1話 始まり
19世紀──。
イギリス。ロンドンの郊外にて。
一般人2人の死亡確認。死因は切り傷による失血死。この時代に猛威を振るったキラーがいた。
その名はダークナイト。たった5年間で5000人を殺し国中を、いや世界中を恐怖に落とし入れた伝説の男。
彼は死んだ後も子孫を残しその子孫が2代目ダークナイトとなり伝説を繋ぎ続けてきた。
そんな中、時代は進みダークナイトは4代目になっていた。4代目は4人の子供に恵まれ後継者を作る為、キラーを引退した。
時は流れ2021年。5代目候補の息子アダムは18歳に成長していた。
父の4代目ダークナイト。本名ゲイリー・ナイト。妻を亡くし男手1つで4兄弟を育ててきた。
しかし、誰もキラーになろうとはしなかった。
ただし四男ビリーは違った。父に憧れキラーを目指したが14歳で事故死してしまった。
長男と次男はそれぞれの世界に進み残ったのは三男のアダムだった。
しかし、アダムはキラーになるのを1番嫌がっていた。アダムは聖母の生まれ変わりのような優しさを秘めていた。
「人を殺すなんてまっぴらだ!」
いつもこう言いキラーになるはずもなかった。
そんなアダムがキラーになる決意を固めたのはある放課後の事件がきっかけだった。
2021年7月21日──
キラーには協会というものが存在する。
キラーは協会のルールに従い仕事をこなす。その協会の代表取締役のオフィスにて…
「会長。会長! 起きてください。まだ業務終わらせてないでしょう」
今話しているのが会長の執事のセバス。25年前に業界に現れ1年間で100人を殺したいわば狂犬。
10年前に裏方に回るとしてキラーを引退。今は会長の執事兼キラー教育委員会の委員長を務めている。
「あぁ。すまないセバス。徹夜が体に響いたようだ。まだ資料終わらせてなかったのに。会長失格かな」
今話しているのが会長のゲイリー。現年齢55歳の現役のキラーだ。
30年間のキャリアで殺害した人数は1万人以上。現役のキラー最年長のレジェンドだ。
今は依頼を請け負いつつもキラー協会の会長として業務にあたっている。
「それにしてもセバス。今年もトレイターが多すぎる。若者は忠誠心が足りないと私は思うのだがセバスはどう思うかね?」
トレイターとはキラーとしての責任を忘れた裏切り者の事だ。
「私もここ最近のキラーは人の心よりも自分の快楽を求めて無差別に人を殺し、飽きれば責任を軽く受け止めすぐに逃げ出す。このパターンが一般化していると思いますね。私もキラーの教育機関で教鞭をとっていますが、やはりこの業界に長年携わり続ける為の心の強さや精神力があまり感じられません。やはり人を殺すのはたとえキラーでも心地良いと感じるわけではない。その心の強さがない人材が増えた結果、トレイターの増加と人材不足が悪化していると私は考えております」
「なぁセバス。私も会長になってから人材を探していたが、やはり見つかるわけではなくてね。それで色々な策を考えた結果、少しゴリ押しな気もするが策を思いついた。それはこの国中を監視して人材を見つける方法だ。ただその為には、君達キラー教育委員会の力、そして現役のキラーの力が必要だ。これからのキラー業界を守る為に力を貸してほしい。お願いだセバス!」
会長の土下座は見たことがない。会長なりに打開策を練っていたのだろう。私はそんな努力家に仕えることができて、私は…
「私は幸せ者ですな。会長! やりましょう。キラーを再び力のある業界へ押し上げましょう」
「セバス…」
「ただ、眠っていたことに関しては後で反省文を書いて頂きますからね」
「鬼教師!」
そして始まった人材発見プロジェクト。
内容は依頼を受けていないキラーがイギリス中を監視し、人材が発見でき次第本部に連絡し、会長と面談させるというもの。
中々脳筋でやられる側からしたら心地悪いが1番手っ取り早い策だったのだろう。
キラーは人と格闘することもしばしばあり肉体も鍛えている。その為、脳筋が多いのは必然的に思えてくるがそれは忘れよう。
そして場所は戻りロンドン。学校帰りの学生で賑わう大通り。
その道を友達と帰るアダムが見えた。そして、付近の展望台には1人のキラーが大通りを見おろしていた。その名は…
「進展はあるか? ルシウス。」
「ええ。とても小さな埃達がうじゃうじゃと通りを這い回っているのがよく見える。素晴らしいよ」
「真面目にやれ!ルシウス。これは未来の為の策何だぞ!」
「分かってますって。全く先輩は早とちりだな」
「お前が適当で無責任なのが悪いんだろ」
「あー。電波がー。電波が悪いー。あー。無線切れちゃうー」
「おいルシウス! おい! 切りやがった」
タクッあの野郎。勝手に切りやがって。
ルシウス·ボードウィン。3年前にキラーになった新米だが500以上の依頼を解決した現在キラー最強と言っても過言ではないダークホースだ。
才能は嫌と言うほどあるのだが無責任で俺らを適当に扱う。ただ、強さが尋常じゃない。だから、俺ら裏方は表舞台に立つ、光に染まる表方を信用している。
俺はルシウスを信用しているから無理に止めては来なかった。
「なぁ。お前の担当のキラー。大丈夫かあいつ?」
「あいつなら大丈夫だ。仕事人としてのプライドがなきゃあんな強くならねえし信用もしないだろ。あいつは天才だよ」
一方ルシウスは…
「駄目だ! 人材が見つからない。どうすりゃいいんだ。てか見つけてもこんな腐った業界にもう若者を入れたくない! ん? あそこの路地裏。何してるんだ」
路地裏にはアダムと友達が下校していた。その後ろには1人のキラーがいた。
「マジで今日のルーク面白かったよな。飯吹き出して大惨事になっててさ!」
「やめてやれよアニエス。あいつも困ってたしさ」
「やっぱアダムは優しいよな。誰とでも仲いいしな」
「そんな凄い事でもないよ」
「いや誇っていいだ…」
嫌な金属の音と共にアダムの前に現れたのはみぞおちから血を流し苦しんでいた親友アニエスの姿だった。
(何が起きた? 何でアニエスは刺されているんだ? いやそれより逃げなきゃ! でもアニエスは置いていけない! どうしたらいいんだ!)
