おんぼろな宇宙船と宇宙の旅
私が乗っているのはおんぼろな宇宙船だ。
今すぐ壊れてもおどろかない。
それくらいボロボロだ。
けれど、私は別にその事に文句はない。
だって私は、今からこの宇宙船にのって、戻るつもりのない旅に出るのだから。
私には、少し前まで婚約者の男性がいた。
彼と、宇宙で旅をするのが夢だった。
けれどその夢はかなわずに、彼は死んでしまった。
のこされたのは、作りかけの宇宙船だけだった。
他の者は残らなかった。
色々あって、彼の家族が全部もっていってしまった。
彼はその世界では知られた人間だったから、有名な技術者の品物だから、売れるだろうという考えで。
だから私は、唯一残されたその船にのって旅をする事に決めた。
彼を愛していたから。
彼のいない世界で生きるなんて考えられないから。
私の残りの人生は全部彼と共にありたいから。
旅は楽しかった。
ささくれだって、かなしみにのまれそうになっていた私を、楽しませてくれた。
見たことのない星は綺麗だったり、危険だったりして、死んでいた心を動かしてくれた。
後は、宇宙船の旅を続けるために、資格をとったり、技能をみにつけたりした。
目標ができたた生活は、私の生活の柱となった。
昔彼は、
宇宙という広大な世界のなか、私と巡り合えた奇跡が嬉しいと。
指輪を渡してくれながら言った。
私も同じ気持ちだった。
けれど、その奇跡の分だけ、死に分かれたときがつらかった。
金輪際出会えない、この宇宙のどこにも代わりなんていない。
そんな愛しい人がいなくなってしまったのだから。
だから船の中で、死ぬなら構わないと思っていたけれど、もう少し宇宙をみてみたくなった。
死んだ人間は星になると言われているから。
もしかしたら、この宇宙船に乗って旅をしていればどこかで出会えるかもしれない。
そんなありえもしない夢を抱いている間は、少しは辛くない。
なげやりな旅の動機だったのに。
少しでも彼のぬくもりの近くにいたい、それだけの願いだったのに。
この船の旅で私には、たくさんのものが、与えられていた。
私は今日も、かつておんぼろだった彼の宇宙船で旅をする。
様々な可能性と神秘、美しさと危険に満ち溢れた宇宙の中を。