1話 砂漠に臨む街
デュリアーク
『砂漠に最も近い街』と呼ばれるこの街は、交易で栄えている。砂漠を越えようとする人々がここに立ち寄り、それを狙って商人たちも集まる、ということを繰り返して発展してきた街だ。それゆえ、この町の特産品は二つに分かれる。ひとつは砂漠越え用の品や越えてきた人々による異国の品、つまり物資。そしてもうひとつは――――――――――――――――――――人だ。
今、そんな街の一角を2人の旅人が歩いていた。
「で、これからどこ行くの?」
『三つ目狼の討伐』という依頼を終え、ギルドで報酬を受け取った直後にかけられた問いに、彼はちらりと隣を歩く小柄な人物を見下ろした。言いつけに従って外套のフードを深くかぶっているため、顔は見えない。
無言の彼をどう思ったのか、その人物はさらに問いを重ねる。
「砂漠を渡るのでしょう?必要なものを買うの?さっきもらった報酬、割と良かったよね。依頼が三つ目狼退治だったからめんどくさかったけど。」
それとも足りない?
そんな言葉に、青年―――――――ジークはため息をついた。
「一家五人、二月は遊んで暮らせる金額だぞ?足りないなんてあってたまるか。いい加減金銭感覚を身につけろ。そして常識を知れ。あと、自分のとんでもなさを自覚しろ。フードを下ろすな。」
立て続けに言われたためか、少女は頬を膨らませて(見えないが何となくわかる)反論する。
「暑いんだもの。それに、常識は知ってるわよ。――――――――――昔のだけど。」
小声でささやかれた後半部を聞き取って、ジークは溜め息を堪えてなだめるような口調で少女に言う。
「いいというまではフードは駄目だからな、セリス。お前は目立つんだから。」
そう、傍らの少女、セリスは目立つのだ。
珍しい、双黒―――――その点はジークも同じだが―――――に加えて、可憐というのがふさわしい整った容姿。どう見積もっても14,5歳にしか見えない外見や、華奢な姿態は、人目はもちろん、邪な考えを持つ者たちを惹きつけるに違いない。
まあ、手を出せば痛い目を見るのは相手だろうが。
そこまで考えて、ジークは思わず頬を緩ませた。
「それで、どこに向かっているの?」
小さく笑ったジークを見て、フードの陰で眼を細めたセリスは先程よりやや強い口調でもう一度行き先を訪ねた。
「砂漠の旅として最も安全なのは、隊商に加わることだ。そして、デュリアークには隊商の護衛専門のギルド窓口がある。」
ギルド
全世界に広がる傭兵組織だ。
民間からの依頼を仲介料としていくらかの料金を受け取って、傭兵に流すのだ。依頼は難易度別に紹介され、難易度によって仲介料も変わる。ギルドに登録している傭兵達はそこから依頼を選び、引き受け、成功させることで報酬をもらう。
成功させた依頼の難易度や、成功率などによって傭兵達はランク分けされており、一定ランク以上でなければ引き受けることのできない依頼もあるという。
ランクは最初はEから始まり、最高はSSSだという。最もそれは歴代に数人だそうだが。
ランク上位の者には、二つ名がつけられ、彼ら個人に入る依頼もあるという。
依頼は多岐にわたるため、下部組織も複数存在する。今から向かうのはそんな組織の一つなのだろう。
「これからのことは、そこに行ってからだな。俺らの目的地はラティルドだから同じ方向の隊商はあるだろうが、それがいつ出発かはわからないからな。
ところで、お前は砂漠を旅した経験ないのか?」
「あるわよ」
予想外の答えだったのか目を瞬かせたジークだったが、続く言葉に納得した。
「でも、ずいぶん昔のことだから。やっぱり時間がたてば変わるものね。」
街を眺めながらの言葉はともすれば子供の背伸びのようだったけれど、事情を知るジークにはどこか達観したものに聞こえた。
「じゃあ、必要なものはお前のほうが詳しいな。買い物はお前に任せるぜ。」
ふと胸をよぎる寂しさを感じながら、ジークはそう言って笑った。
それからしばらくして、
「・・・・・・・・・・っと、ここだ。」
振り返ってセリスに念を押す。
「いいか、俺が言うまでフードは外すなよ。」
そう言ってジークが扉に手をかけたそこは・・・・・・・・・・・・・・酒場だった。
前話より長いですねー。(前話が短すぎるだけだが)
そして説明が多い・・・
というか受験前なのに何をやっているんだろうか自分は・・・・・・・・・・