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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

あなたに想いを

作者: 高内優都
掲載日:2026/03/01

久しぶりに部屋の片付けをした。元々まめな方ではなく散らかった部屋でも気にならない性格だ。今日だって休日の夫に一緒にやろうと誘われなかったら考えもしなかっただろう。

「この積んである本は本棚に戻して、この書類はファイリング、と。どうしてこんな散らかっちゃうんだよ。何かを使う度にそれを元の場所に戻せば散らからないだろ」

「理屈ではそうなんだけど、それが面倒なのよ」

 文句を言いながらも夫はなんやかんやで片付けを手伝ってくれる。優しい人だ。

 夫と結婚したのは半年前。新婚ほやほやだ。式は小さなチャペルで挙げ、親族と仲のいい友人だけ呼んだ。暖かい空気に包まれたいい式だったと我ながら思う。

「会社の書類と結婚式の名簿を一緒に混ぜて置いておくなよ」

「それは混ぜているように見えてちゃんと分けてるのよ!」

「あーあ、これさえなけりゃ完璧な奥さんなのになぁ」

「完璧な奥さんじゃなくて悪うございましたー」

 こんな軽口を叩けるのもお互いに信用しているからだ。

「あれ、これは?」

 夫が手にしたのは白い花のペンダントだった。

「普段アクセサリーなんて殆ど着けないよね? どうしたの? これ」

「あぁ、それは結婚祝いにって雪から貰ったの。ハンドメイドだって言ってた。かわいいでしょ」

「ハンドメイド? すごいな」

 夫はペンダントを手に取りまじまじと見つめた。


 中一の春、出席番号順に並んでいた座席で私たちの席が前後になった。彼女が佐川雪で私が清水陽菜だった。

「ねぇ、あんたの名前と私の名前ってなんか正反対みたいじゃない? 暖かいのと冷たいいのでさ」

 中学校の登校初日にそう話しかけられたのが雪との出会いだった。

「あんた、陽菜? って春生まれ?」

「そうだよ、四月。あなたは冬?」

「私は十月生まれだよ」

「十月って秋じゃな?」

「旧暦では冬らしいよ。だから雪なんだって」

「へぇー、知らなかった」

 そんな会話がきっかけで私たち二人は仲良くなった。

 雪と私は学生生活の大半を共にした。いつでも一緒、と言うほどべったりでもなかったがお昼は一緒に食べてたし休み時間も喋っていることが多かったから周りからはそう見えていたのかもしれない。でも雪は、私が一人でいたいとき(例えば気になっている本の続きを読みたいときや先生に怒られてへこんでいるとき、考え事をしているときなど)は私に近づかなかった。大雑把に見えて、空気が読めて繊細で気遣いができる子だった。だからこそ人付き合いがそこまで得意ではない私でも長年一緒に過ごしても疲れなかったのだ。雪とは中高大とずっと一緒だった。私もまさか大学まで一緒だとは思わずびっくりだねーと二人で笑いあった記憶がある。

学部も一緒だったのでレポート提出やテストのときはお互い支えあった。雪はプレゼンや討論会などではきはきと自分の意見を理論立てて話すので教授の覚えが良かった。一方の私はプレゼンなどの表立って出なくてはいけない授業での評価は芳しくなかったが、レポートや論文などは目の付け所がいいとよく褒められた。つまり双方共に教授のお気に入りだったということだ。レポートや論文のハードルが上がったりもしたが、高校と違って大学の勉強は楽しかったのでとても苦痛というほどではなかった(それでも多少は辛かったが)。

勉強の他にも二人でいろんなことをした。例えばテニスサークルに入って体を動かす楽しさを知った。テニスなんて名ばかりの飲みサーかと思っていたがしっかりとテニスを教えてくれるいいサークルだった。そのサークル仲間の男の子たち何人かにデートに誘われることもあった。私は中高生の間彼氏がいたことがなかったのでそういうことに興味はあった。しかし大体は一回デートしたきりで二回目に誘われることはなかった。確か雪も何人かに誘われていたはずだ。しかし彼女はその全員の誘いを断っていた。一度何故断るのかを聞いてみたが、

