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宝物庫で見つけた絵画は、肖像画だった。
「ねぇ、ライザ。これって、誰の肖像画だと思う?」
「アガルト様に見えますが……」
そう、この肖像画、お兄様にとても似ている。
でも、よくタイトルを確認すると“ルシウス・フォン・シュツット”と書かれているのだ。
これはもしかして、糸口が見つかったかも。
「キース、王族の家系図みたいなものってあるかしら。それと、おおよそでいいから、どういう人物だったかとか、人生はどうだったかとか何か伝記みたいなものとかは残っていないの?」
「家系図や伝記ですか。それなら、図書館のほうにあるかと」
「ありがとう。ライザ、次は図書館へ行くわよ」
肖像画に、掛かっていた布をまた絵に被せる。図書館なら、特に許可はいらないから今から行っても大丈夫よね。
「あ、そうだわ。この肖像画って、持ち出し禁止かしら?」
「持ち出しですか? いえ、魔法具ではなくただの肖像画ですから持ち出しは可能です。丁寧に扱っていただければ」
「わかったわ。ねぇ、この肖像画、私の部屋に持っていってくれないかしら」
「畏まりました」
よろしく頼むわね、と言って宝物庫をあとにした。
さぁ、ここからがきっと大変よ。たくさん、調べ物しなくっちゃ。
王宮図書館には、ありとあらゆる書物がある。きっと、私が求めているものもあると信じている。
図書館へ着くと、さてどこからお目当てのものを見つければいいのか……
私がどこから探せばいいか迷っていると、ライザが少々お待ちください、と言って目の前から消えてしまった。
え、私だけで探すの? と、思ったけどすぐに誰かを連れて戻ってきた。
「ミリアリア様、こちら司書のリビア様です。お探しのものを見つけるには、必要な方だと思います」
「まぁ! さすが、ライザね。リビア、よろしくね」
「は、はい。初めまして。改めまして、司書のリビアと申します。どのような本をお探しで?」
「王族の家系図や伝記のようなものが欲しいわ」
「畏まりました。王族の方たちに関する書物は、まとめて保存しております。こちらです」
案内された先にあった王族に関する書物は、想像していたよりも沢山あった。
嘘でしょ……これを明日までに確認して、お目当ての記述を探さないとだなんて……
ううん、やるのよ。やればできるわ。ミリアリア!
「ライザ、あなたも手伝ってくれるかしら」
「もちろんです。ルシウス様という方を探せばよいのですか?」
「ええ、お願い」
「あ、あの。私もお手伝いいたしましょうか?」
「まぁ! リビアも手伝ってくれるの? ありがたいわ。ルシウス様という方が、王族にいたはずなの。どの時代か分からないけれど、探すのを手伝ってちょうだい」
「はい」
まずは、家系図からかしら。どの時代の方か分かれば、資料も見つけやすいはず。
そう思って、家系図を見てみると……
あったわ、“ルシウス・フォン・シュツット”。
お父様の、お祖父様のそのお父様の弟君でいらっしゃった。
つまり、3代前の王の王弟ということね。
「ルシウス様は、3代前の王弟でいらっしゃったわ。この方について、詳しいことが書かれているものを探すわよ」
「「はい」」
その時代に書かれたものと思われる書物を、ペラペラとめくってみるけど、結構癖のある文字で読みづらかったり、かすれていたりして目がシパシパしてくる。ライザも一緒のようで、あまり調べ物が進んでいない。
リビアはどうかと視線を移すと、さすがと言うべきかページをめくる手が早い。
負けていられないわ、ともう一度気合を入れる。
もう日が暮れようかという頃、「見つけました!」とリビアが声を上げた。リビアが見つけてくれた箇所をざっと読む。
「そう、これよ。この記述が欲しかったの。ありがとう、リビア」
「お役に立てて何よりです」
さあ、これとあの肖像画があればなんとかなるはずよ。
リビアが見つけてくれた記述と肖像画があればなんとかなるとは思うけど、ルシウス様というか王家の人達について色々と調べてみると面白いことが分かった。
夢中になっているといつの間にかライザがサンドイッチを持ってきてくれた。リビアのことは、もう調べ物は大丈夫だとライザが帰してくれたようだ。
「ミリアリア様、もう夕食の時間も過ぎてしまいましたよ」
え、嘘。もう、そんな時間?
夕食は、またお兄様と取ろうと思っていたのに!
