「すくう手に清濁無ければ零れる命一滴もなし!」
「そうだ、それを忘れるな。モガミ、輸送船まであとどの位だ」
「あと3分です」
「もうすぐだ、今のうち呼吸を整えておけ」
隊長の声にどこか浮足立っていた俺たちは気を引き締められ、その時を待つ。
「輸送船接触まであと10秒」
モガミさんが淡々とカウントダウンを始める。
「5……4……3……2……1……」
「……」
「……」
「……」
「輸送船はどうした!」
「レーダーに反応なし、見当たりません!」
出発時に貰った情報で救助艇が追いつく時間が分かっていたのだがどういうわけか輸送船が見つからなかった。
「モガミ、再計算だ! ムラサメ、レーダーから目を離すな! アキヅキ、輸送船が突然現れるかもしれん集中を切らすな!」
隊長は指示を出し、次どうするか考える。計算が合っていなくてまだ追いついていないのか、すで追い越してしまったのか、それとももう光の中へ消えてしまったのか、決断しなければならなかった。
俺も考えていたのだが計算は合っていたとするなら輸送船はいったいどこにあるのか。ハイパースペースは分からないことの多い空間だ。疑うべきはこの空間と思った俺は席を立った。
「おい、席から離れるな!」
隊長に注意されるが気にせず左の窓のシャッターを開け外を見る。真っ白く何も見えない。
「何やってんだ。目がおかしくなるぞ」
俺の行動にアキヅキが怪訝な顔をしてこちらを見た。俺は右の窓のシャッターを開け外を見た。すると左側とは違う違和感があり、何かを確かめる前に直感ですぐに叫んだ。
「アキヅキ! 取り舵だ! 急げ左だぁ!」
俺の慌てぶりを見て何も聞かずに救助艇を左へ動かした。その直後強い衝撃が救助艇を揺らし警報が鳴りだし、立っていた俺は壁に叩きつけられる。
「警報止めろ、モガミすぐに船体のチェックだ! 何があったムラサメ説明しろ!」
「くっ、目が痛ったぁ。たぶん輸送船です。すぐ隣に在ったんですよ」
「何を馬鹿な」
「隊長、ムラサメの言っていること合ってます。接触物体から信号が発信されていて輸送船の登録番号の確認が取れました」
「よく輸送船って気が付いたな、なんでわかったんだ?」
何も見えないはずの空間でどうやって輸送船の存在を察知したのかをアキヅキは聞いてくる。
「正直よくわからなかんだが、真っ白い空間の中で濃淡のようなものが見えた気がしたから何かが隣にあると思ったんだ」
「何だそりゃ」
「だがムラサメが気付かなければ、俺たちは輸送船と一緒に光の一部になっていたかも知れない。よくやった」
「ありがとうございます。こちらもそうですが向こうの輸送船もどうなったんです?」
俺たちの救助艇と接触したのだから向こうも何か影響があったはずだ。モガミさんに聞いてみる。
「特に様子のおかしな所なく航行しています。それより変なのはさっきまで全くレーダーで感知できなかったのに接触してからはその存在を確認できてます。意味が分かりません」
「そういうのは帰ってからにしろ、船体チェック終わったか?」
「はい、ちょうど終わりました。ぶつかったせいでクレーンが折れて使用不能ですがそれ以外に問題ありません」
「よし、救出活動再開だ。アキヅキ、輸送船の横へ慎重に近づけろ。モガミ、牽引ワイヤーの用意だ」
「牽引ワイヤー準備よし」
「牽引ワイヤー発射」
発射した後金属を擦ったような音が船内に響いたうまく引っかかったようだ。
「接触回線開け通信を繋げろ」
「輸送船との通信繋がりました、どうぞ」
「こちら、SFRのヒュウガです。鉱物輸送船第十五火地丸、応答してください」
「……こちら鉱物輸送船第十五火地丸のスズキだ。もしかして助けに来たのか?」
「そうです」
通話の後ろで「助かった」という喜びの声が聞こえる。隊長は話を続ける。
「これから我々SFRが輸送船へ乗り込み、あなた方乗組員を救助艇へ案内します。今どこに居ますか?」
「後部の船室だ」
「わかりました。ではすぐに移動できるように宇宙服を着て待っていてください」
「待ってくれ、仲間が一人操縦室にも居るんだ。だが扉が歪んで開けられないんだ」