「私には陽菜がいるからいいんだよ」

と笑いながらはぐらかされた。

 他にも二人でいろんな所へ旅行に行ったり合コンに参加したりした。旅行は海外ではフランス、イタリア、スペイン、台湾、国内では北海道、京都、福岡、大阪などなど多くの土地を巡った。合コンでは何人かの男の子と連絡先を交換してデートにも行ったが結局それらも一回きりだった。なんで二回目に繋がらないんだろうと雪に愚痴ると「逆に気が合わない男を早めに判別出来てよかったと思うよ」と慰めてくれた。

 卒業してからも雪とは定期的に会った。さすがに就職先が一緒にはならなかったので二人で時間を合わせて仕事の帰りにご飯に行ったり休みの日にカラオケに行ったりした。今の夫と付き合い始めた時もすぐに雪に報告した。雪は笑っておめでとうと言ってくれた。夫とは職場恋愛だった。大体の人は友人のこととは言えのろけ話を聞くのは嫌がるだろうと思うが雪の場合は好んで積極的に聞いてくれた。

 そしてついに私の入籍が決まり、雪にその報告をした次の日、お祝いにと白い花のペンダントを渡されたのだ。

「陽菜は洒落っ気が少ないけどせっかくかわいいんだからこういうのをつけたら絶対似合うよ」

そう言って渡してくれた。失くしてしまうのが怖くてたまにしかつけられないのだが、雪にはちゃんと身に着けてよ! と怒られている。


「それ、何の花なの?」

 ペンダントを眺めていた夫が声をかけてきた。

「え? 知らない」

「何の花か聞かなかったの?」

「そういえば聞かなかったなぁ。調べてみよっか」

 そう言いながら私は本棚から植物図鑑を取り出した。

「おい部屋の片づけは!?」

「これわかったらするからー! ちょっと手伝って!」

「しょうがないな……」

 夫は渋々手伝ってくれた。

「物凄く特徴がある花ってわけじゃないから難しいね」

「とにかく花びらが五枚の植物を見て行こう」

 図鑑をめくりあらゆる花の写真と見比べていく。部屋に図鑑をめくるパラパラという音が響いた。

「なぁ、これじゃないか?」

 夫が差し出したページには五枚の花びらの赤い花が掲載されていた。

「あー! これっぽいね! この花何の花?」

「ゼラニウム。花言葉は『尊敬』、『信頼』、『真の友情』だってさ」

 花言葉を聞いた瞬間思わず赤面した。その言葉を雪に直接言われたような気がした。真っ赤になって固まっている私を見て夫は口を尖らせた。

「何だよ、両想いじゃないか。あーあ、妬けちゃうなぁ」

 そのわざとらしさに私は思わず噴き出した。

「ごめんって、そんなに拗ねないでよ」

「別に拗ねてないけど」

 明らかに拗ねているであろう夫の様子に私はもう一度噴き出した。一人で笑っていると夫もそれにつられて噴き出した。しばらく二人で意味もなくゲラゲラ笑った。

「あー、笑い疲れた。休憩にしない?」

「何言ってんだ。図鑑で調べ終わったら掃除再開するって約束しただろ。ほら、掃除再開するよ」

「えー、めんどくさいなぁ」

 夫に急き立てられ私は掃除を再開した。

 次雪に会うときはちょっといいお菓子をお土産に持っていこうと考えながら。






赤いゼラニウムの花言葉「君ありて幸福」

ピンクのゼラニウムの花言葉「決心」「決意」

黄色いゼラニウムの花言葉「予期せぬ出会い」

深紅のゼラニウムの花言葉「憂うつ」


白いゼラニウムの花言葉「私はあなたの愛を信じない」


 ご覧いただきありがとうございました。

 感想などいただけると大変喜びます。

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