婚約破棄された公爵令嬢、中身は伝説の敏腕検事でした 〜「七月に雪は降りませんわ」秒速で矛盾を突く尋問パーティーへようこそ〜
皆様、ようこそ。
本作のコンセプトは「元検事の令嬢が、法とロジックで悪を裁く」という、至って真面目で高潔なものでした……。はずでした。
ところが、いざ筆を執ってみると「元検事ならこれくらい言うよね?」「令嬢ならこれくらい投げ飛ばすよね?」と筆が走り、気がつけば、当初の予定を大幅に逸脱した「おフザケ全開・筋肉と論理の暴走特急」が出来上がっておりました。
今、私は猛烈に反省しております。
ですので、もしあなたが今、最高に機嫌が良くて、美味しいスイーツでも食べていて、世界中のすべてを許せるような「聖母(あるいは神)」のような慈愛に満ちた心境でしたら、ぜひそのまま読み進めてください。
作者の悪あがきを「まあ、バカねぇ」と笑って許してくださる、寛大な皆様の優しさに全力で甘えさせていただきます。
それでは、公爵令嬢アストレアによる、物理と論理の婚約破棄ショーの開幕です!
国花のペレンシアが咲き誇るころ、ここガルシー王国の貴族学園では卒業セレモニーが行われた。粛々とセレモニーは進み、さてもうそろそろお終いというとき、王太子フレデリックがドヤ顔でぶち上げた。
「アストレア・ユースティティア公爵令嬢!本日をもって貴様との婚約を破棄する!ちなみに新しいフィアンセはこのヴァレリア・ヴォルテイル男爵令嬢だ!」
彼の左側には「胃に穴が開きそう……」と真っ青な顔の側近(もやしっ子)たち。
対照的に右側には、「計画通りw」とニチャつきが止まらないヴォルテイル三兄妹――ヴィクター、ヴァレリウス、そして新ヒロイン(?)のヴァレリアが並んでいる。
アストレアは優雅にカーテシーを決め、
「了解いたしましたー。それでは、お先に失礼しまーす」
と、秒速で出口へ向かう。が。
「待てーい!!」
フレデリックの必死の呼び止めが響く。
(……あーあ、殿下、それ完全に『詰み』ですわよ?このまま帰してくれれば無罪放免にしてあげたのに。ププッ)
アストレアは漏れそうになる爆笑を必死に飲み込み、扇で口元を隠して振り返った。
「まだ何か?(はよ帰らせろ)」
「貴様をフる理由を今から教えてやる。ありがたく拝聴して、来世では反省するんだな!」
「わざわざご丁寧に、ありがとうございまーす」
会場にいたアストレア推しの令嬢たちは、一斉にヒソヒソモード(音量大)。
「ちょ、何あのクソ王子。女たらし全開じゃん」
「自分の浮気を棚上げしてアストレア様に擦り付けるとか、マジ受けるんだけど」
「はい、この国終了のお知らせ~」
「っていうかあの『魔の三兄妹』、いい加減にしてほしいわよね」
そう、諸悪の根源はヴォルテイル家の「魔の三兄妹」。
長男ヴィクターは、卒業生なのに毎日学園に不法侵入(?)しては、次男ヴァレリウスと一緒にピュアっピュアだったフレデリックに「大人のいけない遊び」を全伝授!
