12話 第一夜 1
まだ街からさほど離れていないこともあり、第一日目は盗賊の襲撃なども無く、何事もなく終わった。
しかし、交代とはいえ1日中気を張り詰めていたこと、灼熱の日射しに炙られ続けていたことで体力が資本の傭兵逹も少々疲れを見せていた。
砂漠では昼夜の気温差が激しい。
日が昇るにつれ辺りは灼熱地獄と化し、日が沈めば気温は容易く氷点下を下る。
それゆえ旅人たちは日が最も高く昇る正午の活動を避け、活動する生き物の少ない夜に短い休息を取る。そして比較的過ごしやすく、星が出ていて方角が分かりやすい夜明けと日没間際を中心に行動するのだ。
今も日が沈みきり急速に近づく冷気に耐え、皆野営の準備をする。
複数でパーティーを組んでいるものは天幕を用意し、そうでない者は火をおこしたり寝場所の確保にいそしむ。
しかし、個人差はあれど皆疲れた顔で皆が黙々と作業する中、ある一角だけは賑やかだった。
セリスとジーク、エイギルの三人である。
「なあ、ジークはともかくなんでセリスまでそんなに元気なんだ?他の奴なんか護衛と砂漠越えっていう組み合わせのせいで交代で休憩してても疲れてんの丸分かりなのにさ。」
護衛というのはただでさえ神経を使う。常に襲撃を警戒し、不測の事態に備えるからだ。
それに過酷な砂漠という環境が加われば、心身への負担は相当なものだ。
なのに繊細な花のようなこの華奢な少女に、疲れのかげりは見えない。
「セリスを普通の魔法士と同じように考えるなよ。元々基礎体力はそこらの傭兵と同じくらいはあるんだ。加えて砂漠をわたった経験もあるから、体力の消耗を抑える術も心得ている。あと・・・・この外套もあるしな。」
そう言って手渡されたのは砂漠を渡るには不適切な厚手の外套。訝しげにしながらも、試しにエイギルはそれをはおってみる。そして、驚いた。
身に凍みるような冷気を遮るのはもちろんのこと。それどころか体を温もりが包んでいるのが感じられる。
「“冷気”と“暖気”が付与されている。暑い時は涼しいぞ?それ以外にも色々加えられているから、物理防御・魔法防御共にそこらの皮鎧よりある。」
荷物を置きながら、なんでもないように言われた言葉にエイギルは驚きの目を向ける。それ程のものなら計り知れない価値があるはずだ。
視線の意味を読み取り、ジークは説明を加える。
「こういった物の研究はセリスの趣味の一つだ。他にも作品は色々あるぞ。例えばこの袋はいくらでも物を入れることが出来る。旅人には垂涎の品だろうな。後は最近作っていた・・・これだな。」
取り出された物は天幕のミニチュア模型。一瞥でもそうと分かるほど、かなり精巧に作られている。
「・・・・・・・・・・・ここらでいいか。」
砂の上に置き、数歩下がる。
「レギス」
鍵言葉によって定められていた術式が作動する。
「うぉっっ?!」
手のひらに乗るほどの大きさだったはずのそれは一瞬で大きくなり、普通の天幕と何一つ変わらない様子で存在していた。