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この世界

 山道を道なりに歩いていくとやがて木とレンガでできた街並みが見えた。フランクに想像する通りのThe 中世ヨーロッパの町並みといった感じだ。


 町の側面に出たらしく、路地を抜け中心部を目指す。主要通りではないにも関わらず宿が立ち並び、各種屋台が軒先が賑わせていた。


 目抜き通りに出ると両脇に所狭しと飲食店や屋台が並び、幾つもある建物には必ず1つ宿が入っている。多分この町は宿場町なのだと予想がつく。


 元の世界にいた時は国内はおろか海外にすら行ったことが無かった身だ。異世界の、とは言えヨーロッパ風の風景にはノスタルジーを刺激される。


 そんな俺の横で死神がしきりに周囲をキョロキョロと首を巡らせていた。


 「どうかしました?」


 どうも何か探している、と言うより迷子になったとかそんな雰囲気を感じる。……何かすごい嫌な予感がするんだが?


 「あー、いや……」


 口を濁らせる死神。いやいやいや、死神がやらかしたとかだと俺にはどうにもできないんだが!?絶対やめてよ?転生させる世界間違えたとか。


 俺の焦りに満ちた表情を見て死神は言い辛そうに口を開く。……もしこの世界が死神が予定していたのと違う世界だったら……。魔法があるかもしれないし魔物の強さだって全然違うかもしれない。何より銃によるアドバンテージが消失したら俺はただの無力な人間にしかなれなくなる。


 「時代を思い違えてたっぽい」


 渋面から放たれた言葉は、まあ最悪の事態の違う世界への転生というのだけは回避していた。しかし時代を間違えたというのはどっちに間違えたのだろうか?過去に?それとも未来に?


 「なんか把握してたより1000年くらい未来……」


 1000年……。1000年!?いや相当じゃん!思い違いとかで済まされるレベルじゃないよ!?


 俺が驚愕のあまり目を点にして言葉を失っていると死神が言い訳を始めた。


 「いやほら、神って人間より遥か悠久の時を生きるから多少は、ね?それにほら、私君のいた世界に専念してたし」


 その専念っていうのは1000年とかけてるの?この期に及んで武装SS吸血鬼化装甲擲弾兵とかいたりする?少佐殿!少佐!代行!代行殿!大隊指揮官殿!


 しかしこの世界のこの時代、武器はどうなっているのだろうか?前装式の銃、つまりはマスケット銃や火縄銃のようなものはもう発明されているだろうか?もし発明されていたら銃という圧倒的なアドバンテージが無くなってしまう。いくら性能が違くたって銃は銃なのだ。


 そもそもこの世界の武器は元の世界と同じか?魔物がいるとなれば違う方向に発展していてもおかしくない。


 聞いてたことと違う!と死神を睨めば死神は何やら分厚い本を取り出すとページを繰り始めた。


 「ああうん、安心しろこの世界に銃は無いから」

 

 本当に?と疑いの目で見れば死神は咳払いして説明する。


 「本当だ。この本にはこの世界の歴史が全て記録されているが銃が発明されたとは記されていない」


 ……なるほど。まあ神が言うならそうなんだろう。ただ当初の想定より時代が進んでいるということは今は無くても今後発明されるかもしれないんだよなあ。


 しかしこの時代の1000年前ってどんな世界だ?ひょっとしてある程度の文明があるこの時代に飛ばされたのは1000年前に飛ばされるより幸運だったのでは?


 「聞いてたことと違うんですけど?」


 「いやー、悪いな……。本当に悪いけどさすがに転移させることはできないんだよね……」


 つまりこの世界で生きていくしかないと。それでもねえ、と俺は死神に恨みがましい視線を向ける。


 「ま、まあほら、銃が無い世界で文明は1000年前より遥かに発達してるんだからさ、過ごしやすいだろ?」


 そんなこと言われても正直納得いかないが死神の態度から推察するに文句を垂れても、もうどうにもならないのだろう。ならこの世界で生きていくしかない。それに確かに文明が発展していればそれだけ過ごし易いというのはある。


 深くため息をつくと思考を切り替えた。


 「ところでこの時代、まだダンジョンってあるんですか?」


 「え、ああ、ダンジョンね」


 またページを手繰る。


 「あ、あるね。最初行こうとしてた場所にまだちゃんとある。ギルドで登録すれば誰でも自由に入れるって」


 なら俺が目標にした頑健な肉体を用いてのダンジョン攻略はまだ可能というわけだ。


 「ならまあ、もう仕方ないんでそこに案内してくれませんか?」


 「良いとも。けどとりあえず宿を探した方が良い。もうすぐ夕暮れだからね」


 言われて空を仰げばなるほど、微かに茜が差している。ヨーロッパ風の建築に好奇心をそそられ視線をあっちこっちにやりながら宿を探す。現状、収入の目処が立ってないから出来るだけ安く済ませたいところ。