温室育ちの側近たちが「や、やめてくださいよぅ…」とオロオロしている間に、末娘のヴァレリアを王太子にグイグイねじ込むという、家族ぐるみのド根性プロジェクトが完遂してしまったのである。
「アストレア!貴様、雪が降りしきる極寒の中、可憐なヴァレリアを噴水にパイルドライバーしたそうだな!おかげで彼女はズビズビの風邪っ引きだぞ!」
「異議あり!!!」
アストレアの怒声が会場のシャンデリアを物理的に揺らした。その場にいた全員が、あまりの威圧感に「ひぇっ」と膝を突き、全神経を彼女の唇一点に集中させる。
無理もない。彼女の中身は、定年まで地獄の沙汰も書類で通した「伝説の敏腕検事」。出所後の逆恨み犯を返り討ちにするために極めたガチの護身術を、この異世界で幼少期から「朝飯前」の感覚で自主練していたのだ。
かつて、公爵家の庭で「謎のスタイリッシュな動き」をしていた幼き日の彼女に、新米騎士スコットがニヤニヤしながら声をかけたことがある。
「お嬢、何すかその面白いダンスww」
「おはようスコット。これは『ゴシンジュツ』。マスターすれば、あなたのような図体ばかり大きなデコスケも指一本でポイよ(ニッコリ)」
「ワッハッハ!ご冗談を!」と笑い飛ばしたスコットだったが、ふと思った。「毎月の訓練でボコられすぎて万年最下位の俺……この謎ダンスに賭けてみるか?」
それからというもの、幼女と少年騎士が公園の砂場で遊ぶ兄妹のように「アイアンクロー」や「背負い投げ」に興じる姿が目撃されるようになる。微笑ましい光景……のはずが、次回の大会で事件は起きた。
万年最下位のスコットが、無双状態に突入!優勝候補の団長すら「あわや場外!?」というレベルまで追い詰めたのだ。
驚愕した団長が理由を問いただすと、全貌が明らかに。結果、公爵家騎士団は全員でその動きを導入。名付けて『ユースティティア式・絶対制圧体術』。もはや軍隊レベルの殺人術への進化である。
その後、アストレアが街の悪童たちに誘拐されかけた際も、彼女はドレス姿で犯人たちをシュッシュッとスマートに「お片付け」。その噂は一瞬で広まり、危機感を持った令嬢たちが「アストレア様に弟子入りしたい!」と公爵家に殺到した。
今、彼女をガードするように囲んでいる令嬢たち――。
彼女たちはただの友人ではない。公爵家直轄の道場を生き残り、並み居る騎士を投げ飛ばしてきた「ユースティティア体術・黒帯軍団」なのである。
「殿下〜? 私がそんなプロレスラーみたいな蛮行を働いたとおっしゃるなら、もちろん『証拠』はバッチリ揃えておいでですよね?」
アストレアが小首を傾げて問いかけると、フレデリック王太子は鼻息を荒くした。
「ふ、ふん! 当たり前だ! 証人、カモン!」
側近が連れてきたのは、今にも消えてしまいそうなほどガクブル状態の男子生徒。
「おいスミス! 見たよな? この悪辣なアストレアが、可憐なヴァレリアを噴水にシュートするところを!」
「は、はいぃ……間違いございません……」
「見たかアストレア! これでお前の罪は確定——」
「そこの君、学年とお名前は?」
アストレアの鋭いツッコミが、王太子のセリフをマッハでぶった斬った。
「ひえっ! 二年のト、トーマス・スミスですっ!」
「スミス君、いい? 今から君が吐く言葉はすべて公式ログに刻まれます。嘘をついたら正義の女神にデコピンされる覚悟で、真実を誓えるかしら?」
「あ、え、あわわ……」
「誓うんだよぉ!!(圧)」
フレデリックのパワハラじみた恫喝に、トーマスは白目を剥きながら「ち、誓いまふぅ……」と蚊の鳴くような声で応じた。
