6話 波乱の出発 2
相手の名が予想通りで会ったことに満足したセリスは、とりあえず一番気になっていたことを尋ねることにした。
すなわち、『戦神の神馬』と『ルーセルディリア』という言葉について。
ルースを指していることは解るのだが、どんな意味かは知らない。
そうエイギルに言うと、目だけでなく口まで開くほどに驚かれた。…ずいぶん有名な話らしい。
「ルーセルディリアっていうのはその馬の名前。ジークはルースって愛称で呼んでるけどね。
もともとラティルドの王が所有していて、神馬っていう特別な種族の血をひく誰にも従わない暴れ馬として有名だったんだ。それがあの《サラティルドの大侵攻》で乗り手を選び、共に戦神もかくやという戦いぶりをした、ということでつけられた呼び名が《戦神の神馬》という訳。」
エイギルの説明に安直なと思いつつ、フムフムと頷いていると、「本当に知らなかったの?」と笑われた。
「有名な話なんだとは思ってましたよ。でもジークに訊いても教えてくれないし、人に訊こうとすれば邪魔されるんで知りたくても知れなかったんです。」
笑われたことにムッとしてそう反論すると、彼は悪戯っぽい笑みになった。
「へぇ・・・・・ジークがねえ・・・・・。
じゃあ、これも知らないかな?ジークとルースが有名になったもう一つの理由。
実はジークがラティルド王からルースを賜る時、本当はルースではなくひ」「おい。」
エイギルの言葉を遮る様にかけられた声。と同時に後ろから肩をがしり、と掴まれる。
近づいてくるその人物に初めから気付いていたセリスとは違い、よほど驚いたのか固まるエイギル。しかし肩を掴んだ手にググッと力を込められたのを感じて無理やりな笑みを浮かべて振り返る。
「や、やあ。ひさしぶりだね・・・・・・ジーク。」
引きつった声音での挨拶に、ジークは口元だけの笑みを返す。しかし、目は笑っていない。
「ああ、久しぶりだな、エイギル。で、人の相棒に何をロクでもないことを吹き込んでるんだお前は。」
「い、いやだなあ。脚色されまくった噂ではなく、親友の目線からの真実を聞かせていただけだよ。
ロクでもないなんて人聞きが悪い。」
「誰が親友だ、誰が。」
物騒な笑みのジークと冷や汗を浮かべるエイギル。
しばらくそんな二人の攻防を眺めていたセリスだが、痺れを切らして口を開いた。
「で、ルースではなく、なんなの?」
ぴたり、と二人の動きが止まる。エイギルを引っ掴む手はそのままに、ギギギ、という音が聞こえそうなほどぎこちなく、ジークはセリスのいるほうへ首を回す。
「・・・・・・・何の話だ。」
「ジークがルースを貰う時の話?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エイギル。」
長すぎる沈黙ののち、冷や汗を浮かべるどころかダラダラと流す古なじみの友人の名を呼ぶと、ジークは
「逝ってこい。」
「オワッ!!!」
抜刀した。
大剣とは思えない速度のそれを、とっさに避けるエイギル。だが、続いて二撃目、三撃目と繰り出される。何とか避けきり、距離を置くエイギル。
セリスはそんな二人を眺めていた。止める気はない。ジークにはやや劣るが、見た限りではエイギルはそこらの剣士では太刀打ちできないくらいには強い。本気でやれば確実にジークが勝つだろうが、彼も本気でいるわけではない。よってエイギルに危険は無し、と判断する。
気の済むまでやらせようと考えながら二人の攻防を観戦していると、誰かが近づいてくるのを感じた。
PVアクセス 1500突破。 ユニークアクセス 500突破。
ありがとうございます。
少し間があきました。
もう少しペースを上げて頑張りたいです。