表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/127

006 七緒少年とサーファーさん


朝の掃除を終えて一休みした後、七緒は街へ買い出しに行く。


「フーリーさん、何かいるものあります?」

「夜はカレーに、しようと思う」


「やったっ、イッカとエピ買ってきますっ」


カレーはヒノモトの知識ある、七緒(ななお)が伝授したものだ。

異世界で手に入るスパイスはまるで風味の違うものだが、何種類もスパイスをぶっ込み、魚介を煮込めばそれはもうカレーと言えた。

パンを浸して食べると、何枚でもペロリといけてしまう。


七緒はうきうきで麻のカバンを斜めがけして、藤のカゴを持ち、キッチン脇にある木戸を出た。

館の周りには、中庭とは別に自然豊かな敷地が広がっている。


自然豊かといえば聞こえは良いが、要するに手入れもせず草がぼうぼうなのだ。

いくら掃除好きでも、庭木までは手が回らない。


まあこれも、ありのままの鎮守の森と思えば、趣も感じられるだろう。多分

七緒はタンポポさまの事もあり、本気で館を“ケイダイ”と思っている。


南↓へ向かえば、館の正門があった。


だがそれでは面倒なので、すぐ東→へ折れて背の高い草をかき分け、道なき道をすすんだ。

5分ほど歩くと、ボロボロに崩れた敷地をかこむ石壁が見えてくる。


そこを乗り越えて少し歩けば、すぐ崖のフチだ。

下を覗けば、高さ30mはあるだろうか。


崖には真下に降りられるよう、つづら折りに石段が設置されている。

七緒は手すりも無い、絶壁の階段を降りていく。


下にはちょっとした砂浜があり、そこにはお師さまが流木を集めて創造した、“樹木巨人(ウッドゴーレム)”が膝を抱えて座っていた。


ウッドゴーレムは七緒に気づくと、のそりと立ち上がる。

7m上から見おろす流木の巨人は、体がすかすかだった。


「港まで、お願いします」


七緒がそう告げるとゴーレムは頷き、(かたわ)らにある赤い小舟を脇へはさんで、波打ち際へと歩いて行く。

その後ろ姿は、まるで波乗りを愛する男のようで、七緒はこっそり“サーファーさん”と呼んでいた。


サーファーさんは小舟に七緒を乗せると、舟を押しながらバタ足で泳ぎ、港のある街まで連れていってくれるのだ。

岬の館と街は少し離れており、湾曲した海岸線を歩くと、優に10kmの道のりとなってしまう。


しかし海を渡ると、その半分以下ですんだ。

街への買い出しは、いつもサーファーさんに頼んで行き来している。


七緒たちの住む港の街“イヨール”は、

獣人の国「シーフォーヌ」の北↑の海岸に接する、マーヤ平野の端にあった。


イヨールから東→を見れば、マーヤ平野が一望でき、

南↓や、西←を見ればすぐ山となっている。


北↑を見れば、すぐ海だ。


このような位置にあるため、イヨールには平野で採れた作物のほかに、

海の幸、山の幸が集まり、大いに栄えていた。

ちなみに西←に突き出た岬があり、その先端に七緒たちのすむ館がある。


港へ着くと子供たちが、サーファーさんを目ざとく見つけて群がってきた。

サーファーさんは港の船の邪魔にならぬよう、小舟を抱えて堤防脇の浜へあがり、そこで座って待機である。

その間、七緒が戻ってくるまで、たいがい子供たちのジャングルジムと化していた。


「ナナオだーっ」

「ナナオおはよーっ」

「サーファーさーんっ」


わらわらと寄ってくる子供たちが、七緒に遠慮なく話しかけてきた。

七緒も“おはよー”と笑顔で返す。


お師さまが昔、たらい回しにされて怯える赤子の七緒に、話してくれた心構えがある。


「いい? 良く聞いてね。

銀髪なんて、この世界では珍しくもないわ。

人々も水色や黄緑など、様々な髪色をしているから。


赤ん坊でなければ、喋っても何の不思議はない。

街の人々は、あなたの出自なんて知らない。


悪魔の子として、たらい回しにされた事など知らない。

だから赤ちゃんらしく、堂々としてて。

そして大きくて、カッコイイ男に育ってね」


「は……はい、でしゅー」


実際に街の者たちは、岬に住む魔導師がどこからか拾ってきた、子供ぐらいにしか思っていないのである。

お師さまの言う通り、七緒は誰からも恐れられず受け入れられていた。


七緒は街の人々と挨拶(あいさつ)するたびに、自分を見捨てずに育ててくれた、お師さまに感謝する。


「ありがたや、ありがたや」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