「おっけー、では尋問を始めましょうか。君がヴァレリア様を噴水にダイブさせた私を目撃したのは、一体いつのこと?」
「えーっと……今年です」
「ディテールをお願い。何月何日?」
「な、七月……七月頃でした!」
アストレアは会場全体を見渡し、ニヤリと勝利の笑みを浮かべた。
「皆様、お聞きになりまして? 七月ですって。スミス君、な・な・が・つ、でファイナルアンサー?」
「はい! 七月です!」
「……さて。冒頭で殿下は『雪の降る中』とおっしゃいました。私の記憶が確かなら、今年の七月に雪が降った異常気象なんて一日もございません。スミス君、このミステリーをどう解き明かしてくれるのかしら?」
会場中の視線がレーザーポインターのようにトーマスに突き刺さる! トーマスはもはや、生まれたての小鹿以上にガクガクブルブル。
「あ、あれ!? き、きっと君の思い違いだろ! 冬だよな? なあ、そうだよな!?」
「殿下、誘導尋問(ダサい真似)はお止めくださいませ。」
「ぐふっ……」
王太子が言葉に詰まったその瞬間、ついにトーマスの精神ゲージがゼロになった。
「ぼくは、ぼくは……本当は何も見てませぇぇん! 全部ヴォルテイル三兄妹に『証言しなきゃコンクリート詰めにするぞ』って暴力で脅されたんだぁぁ! あいつらマジでガラ悪いんだよぉぉ!!」
会場の令嬢たちは、扇で口元を隠しながらポップに毒を吐く。
「あら、言っちゃった(笑)」
「知ってた」
「周知の事実すぎて驚きがないわね」
「見てよあの三兄妹。真顔キープしてるわよ、強心臓すぎ」
「えー、ゴホン! この件(捏造)については、一旦アーカイブに保存だ!」
フレデリックが謎の「保留」ボタンを押して咳払い。強引に次のフェーズへ移行した。
「アストレア! 貴様、こともあろうにヴァレリアの教科書を落書きまみれの破れかぶれにしたそうだな! 反省しろ!」
「異議あり(本日二度目)!!!」
アストレアの怒声(物理攻撃)が会場の高級グラスをパキーンと粉砕。ゲストの半分が「ひぇっ」と腰を抜かし、残りの半分はあまりの迫力に拝み始めた。
「……で? その『事件(仮) 』はどこで起きたのかしら?」
「私の教室よ、お・ブ・スさん」
末っ子のヴァレリアが、毒々しい舌をチロつかせて割り込んできた。
「あら、初めまして。そもそも存じ上げない方の教室の場所なんて、辿り着けませんわ」
「ふふん、しらばっくれても無駄よ!」
「証拠の提出を」
「そんなもん、無いわよ! 証拠は私の涙よ!」
「それは困りましたね。では、いくつか質問(尋問)を。その破られた教科書、まだお持ちで?」
「まさか! そんなゴミ、即座に燃えるゴミの日に出したわよ!」
「なるほど。では、NEW教科書をポチった(購入した)わけですね? どちらで?」
「学校の購買部よ!」
「残念。購買部に教科書は売ってございません。」
「えっ? あ、あー、そうそう! 街のメガストア、『NH書店』だったわ!」
「さらに残念。あそこは雑誌専門店。教科書は取り扱っておりません。」
「う、うるさいわね! どこで買ったか忘れただけよ! 悪いの!?」
「皆様、なぜ私がこんなに書店事情に詳しいかお分かり?……それは、私自身の教科書が、ゴミ捨て場に落書き&ズタズタ状態で捨てられていたからよ!」
アストレアが合図すると、黒服の使用人が「本日の重要証拠」として無惨な教科書を掲げた。
「見てください、この語彙力の欠如した『バカ』『ブス』という落書き。センスの欠片もございませんわ」
「なによ! ホントのことじゃないの!!」
ヴァレリアが脊髄反射で叫び、会場が静まり返った。彼女はハッとして、天井を見上げながら「ヒュ〜♪」と下手すぎる口笛を吹き始めた。隠しきれない有罪オーラ。