「歪んで?」
「そうだ。ワープする前に石が操縦室に衝突して開けられなくなったんだ。そのせいで今みたいになったんだ」
「そういう事ですか。そちらも何とかします。では後ほど」
隊長が通話を終える。話を聞いていて今回の事故はワープ直前に石との衝突が原因とわかった。当然ながらワープの前と後の注意義務があるのだが今ここで追及することではないので何も言わない。
「アキヅキもう少し船体を近づけろ。連絡通路を繋げるぞ」
救助艇は輸送船の横へ移動して救助艇の側面に付いた鯉の口のような連絡通路を繋げた。
「よし、モガミはここに残り後方支援、アキヅキは前方の操縦席に居る人の救助、俺は船室へ乗組員を迎えに行く、ムラサメは……行けるか?」
「大丈夫です。行けます」
ハイパースペースを見ていたので目の心配をされたのだろう。
「ならよし、俺と一緒に船室へ行くぞ」
「了解」
俺たちは輸送船ときちんと繋がっているか空気が満たされているか確認してから扉を開け連絡通路を通り輸送船の出入り口の扉の前に移動した。隊長が通話する。
「モガミ、そっちからドアのロックを解除できるか?」
「少し待ってください……今開けました」
モガミさんが輸送船をハッキングして解錠する。緊急なので破壊行為も認められている。
「あと船内はどうなっている?」
「えー、少し空気が漏れているようですがまだ行けます。熱感知、ガス検知どちらも異常無いようです」
「ドアを開けるぞ!」
ドアを開けると空気が動き引っ張られるが俺たちは船内に入り、アキヅキは操縦室へ俺とヒュウガ隊長は船室へ向かう。
輸送船の上部は鉱物を乗せるデッキ、下部はエンジンルームと操縦室と狭い廊下と船室になっている。
船室のドアの前に着いて隊長はノックするとすぐにドアは開いたので中へ入る。すると中には5人の男性がいた。
「SFRのヒュウガです。今助けに来ました」
「おおっ、助かった」
男たちは喜んでいるが、その中の一人が話し出す。
「操縦室にもう一人いるんだ」
「大丈夫です。仲間がそちらにも行っています」
「ではあまり時間がないのですぐに救助艇へ移動しましょう。俺の後へついて来てください」
俺は先に出て案内をする。するとアキヅキから連絡が入る。
「隊長、ちょっといいですか?」
「ああ、何かあったのか?」
「歪んだドアの隙間からカメラを突っ込んで中を確認したんですが、衝突した石が操縦室を潰しちゃって男性は石とドアの間に挟まれています。そこでスプレッダーでドアをこじ開けよう思ったんでそっちが終わったらこっちにムラサメ寄こしてくれませんか」
「ああ、わかった。ムラサメ話聞いてたな。あとは俺が連れて行くからおまえは向こう行ってくれ」
「了解」
隊長が乗組員達を救助艇へ案内して、俺は連絡通路へ入らず操縦席のある方へ行くと、ドアの前でアキヅキはスプレッダーを持って担架を出して待っていた。
「ムラサメ、急いでやるぞ。おれがドアをこじ開けるからおまえは引っ張り出してくれ」
「ああ、わかった」
アキヅキはスプレッダーの先端をドアの隙間に突き刺して起動するとゆっくりと間が大きくなる。だがここでモガミさんから連絡が入った。
「アキヅキさんちょっと待ってください」
「どうしました?」
「輸送船の様子がおかしいです。ノイズが……あっ、エラーがあちこちから」
輸送船をモニタリングしていたモガミは情報が途切れていくという異常事態の発生を確認した。
「これは……ドアをこじ開けたことでギリギリで成り立っていたバランスが崩れて一気に船が歪みだしたんだ。急いで脱出して下さい、船がバラバラになります!」
モガミさんが切迫した事態を知らせてきたので、俺とアキヅキは一瞬顔を見合わせた後、すぐに救助活動に戻る。
アキヅキがスプレッダーでドアを広げたのを見計らって俺は男性を強引に引っ張りだす。男性は呼吸はしていて微かにうめき声を上げていた。船がいつバラバラになるかわからないのですぐに担架に乗せゴムバンドで動かないように固定しながら俺は声を掛ける。
「SFRが助けに来ました。もう少しの辛抱です。頑張ってください」
