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銀月の魔女は闇と歩く  作者: 桜色藤
1章 砂漠の旅路
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13話 第一夜 2

いつのまにやら7000PV突破!!!

ありがとうございます!!

 「セリスちゃん、セリスちゃん!!!ジークをやめて俺と組まない?んで、これ売りだそーよ!!いっぱい作ってさ!!!俺、いい伝手(つて)持ってんだ!絶対これ売れるって!!あ、儲けは出来れば折半でよろしく!!!」


模型天幕ミニチュアール・テントに興奮したエイギルは、製作者セリスにそう詰め寄った。

そのあまりの勢いに、思わずセリスはジークの背に隠れる。

ジークは彼女を庇うように立ち、さらに近寄るエイギルを首根っこを掴んで引き剥がす。


「落ち着け馬鹿。そんなに上手くいく訳あるか。」

「ええっ?!」


おそるおそるジークの後ろから顔を出し、説明する。


「小さい物を大きくすることも、その反対も、それ自体は難しくないの。でも、その状態を維持するとなると難易度ははね上がる。それ相応の魔力や技術が必要となるのよ。まして、魔力の少ない人も使えるように術式を刻もうとすれば、術式を刻む素材も高価なものになる。とてもじゃないけど大量生産なんて出来ないわ。」


 そもそも売るつもりは無いし。


 「そんなぁ~」


 がっくりと肩を落とすエイギル。



 それを無視してセリスは天幕に入る。

じっくりと中を見まわし、おかしな所はないか、一つ一つ確かめていく。

不備が無いことを確認してから、天幕の外にいるジークに声をかけた。



 それを待っていたジークは袋から出しておいた道具を使い、頼りない砂の上に天幕を固定した。

作業が終わると、さっさと外に置いてあった2人分の荷物を持って中に入っていく。

 無駄が無く、流れるような一連の作業は、彼が何度も繰り返したことを見る者に悟らせる。




 その一人であるエイギルは、唖然として呟いた。


 「まさかと思ってたけど・・・・本当に同じ天幕で寝るのか・・・・?」


 やはりそういう仲なのか。脳裏をよぎる考えはひとまず横に置き、改めて今朝知り合ったばかりの少女のことに思いを馳せる。




 傭兵としての実力は実際に見た訳ではないが、『砂漠の薔薇』の紹介もあるし、なによりこういう事に関してジークが偽りを言うとは思えない。何より、足手纏いになるならばジークは彼女のことを相棒とは呼ばないだろう。

 魔法に関しても同様だが、先程の『作品』から考えても、並大抵の腕前ではないだろう。不安要素は何も無い。



 それでも引っかかるのは、時折彼女から滲み出る《何か》だ。

儚げな花のような少女の内に存在する得体の知れないそれ。

人形のような外見には似つかわしくない、凄みのような、だがもっと底が無いような印象の、それ。



 傭兵の心得として、他人の秘密を暴くようなことはやろうとは思わない。だが、妙に気にかかるのだ。

 しばらく考えて、思い至った。思い至って――――――――――――――鳥肌が立った。







 かつて、一度だけ見たジークの力。

朝のあれ(きりあい)は本気ではあったが真剣ではなかった。ましてや全力でもない。



 だが、あの圧倒的な力。何もかもを飲み込んでしまうかのような力。

あの時、血と闇、死と絶望が満ちていたあの場でなければ、きっと受け入れることさえ拒絶し、結果今の様にじゃれあうことは出来なかっただろう。それ程に絶対的だった。


 「・・・・・・・・・・・面白い。」


 粟だった肌を自覚し、それでもエイギルは口端を上げる。

彼らが隠しているものには興味は無い。だが、あの少女の内に潜むものの正体は知りたい。

 矛盾は自覚している。だけど、どちらも抑える気はない。




 結論


 「訊いて答えてくれることだけで満足できるかな・・・・」


 真実を言うのはジークだろう。だが、そもそも答えてくれるか。

朝の出来事を思い出し、ぶるりと身震いする。


 「特にセリスちゃんのことに触れたら切り捨てられそうだな・・・」


 さすがに命の危険を冒してまで知りたいわけではない。

 だったらやはり、セリスのほうが無難だろう。


 「彼女(セリスちゃん)も一筋縄ではいかなそうだけど・・・・」


 まあ、何とかなるでしょ。







 「今日は一日中《風耳》を使っていたんだろう。魔力は大丈夫なのか。」


 天幕の仲で荷物の整理をしながら、思い出したようにジークはつぶやいた。荷解きはしない。中身を確かめるだけだ。


 「ええ、あと二日で満月だもの。これ位なんでもないわ。」


 満月が近くてよかったわ。

 比較的消費の少ない術とはいえ一日中術を行使し続け、並みの魔法士ならば底を尽きてもおかしくは無い魔力を消費しながら、そう微笑む(はな)(かんばせ)に陰りは見られない。


 「・・・・・・・・・・そうか。」


 それを確認して気づかれぬよう、小さく息を吐く。

その吐息は安堵と、僅かな落胆を帯びていた。

 気づいて慌てて吐息を引っ込め、セリスの様子をうかがう。幸い気づかれなかったようだ。それから、思い出したことを尋ねてみる。


 「なあ、」

 「?」

 「オウルとは連絡を取っていたのか?」


 一瞬動きを止めたセリスは何のことかと思いを巡らせ、朝のことを思い出す。


「ええ、あの子も今では王太子でしょう?私との連絡手段は代々の王位継承者と、いざという時のために、王が信頼を置く臣下の中で、本当に一握りの者に伝えられる大事な口伝だから。でもあの子ったら、本来緊急時用なはずのそれを世間話にばかり使って。しょうがないから、ワザワザ別の《花伝》を新しく作ったのよ。」


 困った子よねぇ。

呆れたような物言いだが愛想をつかしたという風ではなく、むしろ微笑ましそうな響きがある。




 彼女は何時(いつ)でも、誰であっても突き放すことはしない。


 いや、一度だけ。


「・・・・・俺との連絡は断ち切ったのにか。」


 思わずこぼれ出た呟き。しまったと思ったが、出てしまったものは戻せない。

案の定、セリスは顔を歪め、それから困ったように微笑(わら)った。


「それとこれとは別だと分かっているでしょう?それに、オウルですら直接会うことは無かったわ。忙しいのか、訪ねて来ることも無かったし。」


 いや、あいつなら会いたいと思えば何が何でも会いに行っただろう。

幼い頃の喧嘩友達の顔を思い出しながら、心の中で断言する。だが、それをしなかったということは



(あいつも少しは気を遣ったのか・・・)


「でも、話は毎日してたわね。内容はジークの仕事の成否とか、日頃の行いばかりで、会話というより報告みたいだったけど。独り立ちしたジークのこと、心配だろうって。」

「!!!!!!!」



(あんの野郎・・・・・・・・・・・)




訂正




ただの嫌がらせだ。



昔からの恋敵の腹黒い笑みを思い浮かべ、ジークはひそかに青筋を立てて拳を握り締めた。



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