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君の道、僕の道

作者: 露(つゆ)
掲載日:2025/10/03

「やあっ!!」

「ぐあっ……」

 僕は目の前の不逞浪士を切る。

「ふふん」

 僕は「自治組」一番隊隊長、飯田 庄助(いいだ しょうすけ)。自治組で一番強い。

「はあっ!!」

 その甲高いかけ声に僕は振り向いた。そこでは、三人相手に華麗に大立ち回りをしている自治組唯一の女隊士、広川 鈴(ひろかわ すず)の姿があった。広川は、顔色一つ変えずに浪士達を切り捨てた。

 彼女は一息つき、顔についた血を拭うとこちらを見る。

「飯田隊長、終わりました」

 そう、僕は自治組で一番強い。……この女の次に。


 今、世は乱れている。平穏の時代三百年の後、様々な派閥が生まれ、争いあっていた。

 そんな時代に、平穏を取り戻そうと自治組は生まれた。不穏分子を取り締まる。それが自治組の役目。自治組は、隊士を広く募集し、それには武士も農民も男も、そして女も関係なかった。

 僕は元々農民。でも、強かった。だから隊士になれた。自治組は僕の生きる場所だ。農民が剣を振るう事を馬鹿にしない。

 だから……。だから僕より強い広川が平隊士に甘んじているのが納得できない。

 広川と出会ったのは、入隊試験で実力を見ていた時。見るだけで、わかってしまった。こいつは僕より強いと。

 悔しくないと言えば嘘になる。だが、僕は、その強さに魅入ってしまった。

 それは、きっと僕だけじゃない。隊長への昇進は何度も打診されたはずだ。なのに、その度に広川はそれを断る。……納得できない。


 組所に戻った僕は、報告を済ませて、広川の下へ行った。

「広川」

「飯田隊長。なんでしょう?」

「お前、隊長に昇進する気は……」

「辞退させていただきます。私よりふさわしい方がいらっしゃいますでしょう」

 広川は食い気味に言って微笑んだ。

「……お前、何度も昇進を断っているらしいな。その実力を持ちながら、なんでだ」

「女の下につきたいと思う男はいないでしょう。では、失礼します」

 広川は、冷えた笑みを浮かべた後、頭を下げ、その場から立ち去った。

「……納得いかない」

 僕は、次の作戦を考えた。


「広川!」

 あくる日、組所の庭で、僕は広川に大声で呼びかける。

「なんでしょう」

 広川は振り返り、周りにいた隊士達は、なんだなんだと、こちらを見る。作戦通りだ。

「僕と勝負しろ」

 僕は持っていた二本の竹刀のうち、一本を広川へ投げる。公衆の面前で「隊長に勝った」という事実を広めれば、皆が昇進を後押しするだろう。

 だが広川は……。

「飯田隊長に勝てる訳がありませんよ。こてんぱんにされる前に退散します」

 へらへら笑って、ただ手を振るだけだった。

「逃げるなっ!」

 僕の言葉に広川は、やれやれと竹刀を拾う。僕は構えるが、広川は、竹刀を構えず、こちらへと来る。そして、僕に竹刀を返すと、ぼそりと耳打ちした。

「『女に負けた情けない隊長』の烙印は押されたくないでしょう」

 広川は、そう言って去って行った。

「……なんなんだよ」

 僕は悔しくて、地面を蹴った。


「なあ、なんで広川はあんなに頑なに平隊士でいたがると思う?」

 僕は縁側で、仲の良い隊士に聞いた。

「あー、まあ、身の程をわきまえてるんじゃないか」

「身の程?」

「あいつは女だろ?」

「……」

『女の下につきたいと思う男はいないでしょう』

『『女に負けた情けない隊長』の烙印は押されたくないでしょう』

「自治組は女も男も関係無いだろ……」

「自治組はそうでも、世の中の大半はそう見てくれない。自治組の隊士の中にも、そう思っている奴らだっている。あいつは、そんな中で生きてきたんだろ」

「……」

 ……納得……いかない。


「こんな夜更けに、なんですか」

 僕は広川を人気の無い神社の境内に呼び出した。

「僕と勝負しろ」