 表通りより路地に入った方が安いだろうと探す場所を変えた。やはりこの町は宿場町で間違い無さそうで至る所に宿が立ち並んでいる。


 この宿の繁盛具合は何に起因しているんだろう?この町は交通の要衝とかそういうことなんだろうか。


 ふと目線の先に『ギルド提携宿!冒険者割引!』なんて書かれた看板があった。わざわざ提携してる宿があるってことはダンジョンに挑む人もよくこの町に来るんだろう。


 何はともあれ、路地に佇むシックな感じの一軒に決めた。大銀貨6枚で一泊+簡単な夕飯と朝食付きだ。


 思い返してみればこっちの世界に来てから食事を取っていなかった。食欲に導かれるまま、少し早い時間だが部屋より先に食堂へ赴いた。


 食事は若干パサついてるパンに雑味のあるジャム、塩味の強い分厚いベーコンに林檎っぽいものが丸々1個の簡素なもので値段相応と言った感じ。食欲も手伝い味はそこまで悪くない。


 チラと傍目で食堂内の客層を見てみた。時間が早いこともありあまりいるわけじゃないが旅人っぽい見た目の人がメイン層だった。


 食事を終えた俺は質素な部屋で死神から今後のこと、特にダンジョンについて説明を受けていた。


 「つまり既に言ってたようにこの世界に魔法やゲームにおけるスキルのようなものは存在しない、と」


 「そう。ただ人間より優れた身体能力を持ってる種族もいるからそういうのは慣れてないと特殊能力かなんかと錯覚するかもね」


 「種族というのは?」


 「エルフにドワーフ、それから獣人」


 なんと言うか割とオーソドックスな感じだ。それぞれが長けているところもなんとなくイメージし易い。


 「あ、それぞれの種族っていがみ合ってるから」


 「そ、そうなんですか……」


 「うん。君はまだ偏見とか無いと思うが対立があることだけは知っとけよ」


 「分かりました。とこらでこの世界の国ってどんな感じなんですか?」


 「基本君主制だよ。王貴族だけが権力者で国を動かしてる」


 「ちなみに私達がいるこの国の国名はなんて言うんですか?」


 「ハイランド王国」


 一通りこの世界についての簡単な説明が終わった。『説明し過ぎるのも良くないから』との死神の言は最低限は教えたから後は自分で調べろ、ということだろう。まあ自分で色々見聞きして知識を深めるのだって面白いだろう。


 「あ、最後に1つだけ」


 「なんです?」


 右京さんの真似ですか?なんて俺の心の声には気付かず死神は話す。


 「君は銃というこの世界からすればチートじみた物を持ってるがあくまで持ってるだけだ。君の肉体は人間の域を出るものじゃないから簡単に傷付く。この世界にはどんな傷も病も一瞬で治る便利な魔法なんて存在しないんだ。気を付けろよ」


 「分かりました」


 「さて、それじゃあ説明も終わったし私は消えるよ。最後に聞いときたいこととかある?」


 「今はあんまり思い浮かびませんね。後々色々と聞きたくなるかもしれませんが……」


 唐突な気もするがこの世界の常識なんかは教わったから死神としては十分教えたとの考えだろうし俺も相違はない。


 「そうか。ならこっちの世界の人に聞け」


 「そうですね」


 1つ頷くと死神は短く別れの言葉を述べた。


 「じゃあな」


 「ええ。さようなら」


 次に瞬きした瞬間、死神は綺麗さっぱり、元々いなかったかの様に消えていた。部屋にはただ残照が差し込んでいた。


 ベッドに横たわって天井を見ていると今日のことを思い返す。月の降る夜、日本で死んだ俺は何の因果か死神に導かれ異世界へ転生した。


 今頃俺の家族はどうしているだろう。悲しんでいるに違いない。せめてでも俺がこうしていることを伝えたいと思うのは贅沢だろうか。


 この先この世界でどう生きるか、なんてのは全く決まっていないが、生前の日本ではできなかったことをこっちでは思う存分したい。ひとまず明日はギルドへ行こう。

 

 

そう言えば今日9/2はナチスドイツによるポーランド侵攻の日ですね。現地時間だと9/1なんでしたっけ?


ダンツィヒ〜

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