ずっと夢中になっていたから気づいていなかったけど、空腹感に襲われると同時に、ぐぅーーーっとお腹がなった。
「こほん。気づかなかったわ。ごめんなさい。ライザもお腹がすいたでしょ、一緒に食べましょ」
「私のことなら、お気になさらず」
「いいえ、ずっと私についてきてくれたでしょ。感謝しているわ」
「おそれいります。ですが、食事は後ほど厨房に行くので大丈夫ですよ」
「そう? それなら、いただくわ」
まぁ、実際王女のために用意した食事をもらうわけにはいかないわよね。
ありがたくいただくことにする。
モソモソとサンドイッチを食べていると、明日の食事はどうなさいますか? と聞かれた。
「明日は、お兄様とご一緒したいわ。というか、これからはずっとそのつもりよ。もちろん、お兄様が許してくれればだけど」
「それは、ミリアリア様がアガルト様のお部屋でということですか?」
「いいえ、これからはお兄様に食堂に来ていただきたいの」
「そうですか。では、アガルト様付きのものに言付けをしておきます」
「もぐもぐ……よろしくね」
会話が終わると、シンと静まり返ってしまった。
なんだか、気まずいわ。
「ねぇ、ライザ」
「はい、なんでしょう」
「こんな時間まで付き合ってくれてありがとうね」
ライザは、まさかそんな事を言われるとは思わなかったのか、パチクリと瞬きをした。
「私は、ミリアリア様の侍女ですから」
「そう。あのね、その、今更だけど、今までで我儘やキツいことばかり言ってごめんなさい」
なんと答えていいか分からないのだろう、ライザはまごついている。
「私ね、お兄様達に助けてもらって、色々と考えたの。このままじゃダメだって。だから、これからもよろしくね。」
色々と考えたというかなんというか、前世を思い出して、今までの私じゃダメだと思ったのは本当。だから、一番近くにいるライザには改めてちゃんと伝えようと思った。
「もったいないお言葉です。私も、今まで以上に誠心誠意つとめさせていただきます」
うんうん、良かった。ちょっと、ここでいたずら心が。
「ねぇ、ライザ。不敬には問わないから、今までの私のことどう思ってた?」
「はぁ……ミリアリア様のことですか……? ええと、お可愛らしい方だと」
「うんうん、その他には? ほら、私ってめちゃくちゃ我儘だったし、色んな侍女をクビにしたりしちゃってたでしょ」
「まぁ、そうですね……そのようなこともありますが、でも一番印象に残っているのは、一番初めに会った時の笑顔ですかね」
「一番最初に会った時?」
「はい。初めて会った時に、私の手を見て荒れていることを指摘されたのですが」
え、そんなことが一番印象に残ってるの? 嫌だ、なんか悪役令嬢みたい。
「『今までの侍女と違って、よく働きそうね。よろしく頼むわよ』って、笑ってくださいました。私の家は、伯爵家ですがあまり裕福ではなく、日頃から家で家事などもしていたせいで手が荒れておりまして、それがとても恥ずかしくて嫌だったのです。一度、婚約までいった男性とも令嬢らしくない手でみっともないと婚約破棄されましたし……ですから、ミリアリア様に褒めていただけて嬉しかったのです」
いやいやいや、それ絶対以前の私は褒めてないわね! でも、確かに今までの侍女たちはあまり仕事してくれていなかったかも……私が色々やってと言ってもやってくれなくて、だからこそ、すぐにクビにしていたのよね。その点、ライザはよく気づいて動いてくれた。
「待って、ライザは婚約破棄されていたの?」
「えぇ……お恥ずかしながら……」
「ライザを振るなんて、なんて男よ! こんなに器量よしで優しくて仕事が出来るのに!!」
そう、ライザは実はこの世界ではなかなかの美人の部類だ。まあ、私には負けるけど。
「まぁ! ミリアリア様にそのように言っていただけるなんて光栄です」
ふふふ、と笑うライザは少し寂しそう。
「まさか、その男の事、今でも好きなの?」
「どうでしょう……」
「そんな見る目のない男なんて、とっとと忘れてしまいなさい。私が、あなたに素敵な男性を紹介するわ」
「ふふっ。なんだか、ミリアリア様は大人びたことを言うようになりましたね。まだ、7歳ですのに」
おっと。美亜として生きていたことを思い出してから、しばしば年齢不相応のことを言ってしまっているかも。気をつけなきゃ。
「ライザ、あなたはとっても素敵な人だわ。自信を持ちなさい」
「ありがとうございます。ですが、婚約破棄されたお陰でミリアリア様の侍女になれましたから悪いことばかりではないですよ。私のお給金で弟も学校へ行けますし」
ううーん。ライザが幸せになれますように!
というか、いつも影のように存在感を消している私の護衛騎士、今ちょっと反応してたわね。
えぇーと、名前何だったかしら? そうそう、リック・ブレッド。
もしかして、ライザに気があるのかしら。今度、探りをいれてみよう。
「ミリアリア様、そろそろお休みになられたほうがいいですよ」
「ええ、そうね。部屋に戻りましょう。明日は、大事な日になるわ」