「やはり弱い人間は殺しやすいな。キラーの時の依頼と違って簡単に攻撃ができる。あぁ。もう1人いるんだった。お前の友達、今すぐ病院行かなきゃ死ぬぞ! だがどっちにしろ生きれないよ。だって君も死ぬんだもん!」
コイツラが親父と同じキラー。桁違いの気迫だ。どうしたら!こうなったら一旦逃げて周りの大人に助けを求め…
「遅いな、お前。」
しまった! このままだと殺される! 何かでろ! 何かでろ! 何かでろよ!
あいつの刃がどんどん近づいてきてやがて僕の腕をかすった。
気がついた時には僕は手から血液で歪な小刀を作り、キラーを刺していた。
「は? 痛えなあ! 何しやがる! 何でお前がキラーの覚醒してんだよ!」
キラーの覚醒? 何の事だ? 俺は覚醒なんか。
「それが覚醒しちゃってんだな。きみちんの心に隠れていた殺人術がさ!」
気がついた時に前にいたのは黒のレインコートを着た男だった。
「おい! 誰だてめえ! こっちは遊びの最中…」
「トレイターは黙ってろよ」
「だとてめえ! 舐めてんのか!」
誰なんだこの人は! 気迫があいつより強い! まさかこの人もキラーか? トレイター? 何を話してるんだこの人達は?
「なぁ君。もしかしてアダム·ナイト君かな。ダークナイトの血筋だね。ダークナイトの血筋はいつもその能力で戦ってきたから嫌でも分かるよ。アダム君! よーく見てなさい! キラーの本当の力を見せてあげるよ!」
「おい聞いてんのかてめ、は? 拳?」
「お前、弱いな。覚醒してからキラーアビリティーを鍛えてないから僕の拳を避けられない!」
「何言って、ゴフッ!」
見えない! 動きが速すぎる!
「アダム君。君が今覚醒させたのはキラーアビリティーというんだ。これを持っていないとキラーにはなれない。そして!」
「ゼェハァ!てめえ!許さ…」
「キラーが倒すのはこの世の掟からはみ出したこういう人間だ。ただの殺人鬼じゃない!」
「ゴフッ!もうやめ…」
「そろそろ死んでくれ! 罪を償うために! 殺人奥義。不の連鎖!」
するとキラーは両手の拳に青白い光を込めて凄いスピードで打撃を入れていた。
次の瞬間、あのキラーは消えていて俺と親友。そして助けてくれたキラーだけがいた。
「君達、大丈夫だったかい? アダム君。今すぐ救急車呼んで! このままだとまずい!」
「はい!分かりました」
この後、俺はアニエスを病院まで送りキラーの人とフロントで座っていた。
「あの、さっきはありがとうございます。僕達の事を助けてくれて」
「あぁ。気にしないでくれよ! そういう仕事だから! そうだ! まだ名乗ってなかったね。僕の名前はルシウス·ボードウィン。お察しの通り、キラーだよ」
「やっぱりそうなんですね。あのキラーって無差別に人を殺す気味の悪い人達だと思ってました」
「まぁ、そう思われる事が多いよ。一応立派な殺し屋だから。でもキラーが殺すのは犯罪者だけだ。それ以外に人は殺さないよ」
「じゃあさっきのキラーは何だったんですか?」
「あいつらはトレイターっていうんだ。簡単に言えば裏切り者だよ。トレイターは普通のキラーと違って無差別に人を襲い、殺す。最近増えてるんだよ。ああいう奴らが。だから僕はあんな奴らと一緒になりたくない! キラーの誇りを忘れた奴と同類として扱われたくない! 君のお父さんももっと前のダークナイトも同じ事を考えていたんだと思うよ」
「そうなんですね。色々と教えてくれてありがとうございます」
「どういたしましてん。それじゃあ僕はこれで行くよ。またどこかで会おう!」
(できるだけくるしい思いはさせたくないからな。覚醒の件は上に黙っておくよ。)
「あの、僕も貴方みたいなみんなを助けられるキラーになれますか? 誰も死なせないキラーになれますか?」
僕も君と同じ事を考え過ごした時間があった!ダークナイトはもう継承が途切れた? よく言われてる噂話だ。そんなわけないだろ!こんな才能とやる気の塊がいるのに!キラーにしない? 何自分勝手なこと言ってんだよ僕は! 決めるのはアダム君自身だろ馬鹿!
この子はもしかしたら…
キラーの歴史を変えるかも知れない! 新たなキラーの柱になれるかも知れない!
「かなり苦しい道のりになるよ! やることが沢山ある。それでも君はキラーを目指せるのかい?」
「かかってこいです! 絶対その道のりを僕っていう車で乗りこなしてみせます!」
「フフッ! じゃあ1週間後、ロンドンの大通りのこの紙に書いてある住所においで! そして、困ったことがあったらこの電話番号に電話しなよ! 僕が5000円で聞いてあげよう!」
「ゆ、有料なんですね。しかも結構高いし」
「モチのロンだよ! キラーは案外低賃金なのだよ。」
これが僕がキラーを目指すきっかけだった。
これは僕がキラーになりたくさんの仲間を作りやがて僕達に牙を剥くトレイター達から人達を守る物語。