「ちなみに、この特徴的な『ヘタクソな字』。受付であなたが書いたサインと筆跡がクリスピーなくらい一致しておりますの」
「だ、誰かが私のフォントを真似したのよ! 間違いないわ!」
「結構ですわ。では、これより王国一厳しい『筆跡鑑定ギルド』へ特急便で送ります」
「待ちなさいよぉぉ!!」
ヴァレリアが教科書を奪おうと猛ダッシュ! しかし、公爵家の「ユースティティア体術・有段者」である使用人が、残像が見えるほどのスピードで教科書を回収し、会場から脱出した。
「はいはい次!ネクスト・案件!」
裏返った声で強引に話を回す王太子フレデリック。もはや司会者としての威厳はゼロである。
「アストレア!貴様、ヴァレリアのデスクにインクをぶちまけて真っ黒な『現代アート』に仕上げたそうだな!」
「あら、それも私なんですの?」
アストレアが呆れ顔で問い返すと、復活したヴァレリアがドヤ顔で被せた。
「そうよ!移動教室で誰もいない隙を狙って、私の机をイカ墨パスタ状態にしたのよ!」
「誰もいないのに、なぜ私だと?」
「私の中のゴーストがそう囁いてるのよ!!」
証拠ゼロのスピリチュアルな主張に、アストレアは深いため息をついた。
「……で、それ何時のこと?」
「学園祭の前日よ!忘れるわけないわ!」
「奇遇ですわね。実は私のデスクも、その日インクでデコられていたんですの」
アストレアが会場に視線を投げると、一人の生徒が「あッ!」と声を上げた。
「そういえばあの日、ヴァレリア様の制服にインクが飛び散ってましたよね? 自分の机が汚されただけなら、そんな返り血……じゃなくて返りインクを浴びるはずがないって、不思議に思ってたんです!」
アストレアが不敵に微笑む。
「そのデスクは今、学園に厳重保管してありますわ。なぜなら、犯人の『シモン』がバッチリ残っていたからですもの」
「しもん……? なによそれ、新種のモンスター?」
ヴァレリアが眉を寄せると、アストレアは教育番組のお姉さんのような優しいトーンで解説を始めた。
「指紋とは、指先の皮膚にある凸凹模様のこと。一生変わらず、世界に二人と同じ人はいない最強の個人ID。……つまり、その机のインク跡とあなたの指を照合すれば、『はい、あなたが犯人です(チェックメイト)』と導き出せるのです」
「な、何よそのオカルト!? 殿下ぁ〜! 何とか言ってぇぇ!!」
助けを求められたフレデリックだったが、スッと目を逸らした。(あ、これ詰んだわ)という顔である。
「お、お兄様たちぃぃ! あの生意気な女をボコボコにしてぇぇ!!」
その断末魔のような叫びに反応し、長男ヴィクターと次男ヴァレリウス、そして取り巻きのガテン系男子たち総勢30名が、下卑た笑みを浮かべて迫り来る!
「……制圧。」
アストレアが静かに、かつ冷徹に告げた。
瞬間、アストレアを囲むように「黒帯令嬢軍団」の5名が円陣を組む。
襲いかかる野獣のような男たち! 守られる可憐(?)な令嬢たち! 会場の人々は「ああっ、凄惨な事態に!」と目を背けた。
「ぐはぁっ!?」
「あべしっ!!」
しかし、聞こえてくる悲鳴は野太い男たちのものばかり。令嬢たちは、ドレスの裾を翻しながら、恐ろしい手際で大男たちを次々と「床とお友達」にさせていく。
「うぉぉりゃああ!!」
周囲の令嬢たちが「ガチ勢」だと気づいた男たちが、ターゲットをアストレア一人に絞って拳を振り上げ突っ込んできた。
アストレアは最小限の動きで拳をヒラリとかわす。
左手の逆さ扇で男の眉間に「チョン(挨拶)」と触れたかと思うと、一気に重心を沈め、右手の裏拳をみぞおちへクリーンヒット!
