5話 波乱の出発 1
とうとうサブタイトルに番号をつけてしまいました・・・
煌々と輝く月。
静まり返った街の中、一人、少し欠けた月を見上げる。
「満月まで、あと五日、か・・・・・。」
ほろり、言葉がこぼれ落ちて――――――――――――――――――――消えた
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隊商の護衛の依頼を受けてから三日後、セリスは砂漠の入り口で佇んでいた。
ジークは少し離れたところで、面通しを兼ねた今日の、ひいては今後の日程についての確認をしている。おそらく、護衛の位置や緊急時の対処についての打ち合わせをしているのだろう。
その外見のために侮られることが少なくないセリスは、そういった打ち合わせに参加することはない。意見をしても聞き入れられることは滅多に無いし、基本的にジークと行動するため、必要なことは彼から聞けば済んでしまうのだ。
なので、この状況自体に文句はないのだが・・・
「少し離れてろっていうのはひどいよねぇ?」
そう言って見上げたのは、一頭の黒馬。セリスがその影にすっぽりと隠れてしまうほどに大きい。
ルースという名のこの馬は、ジークの愛馬だ。足が速いのはもちろん、賢く、誇り高く、己が認める人間以外はその背に乗せないという。
彼の日陰にいるセリスだが、暑さはどうしようもない。うんざりしているセリスに、ルースは申し訳無いというように小さくいななく。
今回のように急ぎの旅のときは普通、転移陣を使う。転移陣は大都市には必ず設置されており、少々の使用料を払えば一般人でも使用できる。今回の目的地であるサラティルドは大国ラティルドの首都であり、当然転移陣も存在する。ただし、転移できるのは人だけであり、大量の荷物を運ぶ隊商や、セリス達のように騎馬を連れたものは使用できない。よって確かに今回の砂漠越えは彼のせいともいえるのだ。
普通ならば馬にそんな事情が理解できる訳はないが、彼はただの馬ではない。また、色々逸話もあるらしく、本来Aランクとはいえいち傭兵が所有できるものではない。手に入れるまでの経緯に興味はあるが
「教えてくれないんだよねぇ。」
なぜか、いきさつを教えてくれないのだ。
話を漏れ聞く限りではかなり有名な話のようだが、ジークは教えてくれないし、よほど聞かれたくないのか他人に尋ねようとしても邪魔されるのだ。
「・・・・・・・・・はぁ。」
長く離れていたのも、知るのは必要最低限の様子のみにしたのも自分の意志だが、『自分の知らないジーク』というものに思わず溜め息をつく。と、打ち合わせが終わったらしく、集まっていた人々が散っていく。それでもぼんやりしていると、近づいてくる気配がした。
セリスは戦士ではない。しかし、過ごしてきた多くの経験ゆえに、ジークには及ばないものの、魔法士としては格段に気配を察知することに長けている。近づく気配にどうしようか迷い、ジークの居場所を探る。セリスとジークはある事情から離れていても互いを認識することができる。本来ならば意思疎通さえできるのだが、『本来の力』を抑えている状態ではそれは叶わない。ジークがまだ先程の場所から動いていないのを知り、いざという時の味方として背後の黒馬に近づくと、黒馬は安心させるように顔を近づけた。
ルースのその反応から、少なくとも警戒すべき存在ではないと感じ、セリスは体の力を抜いてルースの顔をなでる。そうしているうちに気配は近づき、足をとめた。
気配がある方向に顔を向けると、明るい茶色の髪をした青年がいた。こちらを見て、きれいな翡翠色の目を丸くしている。年恰好はジークと同じくらい、いつもどこか鋭い印象のある彼とは正反対だが、なかなか魅力的な顔立ちだ。腰にさした二本の剣はなかなか使いこんであり、護衛の一人だろう。
黙って観察していると、青年のほうから話しかけてきた。
「えっと・・・その馬『ルース』だよね。かの《闇夜》の愛馬、《戦神の神馬》のルーセルディリア。」
耳慣れない単語があったが、間違ってはいないので頷く。すると、面白そうな顔をされた。
「そいつがそこまで懐いているってことは、君が噂の『相棒』さんかぁ。」
そう言って笑う。しかし、その目はセリスを観察し、推し量っていた。
「『相棒さん』ではなく、セリスです。あなたは?」
それを気にせず、セリスからも尋ねる。自分から名乗ったのは相手の名が予想できたからだ。
「俺はエイギル。よろしくな。」
思った通りの答えに、セリスは微かな笑みを浮かべた。
PV1000、ありがとうございます!
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ほんっとーに感謝してます。
これからもよろしくお願いします。
*書き方を少し変えてみました。