「よし、行くぞ。せーの」
アキヅキの声に合わせ担架を持ち上げ俺が先へ行く。
輸送船の通路を進み、救助艇へ続く連絡通路に入る。
もうすぐで救助艇の中へ入れるという所で後ろから崩れる音が聞こえると同時に担架が強い力で押された。
後ろを向くとアキヅキが微笑みながら崩れる輸送船とそれに巻き込まれる連絡通路と一緒に光の中へ消えた。
ハイパースペースは接触するまで輸送船の存在がわからなかったようにレーダーが役に立たない不思議空間でそんな所に人が落ちてしまえば見つけるのは不可能なわけで……。
「アキヅキッ!」
すぐに救助艇のドアは閉まる。俺は担架を壁に固定して隊長に知らせる。
「隊長、アキヅキがまだ船の外に居る。もしかしたら落ちたかも!」
「モガミ、一度通常空間に出て船体のチェックだ。輸送船の瓦礫に当たっているかもしれん」
「……了解です」
「隊長! アキヅキが!」
俺は隊長に必死に訴え掛ける。
「わかっている! だがどうにもならん! おまえもわかるだろ! 俺たちの仕事は救助者を病院まで連れていく事だ!」
隊長は怒鳴る。当然である。アキヅキがどうなったか気づいてないはずが無く、隊長だって捜しに行きたいはずで、それよりも自分の仕事を全うしなければならないというのに、俺は取り乱してしまって恥ずかしい姿を晒してしまった。
「すみません、取り乱しました」
「わかったのならいい、お前の気持ちもわかるがどんな時でも冷静でいられるよう心掛けろ。では通常空間に出る。操縦は俺がやるからムラサメは乗組員の様子見ていてくれ」
「了解」
ハイパースペース内の事故から乗組員全員を救出できたというのに、戦友と呼べる奴が行方不明になってしまうなんて悲しみをそう簡単に割り切れるものではなかった。
救助艇はハイパースペースから出る。真っ白い空間から真っ黒い空間へ周囲の色が変化する。俺は操縦席で挟まれていた傷病者の容態に変化がないか様子を見る。
「モガミ、周囲に危険な物は見えないか?」
「見えません。見えるのは木星くらいです。では船体チェック入ります」
「……ぃ、こ……だ」
「通信が来てます」
「どこからだ?」
「えっ、この船です」
「何だと!」
声が聞こえた。知っている仲間の声が。
「おーい、気付けぇ! 俺を置いてくなぁ!」
「アキヅキ!」
俺は輸送船の乗組員たちの間を抜け急いで救助艇の後部出入り口のある小部屋へ行きドアを開ける。そして壁に張り付いている男を引っ張り入れる。
「アキヅキ! おまえっ!」
「ああ、死ぬかと思ったぁ」
俺とアキヅキは隊長たちに報告するために操縦室へ移動する。そしてアキヅキは敬礼をする。
「ヒュウガ隊長、モガミさんただいま戻りました。大変ご心配をお掛けました」
「アキヅキさん、よくご無事でよかったです」
「ハイパースペースに落ちていったいどうやって助かったんだ?」
「それがですね、輸送船が崩れて落っこちてもう駄目だと思ったら、なんと……折れたクレーンに引っかかたんです」
俺たち3人は驚いて言葉を失った。そんな奇跡のようなことが起こるなんて思いもしなかった。
「クレーンを伝って船の壁まで行ったんですが、あのまま気付かれなかったらどうしようかと思いましたよ。SFRの基地まで壁に張り付いたままか、ハイパースペースで本当に落ちるんじゃないかと……どうした? ムラサメ、俺の奇跡の生還に感動して泣いているのか?」
「ちげえよ、おまえのあまりの能天気さに呆れてたんだよ」
「おまえらまだ仕事中だ。ムラサメ、おまえが操縦だ」
「了解。操縦変わります」
「モガミ、船体チェック終わったか?」
「はい、どこも問題ありません。すぐ出発出来ます」
「アキヅキ、乗組員と傷病者の容態とお前自身の怪我の確認だ」
「了解」
「よし、地球へ向けて発進!」
こうしてスターフィールドレンジャーの救出活動により乗組員全員が無事に地球へ帰還することが出来た。
だが明日になればまた宇宙のどこかで助けを求める声が聞こえるだろう。そうなれば俺たちは何時でも何処へでも救助へ駆けつける。これが俺たちSFRの仕事だから。