バタバタと、ドミノ倒しのように重なっていく男たち。
ものの数分で、会場にはピクリとも動かない「元・悪役」たちの山が築き上げられた。
一方、ヴァレリアは「やべぇ」と察して裏口からコッソリ逃亡を図っていた。
だが、そこには仁王立ちで待ち構えるスコットの姿が。
「お嬢様、出口はこちらではありませんよ(暗黒微笑)」
ヴァレリアは悲鳴を上げる間もなく、そのままズルズルと連行されていった。
さて、この「トンデモ婚約破棄事件」の結果、ヴォルテイル家はマッハで取り潰し。三兄妹は「20年間のくさい飯(禁固刑)」というフルコースを堪能することになった。
一方、王太子フレデリックは「えっ、僕ちゃん被害者なんですけどぉ?」という顔をしていたが、王家のメンツはすでに木っ端微塵。国中から「あのバカ王子……」という冷ややかな視線を浴びるハメに。
それから20年後。
フレデリックがようやく王位を継いだ頃、我らがアストレアはすでに公爵家をバリバリ経営する「鉄の女公爵(閣下)」として君臨していた。
「お嬢、じゃない、閣下! ちょっとヤベぇことになってますぜ!」
執務室に飛び込んできたのは、ヒゲすら立派になった騎士団長スコット。部下の前では鬼の形相だが、アストレアの前では昔の「デコスケ少年」に戻ってしまう。
「どうしたの? またフレデリック王が変なダンスでも踊った?」
「笑えないっすよ! どこの貴族も王家に納税を拒否して財政が火の車。キレた王が『どっかの領地に攻め込んで略奪だ!』って軍を動かし始めやがった!」
「ターゲットは、うちかしらね」
「大本命っすね。20年前の逆恨み、まだネチネチ引きずってるみたいだし」
アストレアは不敵に微笑んだ。
「準備運動の時間ね。領民に指一本触れさせないこと。いいわね?」
「何言ってんすか! 国最強の『ユースティティア公爵騎士団』ですよ? 剣を抜くまでもなく楽勝っす!」
「心強いわね」
「それもこれもお嬢の『変なダンス(体術)』をコピーしたあの日の俺を、全力で褒めてやりたいっすよ!」
二人は顔を見合わせて爆笑。「じゃ、ちょっくらボコってきますわ!」と、スコットは鼻歌まじりに軍を率いて出陣していった。
結論から言えば、公爵家騎士団の「完全勝利」である。
王家軍は数ヶ月も給料が未払い(!)で、「なんで俺ら戦ってんの?」とやる気ゼロ。一人抜け二人抜け……。ようやく騎士団と対峙した頃には、わずか数十人の「お疲れモード集団」に。
一糸乱れぬ公爵騎士団の威圧感を見た瞬間、彼らは秒速で解散、クモの子を散らすように逃げ出した。もはや戦いですらなかった。
この「王軍、自滅」のニュースが届くと、王都の領民たちがついにブチギレた!
「もう我慢の限界だ! 納税ストライキだ!」
手に手にフライパンや鍬を持ち、王宮へ突撃! 王族を守る近衛兵も「やってられっか!」と定時退社(職場放棄)。フレデリック王もいつの間にかどこかへ雲隠れしてしまった。
それから数ヶ月後。
王都の隅っこ、薄汚れた場末の酒場の片隅に、身なりの汚い男が一人。
「……おい、酒だ。ツケにしとけ」
かつての王太子フレデリックである。その向かいの席には、20年の刑期を終えたものの、すっかり酒焼けしてボロ雑巾のような姿になった女が一人、管を巻いていた。
「なによ、あんた。こっち見ないでよ……不潔ね」
「ふん、お前こそ。ドブネズミのような格好をしおって」
二人は至近距離で互いの顔を見た。しかし、かつての「キラキラした王子」と「計算高い美少女」の面影は微塵もなく、お互いにそれがかつての共犯者であることに、1ミリも気づかなかった。
「ケッ、しけたツラしやがって。俺の隣に来るんじゃねぇ」
「こっちのセリフよ。二度と私の視界に入らないで!」
そう言い捨てて背を向けた二人の運命が、再び交わることは二度となかった。
誰もいなくなった王宮。貴族も庶民も「次の王様はアストレア様しかいない!」と熱烈コールを送る。
しかし、玉座の間に降り立ったアストレアが放った言葉は、予想外のパンチラインだった。
「王様なんて、もう時代遅れですわ! 今日からこの国は『民主制』にアップデートします!」
国は生まれ変わり、初代首相にはもちろんアストレアが当選。
王宮のバルコニーに立つアストレア。広場を埋め尽くす民衆は、かつての公爵令嬢が何を語るのかと固唾を呑んで見守っている。彼女はゆっくりと扇を閉じ、マイク(魔導具)に向かって口を開いた。
「親愛なる市民の皆様。まずはおめでとう。今日、この国から『働かない特権階級』と『おバカな王族』が完全消滅いたしました!」
(会場からドッと笑いと歓声が上がる)
「私は先ほど、玉座を粗大ゴミに出すよう指示しました。これからは、誰かが椅子に座って威張る時代ではありません。皆さんが自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の拳で未来を掴み取る時代です。
私が掲げるスローガンは三つ。『強く、美しく、正しい国』。
一つ、『正しく』。
感情や家柄で罪が決まる時代は終わりました。これからは『証拠』がすべてです。嘘をつく者は、私の論理ですり潰されると覚悟なさい。
二つ、『美しく』。
これは着飾ることではありません。自立し、誰にも媚びず、自分の人生に責任を持つ生き様のことです。
そして三つ、『強く』!