 僕は、竹刀を広川の方へ投げる。

「またですか……」

「僕に勝って、一番隊の隊長になれ。僕が後押しする」

「女が隊長になったって、不満が募るだけですよ」

 まただ。女女女……。

「女というのが、それだけ活躍の場を減らす理由になるのか!」

「なりますよ!!」

 突然の広川の叫びに、僕は体を震わせた。

「『女が剣を振るうな』、『女は家に入れ』、『女のくせに偉そうにするな』……どれだけ言われてきたと思っているんですか!」

「……!」

 『農民のくせに剣を振るうな』、『農民は耕作だけしてろ』、『農民が偉そうにするな』……僕が散々言われてきた言葉だ。

「運良く……自治組に入れて……剣を振るえて……私は、もう、それだけでいいんですよ……。これ以上……引っ掻き回さないでください……」

 普段、冷静な広川の吐露は、痛い程、僕に突き刺さった。

 広川は……僕だ……。自分のやりたい事を否定され、自由を奪われながら、それでも自由を求めた。自治組が、それだった。剣を振るえて、幸せだった。

 でも……。

「きっと、それだけじゃ駄目なんだ……」

「?」

「広川、わかったよ。今まで、すまなかった。部屋に戻れ」

 僕は、広川を見送った後、竹刀を拾って、組所へ帰った。


「で? 話ってのはなんだ」

 数日後、僕は組長の部屋へと赴いた。

 対面に座っている組長に、僕は手をついて頭を下げ、こう言った。

「……自治組を、辞めます」

「理由を聞こうじゃねぇか」

「やらねばならぬ事ができました」

 僕は頭を上げ、組長の目を真っ直ぐ見つめる。

「武士も、農民も、男も、女も、自由に活躍できる……そんな時代を作るのです」

 組長は、僕をしばし見つめた後、ふっと笑った。

「ガキが、立派になったもんだ」

「組長……」

「とっとと出てけ。引き留めやしねぇよ」

「ありがとう……ございます……。自治組にいられて、僕は……」

「しんみりすんのは性に合わねぇ。行け」

「……はい!」


 僕が部屋から出ると、そこには広川がいた。

「自治組を辞めるって……」

「聞いてたのか」

「すみません……」

「良いさ」

 暫しの沈黙の後、広川が口を開く。

「皆が自由に活躍できる時代を作る……」

「ああ、そうだ」

「飯田隊長」

「もう隊長じゃない」

「飯田……さん」

「なんだ」

「私も、ついて行きます」

「え」

 広川の言葉に僕は目を丸くした。

「私も、飯田さんと、そんな時代を作りたい」

 広川は、真剣な瞳で僕を見つめてくる。

「並大抵の事じゃないぞ」

「承知の上です」

「僕の足を引っ張るなよ」

 僕は冗談めかして言う。

「私、勉学も飯田さんよりできますので」

「うぐぐ……」

 僕のそんな様子を見て、広川は笑った。


『平民議員ノ活躍目覚マシク』

『増エル女子大学』

「本当にこんな時代を作れるなんてねぇ」

 目の前に座る鈴は、新聞を読みながら、顔の皺を深くし、笑う。

「僕のおかげだな!」

「賛同して活動してくれた仲間のおかげでしょう?」

「褒めてくれたっていいじゃないか……」

「あなたは甘えん坊ねぇ」

「むむむ……」

「でも、まだまだこれからよ」

「そうだな」

「ばぁば~!」

 バタバタと廊下から騒がしい足音がしたと思うと、新聞紙を丸めた物を持った、幼き我が孫がやって来た。

「チャンバラしよ~!」

「ええ、良いわよ」

 鈴は新聞紙を畳んで立ち上がる。

「なぁ、じぃじとはしないのか?」

「だって、ばぁばの方が強い」

「じ、じぃじだってなぁ、昔、自治組一番隊隊長……」

「それ、前にも聞いたー」

「ふふ……」

 鈴の溢した笑顔を見て、僕のやってきた事は間違っていなかったと思った。

 僕は、きっと、この笑顔の為にやってきたんだ。

 朗らかな喧騒の中、幸せな時間が過ぎていく……。

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