……皆さん、隣の人を見てごらんなさい。もしその人があなたを不当に貶めようとしたら? 答えは一つ。投げ飛ばせばいいのです!」
アストレアが軽く拳を突き上げると、黒帯令嬢たちとスコット率いる騎士団が完璧な演武を披露し、地響きのような拍手が巻き起こる。
「私は皆さんの『母』にはなりますが、『乳母』にはなりません。甘えは許しません。ですが、正しく努力する者には、国家が全力で最高の舞台を用意すると約束しましょう。
さあ、古いカーテンを引きちぎり、新しい光を入れなさい。
本日、この瞬間をもって『ペレンシア共和国』の開国を宣言します。……異議のある方は、ステージの上で私がお相手いたしますわ!」
演説が終わるやいなや、国歌代わりの軍楽が鳴り響き、民衆のボルテージは最高潮に。
のちに彼女は「建国の母」と崇められることになった。
今でも彼女の横顔が刻まれたコインは人々の幸運のシンボル。コインを額に当てて「アストレア様、今日も私を強くして!」と願うのが、この国の乙女たちのスタンダードなのである。今や国名にもなった国花のペレンシアは、今もその地を美しく彩り、人々を見守り続けている。
本作を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
この物語は、「もしも百戦錬磨の敏腕検事が、テンプレな断罪イベントに巻き込まれたら?」という空想から始まりました。
本来なら悲劇のヒロインになるはずの公爵令嬢ですが、中身が「定年まで勤め上げた法執行官」となれば話は別。ヒステリックな糾弾をロジカルに叩き潰し、さらに「物理(体術)」まで極めているという、ぐうの音も出ないほど強いヒロインを描くのは、作者としても非常に爽快な経験でした。
特にこだわったのは、ラストのフレデリックとヴァレリアの再会シーンです。かつてあんなに執着し、甘い言葉(と毒)を吐き合っていた二人が、落ちぶれた果てに「隣に座っていることすら気づかない」という結末。これこそが、愛も信頼もなかった二人にふさわしい、最高に皮肉でポップな「バッドエンド」ではないかと思っています。
一方で、アストレアとスコットの信頼関係は、時が経っても変わりません。王制を廃止し、自ら首相となって国を導くアストレアの姿は、まさに現代社会を強く生きるすべての人の理想を詰め込みました。
笑いあり、論破あり、そしてちょっぴり(?)バイオレンスありの勧善懲悪ストーリー、お楽しみいただけたなら幸いです。
なお、「オフザケが過ぎるぞ!」という苦情は随時承っております。どうぞレビューに思いっきりぶちまけてくださいませ。 全力で受け止める所存です!
アストレアの肖像が刻まれたコインに願えば、明日のあなたも少しだけ「論理的」で「物理的に強く」なれるかもしれません。
また別の物語でお会いしましょう!




